発達障害に優しい・生きやすい時代になってきた説

筆者はASD・ADHDの両方の発達障害を抱えていることは、従前から記してきた通りだ。幼い頃から変わった子、変な奴と言われ続けてきた。
実は幼少期も学童期もそこまでそれによって深刻なトラブル(いじめられる、学校に行けない、中退してしまう等)を抱えたことは無かった。理由はよく分からないが、単純に勉強ができたこととずっと運動をしていて、体が比較的強かったことがあると思う。
問題が出始めてきたのは、大学入学以降である。高校までは決まった時間に起きて、決まった勉強をして、部活に行っていれば良かった一方で、大学入学後はそうも行かなくなるからだ。
大学入学後と社会人生活の序盤は本当に苦しんだ。特に後者は地獄だったと言っても良い。
その一方で、最近では「発達障害の人生の難易度、昔より下がってね?」と感じることがある。
今回は筆者がそう感じる理由と発達障害が持つ特性が時代にどのようにフィットしてきているのかに関して述べてみたい。

結論は以下の点に要約できると思う。
1.発達障害の認知度の向上
2.ジョブ型雇用の進展
3.発達障害が強みとする分野が花形に
4.ワークライフバランスの向上
5.労働市場の流動性の向上
6.人手不足、価値観の多様化に伴い人生の失敗に対する寛容度が高まった
7.出会いの手段の多様化
8.稼ぎ方の多様化

【本編】
1.発達障害の認知度の向上
つい最近までは、発達障害の認知度は低かった。実は筆者がこの言葉を知ったのも過去3年以内の話で、それまでは自分はただの変わった人、なんか人生がうまくいかない人だと思い込んでいた。
何かのきっかけにADHDやASDの症状を読んで、「あれこれ全部自分に当てはまるし、もしかして自分これだった?」と思うようになり、それ以来発達障害の研究に勤しむようになった。
最近では、書店の新書コーナーに行くと発達障害関連の本が溢れている。それだけ世間からの関心も高くなってきているという事であろう。
これまでは、自分は変わっていることは自覚出来ていてもどのように対処すれば良いかが分かっていなかった。それが最近では、そのような書籍を読むことで自分に対する理解度が向上し、適切な対応を取ることが出来るようになってきた。これは大きな進歩だと思う。

2.ジョブ型雇用の進展
筆者の持論であるが、発達障害者は、専門職や職人系の職種と相性が良いと考えている(恐らく世間一般でもそのように考えられているのではないか)。これは発達障害者が抱えるマルチタスクが苦手である点と過集中によるものだ。
これまで日本社会の中心にいたのは、定型発達で金太郎飴のように何でも器用にこなせるタイプの定型発達文系人間であった。それが昨今では、技術の高度化と労働市場の流動性の向上に伴いそのようなタイプは、転職市場では全く評価されず、どちらかと言うと新卒で入社した企業でのみ評価されるようになってきた。
欧米式の雇用慣習が徐々に日本にも浸透してくるようになり、(実態はともかく)ジョブ型雇用が日本でも叫ばれるようになったこともあり、例え発達障害を抱えていても、ある分野のスペシャリストであれば、転職市場、社内の双方で評価が高まっているように感じる。
発達障害者にも社会で活躍する土壌が徐々に出てきているような気がしなくもないし、恐らく今後は更にこの流れが加速するであろう。

3.発達障害が強みとする分野が花形に
昨今、労働市場で花形とされる職業は、IT系、データ関連、サイバーセキュリティ関連であると認識している。(サイバーセキュリティ関連はこれからか?)
いずれもほんの少し前までは、そこまで花形とは見られていなかったような職種だ。金融系であれば、アクチュアリーやクオンツ、IBD更にはアセットマネジメント等の金融専門職に対するニーズも高まっている。
また医療系はいつの時代であっても普遍的なニーズを誇る。
筆者の高校で言えば、発達障害を抱えているタイプは大体工学部や理学部、更には医学部に進学していた。工学部情報系なんかで言えば、ほんの数年前まではオタク系の学生が集まる集団というイメージであったが、今では一番の花形学部と言っても差し支えないであろう。
逆に金太郎飴的なプレイヤーを輩出する法学部を筆頭とする文系学部の人気は低下してしまった。
医療系・IT系・金融専門職系はいずれも発達障害と相性の良い分野だ。(医療系はドロップアウトに強いという観点、金融系は数字に強くないといけないという観点で)
またADHDの強みの一つとして、創造力が豊かでアイデアマンと言われることが多い。まだまだ日本社会は、出る杭には厳しい側面があるが、それでも従来よりは自ら主体的に動き、創造性を発揮するタイプが求められるようになってきている。ある程度新規事業に手を出さないと企業側も対処できなくなってきたのかもしれない。
その点でも発達障害者は自身の強みを活かせるようになってきたように感じる。

