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若手へのラブレター

濱 慶子
若手パワーアップ小委員会小委員長
株式会社熊谷組
土木事業本部土木設計部グループ課長


突然だが、皆さんがPDCAサイクルの中で最も重要だと思うものはどれだろうか。先日受講した社内研修でのこの問に、私は元気いっぱい「D(Do)」に手を挙げた。しかしこの研修の講師によると、最も重要なのは「P(Plan)」とのことだった。この研修は管理職向けのものであり、プロジェクトの道筋をメンバーに示す「P」が最も重要であると言われれば、なるほど納得である。30人ほど受講していたこの研修で、「D」に手を挙げたのは私を含めてたった2人であった。が、私は「D」を重視する人が大好きである。

現在私は、土木学会の正会員であり、若手パワーアップ小委員会の小委員長を務めている。

土木学会の会員になったのは入社してすぐの頃で、全国大会の年次学術講演会で発表する目的で入会した。ご存知の通り、土木学会の年会費は12,000円であり、私は(実際問題そういう方が多いのではないかと推察するが)発表しない年には会費を納めないこともあった。12,000円もあれば、2~3回飲みに行けるし、気の利いた服や化粧品も買える。旅行に行けばちょっといい宿に泊まれるかもしれないし、美容院にも行ける。こうした人生を輝かせてくれるお金の使い道と比較して、土木学会の年会費を納めることに魅力があると言えるだろうか。

若手パワーアップ小委員会の小委員長としては一貫して、やってみたいことはどんどんやってみようという姿勢で委員会を運営しているが、就任後まもなく委員から出た意見で、返答に困ることがあった。

「やるのはいいけど、何のためにやっているのか分からない」

その気持ちもよく分かる。委員会活動はボランティアであることが多く、活動の生産性や、所属組織へのフィードバックを所属長(上司)に説明できないためである。

しかし私は今、こう思う。

「評論家になるな」、と。

実際に動いてみて、当初の目的とは違うところに効果が出てくることもあれば、やってはみたけれどやっぱり違うな、ということもある。失敗や成功を繰り返しながら前に進んだり、別れ道で選択してみたりすれば良いのではないだろうか。土木工学は経験工学と言われることもあり、通常の業務ではどうしてもベテラン技術者の発言力が大きく、若手は意見を出しにくい。そのような環境の中で若手は、失敗することを過度に恐れるようになってしまった。「C(Check)」をしていれば怒られることが少ないので、評論家になりたがる者が増える。

しかし、そんな業界に未来はあるのだろうか。

というか、おもしろくないだろう。若手よ、評論家になるのはまだ早い。

これを読んでいる上司の皆さんはどうだろう。若手の「D」を応援し、失敗を許容できているだろうか。

しかし一方で、学会活動には「失敗」という概念が無いものと思っている。自身の考えを具現化し、時にリーダーシップを発揮しながら、メンバーと議論を重ね、協力してプロジェクトを進めていく。その中で自分と異なる考えとぶつかることもあれば、通常業務では鍛えられない能力を獲得できることもある。私の場合(傍から見て備わって見えるかどうかは別として)、目標を設定しメンバーを鼓舞するリーダーシップや、(普段は優柔不断なところもあるが)組織としての現状での最適解を選択する決断力を発揮できたように思う。また、組織を統率する中では、メンバー全員の顔を愛おしく思い出されることから、管理職としての視座を獲得したようである。

失敗、叱責を気にせずに活動し、土木について仲間と自由に語り合う場、それが土木学会なのだと思う。そして所属組織に経験を持ち帰り、失敗と成功を繰り返し、挑戦することが自身の成長に繋がるのではないだろうか。

「若手」と呼ばれる年齢を少々(?)オーバーした私であるが、メンバーの活動や議論を見ると頼もしく、土木の未来はそんなに暗いものばかりでもないなと思うし、私自身は若手が気後れせずに発言できる場を守りたい。

若手が元気な業界の未来は明るいはずである。
さぁ、若手の皆さん、明日は何をDoしよう?

土木学会 第190回論説・オピニオン(2023年3月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/