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『魚神(いおがみ)』

『魚神(いおがみ)』
千早茜さん(集英社)

誰かとの関係を保つのはなかなかに難しいことだろう。

10年前まで、私は自身にとって不要だと思う関係はどんどん断つ人間で、連絡不可にしていた。
とにかく苦手な人、嫌いな人との関係を続ける気力も体力もなかったのだ。続けるための持久力より、一時的に瞬発力を使う方が楽だった。
若さに加えて精神疾患の状態が悪かったこともあり、ザクザクと関係を切っていたのもあるだろうとは思う。
今でこそそんなに簡単に関係を断つことはしなくなったけれど。

だからこそ、人間関係を保つことの難しさを痛感する。
人を繋ぎ止めるためには「恐れ」が発生する。「嫌われたくない」「傷つけたくない」「拒絶されたくない」という恐れにより、言動に躊躇いが発生する。
「親しき中にも礼儀あり」という言葉があるが、その礼儀すら、自分から人が離れることに対する恐れから生まれたものだろうと思う。
1人では生きられないから、誰かと生きていくために。
その関係を保つために人は恐れを抱く。

白亜とスケキヨが抱く互いへの恐れも、互いがいなければ生きられないという自分の弱さを自覚し、相手から拒絶されてしまうことへのものだった。

人との関係以外でも、高所や閉所に対する恐怖も生きようとする本能の表れだ。
「恐れ」にはネガティブなイメージがあるけれど、「恐れ」なしには生きていかれないのだ。

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