4.ワークライフバランスの向上
これは筆者に限った話なのかもしれないが、発達障害の中でも特にASDはいつも緊張しているからか疲れやすい。また睡眠が浅く、体力がもたないという側面を抱えていた。
そのため、あまり長時間労働には向いているとは言えなかった。
ところが昨今では、人手不足を背景に、明らかに企業側がワークライフバランスに配慮するようにもなった。D通事件を背景とした政府側からの要請もあったのかもしれない。また後述するが労働市場の流動性の向上を背景にブラックな職場からはすぐに人材が流出してしまうし、事業が立ち行かなくなる。
更にはコロナを背景に、リモートワークが導入されるようになった。求人を見ていても、リモートワークが可能な職場はそれを積極的に打ち出す等、リモートワークに対する労働者側のニーズはかなり高い。体育会系的な精神で出社を強要してくるような職場には人は寄り付かなくなってきている。
自身の場合を思い返してみても、明らかに昔よりは働きやすくなった。労働時間は短くなったし、時間の融通は効きやすくなったし、有給休暇も取得しやすくなったし、リモートワークも可能になった。
これは全労働者にとって働きやすさ向上につながっているが、特に疲れやすいといった特性を有する発達障害にはポジティブなインパクトを与えていると言ってよい。
またこれは以前の記事でも執筆したが、昨今ではZoomを筆頭に、オンラインでのやり取りも増加した。発達障害者は耳で情報を得ることが苦手と言う弱点を抱えていたが、それもこういった最新の情報技術の発展に伴い解消されつつある。

5.労働市場の流動性の向上
これまでに述べてきたことと関連しているが、人手不足やジョブ型雇用の進展に伴い、昨今では労働市場の流動性が高まっている。
旧来の日本社会では、転職=悪と見なされ、転職者に対する世間の目は厳しかった。今でも転職を重ねすぎていると転職市場ではネガティブな見られ方をすることも多いが、それでも筆者の周りを見ていてもIT系やM&Aのスペシャリスト等、転職市場でニーズの高い専門性を有しているビジネスマンは何回転職していてもそこまでダメージはなさそうに見える。
明らかに転職に対するハードルは下がっていると言ってよいだろう。
発達障害者はどうしても一か所にステイするのが苦手である。
そもそも人間関係でトラブルを抱える、仕事上で失敗を重ねる、飽きてきてしまう等の理由で転職が多くなる傾向がある。
昨今のような労働市場の流動性の向上は明らかに発達障害者にとってはポジティブな話である。

6.人手不足、価値観の多様化に伴い人生の失敗に対する寛容度が高まった
これは転職に対する寛容度が高まったことと同じ現象だと思う。
これまでの日本社会では、社会的にNGとされることが多かった。
浪人、留年、就活失敗、転職、離婚、自己破産、犯罪等人生のレールから外れてしまうポイントは多く存在し、これらを経験している者は人生の落伍者としてなかなか正規ルートには戻れなくなっていた。
現代社会でも自己破産と犯罪者はさすがに浮かばれないだろうが、それ以外の人生の失敗に対しては寛容度が高まっている気がする。
就活に失敗しても第二新卒である程度盛り返すことが出来るし、一定のスキルを身に着けることが出来れば、ベンチャー企業から大企業に転職するハードルも従前よりは低くなった。転職は悪ではなくなりつつあるし、離婚するカップルの増加に伴い離婚・再婚もそれほど珍しいものではなくなった。
例え一度失敗したとしても、そこからやり直す土壌が出来つつあるように感じる(勿論年齢制限はあるが)。
発達障害者はとかく人生で失敗を経験しがちである。
浪人はあまり関係ないかもしれないが、留年や就活失敗、転職、離婚いずれを取っても定型発達の人よりも経験しやすいであろう。
そのような失敗・やらかしに対する寛容度が高まっているという点でも発達障害者には生きやすい世の中になった。

7.出会いの手段の多様化
少し前までは、出会い方のメインとしては職場や合コン等複数人を介しての出会い方がメインであった。発達障害者は職場では浮きがちであるし、合コンのようなチームプレイが要求される場面では発達障害者は強くない。
更に極端な話をすると今の職場では、セクハラ関連のコンプライアンス意識が高まったことで、職場恋愛は難しくなってきている。
その一方で昨今では出会いの形態が多様化している。マッチングアプリ、結婚相談所、婚活パーティー等ある程度単独プレーでも何とかなる出会いの形態が増えてきた。ASDの引っ込み思案では、このような出会いの形態は難しいかもしれないが、ADHDの突破力、行動力、プレゼン力はこのような瞬間風速的な爆発力が要求される出会いの側面ではポジティブに働く可能性が高い。現に筆者はマッチングアプリのような媒介を用いて単独で会う方が合コンや職場よりも得意であった。
出会い方が多様化指してきている点は発達障害者にとってはポジティブに働いていると思われる。

8.稼ぎ方の多様化
最後のポイントになるが、昨今では働き方が多様化するとともに、稼ぎ方も多様化してきている。
今でもやはりメインストリームは大企業の正社員や士業だとは思うが、Youtube等やSNS等のネットビジネスで副業をすることも可能になってきた。
やはりここでも生き方の複線化・多様化が進んでいると思う。
発達障害者でも学歴さえあれば大企業の正社員になることは出来る。
伝統的な大企業も従前よりは働きやすくなったとは言え、それでもどこかで発達障害者は無理をしている側面もあると思う。
その点、副業などで稼ぎやすい時代になったのは発達障害者にとってはポジティブに働いていると考えられる。

結局まとめると、従前よりは価値観が多様化し、人生の生き方の複線化が進んだことで、発達障害者であっても自分が苦手な領域は回避しながら生きることが可能になりつつある。また世間からの認知度が高まったこと、障害(脳の個性)に対する理解度が向上したことで発達障害者自身も適切に対処することが出来るようになった。

もし自分自身が今から何にでもなれるのであれば、発達障害関連の外来クリニックを開業しても良いのではないかと感じている。