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Fintech企業の代表は何故青ヶ島に移住を決めたのか?


はじめに

Twitterなどでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、昨年12月に青ヶ島に移住しました。
Fintech企業の代表である私が、何故青ヶ島に移住を決めたのか?
直接聞かれることや取材依頼も増えているので、今後質問されることがあったらこのnoteをご案内しようと思います。

JPYCと青ヶ島

JPYCは日本円ステーブルコイン発行体最大手で、ブロックチェーン上で1コイン=1円のコインを発行しています。
そのJPYCの社長である私の現在の住所は「東京都青ヶ島村無番地」です。本州から直接行けず、八丈島からフェリーで3時間又はヘリで25分の絶海の孤島です。

何故Fintech企業の代表がそんなところにいるんでしょう?

私は元々青ヶ島に深い縁があった訳ではありません。
数年前、位置情報を使ったリアルワールドゲーム「Ingress」の作戦で八丈島まで2度ほど伺った際に「南に青ヶ島という、行こうと思ってもなかなか行けない島がある」というのは聞いていて、一度行きたいなと思っていました。

青ヶ島村は人口167人の日本で一番人口の少ない自治体です。

私は大学で客員教授をしておりイノベーションを研究しているのですが、「イノベーションが起こりやすいのは人口が少なくて熱量が高い場所ではないか?」と常々考えていました。
また、日本にweb3やDAOの特区が必要だと考えており、人口が少ない村のほうが特区にしやすいとも考えていました。

調べてみると、地方自治法には「町村総会」という制度があり、議会の代わりに村民みんなでDAO的に決めることが法律上は可能です。(戦後も八丈島近くの八丈小島で実例があります)
もし現在の日本でDAO的な自治をやるとしたら180名以下位の人口のところが一番可能性があると考えているのですが、その位の人口の村は実は青ヶ島村のみなのです。

「DAOと言えば青ヶ島、DAOヶ島がじつげんしないかな~」

当時の私はぼんやりとそう思っていました。

DAO+青ヶ島=DAOヶ島?

実は「DAOヶ島」という名前を思いついたのは青ヶ島に行く前です。
Discordなどで「web3系の人が沢山住んでいるDAO的な島があったら引っ越したい!」なんて話を仲間内でして盛り上がっていました。派生して立ち上げた「DAOヶ島プロジェクト」というDiscordチャンネルは1,000人以上の参加があります。
別の人は「島より山で狩りをしたいので、DAOヶ山を作って移住したい」などと話しており、島と山でDAO的に緩く繋がると面白いなあと各々妄想に耽っていたわけです。

そんなこんなで研究的な観点でも青ヶ島には一度行ってみたいと思っていて、初めて訪問することができたのは2022年の2月です。

青ヶ島村公式サイトより

幸運にもヘリの予約が取れたので、羽田から八丈島空港で乗り換えて2時間半で青ヶ島に到着です。

はじめて行った青ヶ島。カルチャーショックでしたね。
何事も現地を見ないと分からないものです。

  1. ネットが速い! 無線で300Mとか出て都心より断然速い! 天国か

  2. 食事が美味しい!かいゆう丸という民宿に泊まりました)

  3. 景色が綺麗すぎる! 360度海原が見える大凸部、綺麗すぎる星空など

  4. 若くて活力がある!(平均年齢40歳)

  5. 火山の噴気を使った天然温泉サウナ300円!

  6. みんな複数の仕事をしていてDAO的に働いている!(兼業が基本)

ああ、こういうところでイノベーションが起こるんだなあと思いました。

青ヶ島は上場企業の社長も2名輩出してますし、有名デザイナーのしのはらともえさんや某省庁のTOPのご実家も青ヶ島みたいです。人口比を考えると凄いことです。
農業・漁業・畜産業、青酎や塩の工業、民宿やデジタルといった3次産業まで160人強で全ての産業を回している、まさに島全体からラボのような雰囲気を感じました。

青ヶ島の昔話を聞くと、東京なんですが東京では考えられないようなことばかりです。
海が荒れると船が着かず選挙ができないので、青ヶ島の人は戦後しばらく選挙権が無かったこと。
車が無くてはしけで運んだ荷物を牛で集落まで運んで家を建てていたこと。
電気が無くて月明りで勉強したこと。
「還住(かんじゅう)」という江戸時代に噴火で一度無人島になってから戻ってきた歴史があり、島を無人島にしたくないという想いは共通していました。

お金を払っても人に頼むことができず、自分達で助け合ってなんとかするという文化があり、島の人は驚くほど様々な生活スキルを持っています。
物が足りないからこそなんとかあるものを組み合わせて作ろうとする。だから新しいものが生まれるんですね。
余談ですが人が住んでいる地区は偶然にも「岡部地区」と言って、岡部姓の人はいないのですがとても歓迎されているような気がしました。

ただ、課題としては不動産屋が無く、島外から引っ越そうとすると家が見つからないのでほとんどの人が断念するという話を聞きました。
(村役場の仕事で来れば村営住宅に優先的に入れるからそちらをオススメされましたが、私は起業家なので無理です)

一度の体験でとても好きになり、将来的な移住を視野に準備を進めることにしました。

青ヶ島には金融機関がない?

その頃(2022年春)JPYCを取り巻く環境としては、規制が強化されて将来的に銀行でないとステーブルコインが発行できなくなるのではないかという噂が流れてきました。
改正資金決済法/銀行法の審議が行われていて、JPYCも国会審議に登場します。
(完全に偶然なんですが)青ヶ島にも旅行に来たことがある国会議員がステーブルコインやJPYCについて国会で質問をしているのを眺めていると、「そういえば青ヶ島には金融機関が郵便局しかないぞ!」と思いだしました。

島の人は家を建てる時や船を買う時も金融機関からお金を借りることができず、無尽等で親戚同士融通しあうなどしていました。
(離島は補助金が手厚いのと、工事や親戚の仕事を手伝えば食べていけるのでどうにかまわっている感じ)

調べると青ヶ島では小さすぎて金融機関の経営が成り立たないことがわかりました。

しかも農協は解散、漁協は人的組合で信用事業が行えない、水産業協同組合は無し。
辛うじて極一部の人が公庫等から借りていますが、貸すほうも現地調査が採算合わないので大変です。

なんとかしたい! 私やJPYC社員の能力が何か役に立つのではないか?

一方でJPYCでは、金融機関のライセンスが必要になった時に備えて銀行設立の調査をしていました。

  • 銀行設立のためには、資本金100億円以上で実質2-300億円は資本が必要

  • 信用金庫や信用組合は40年新設が無いし、地区の問題で営業できるエリアがかなり限られる

うーん、きつい!

上述したように、青ヶ島は日本で一番小さな自治体で、平均年齢も若く、ネット環境も充実しています。これらは全てDAOを構成するのにとてもふさわしい環境です。進化し続けるFinTech企業の経営者として、またイノベーションを研究する者としてとても魅力的です。

地域共通の課題として「金融機関が必要」というのであれば、何かできないだろうか……。

そこで、青ヶ島で漁協を活用するか、または水産加工業組合を作れば信用事業としての為替取引が可能ではないか? と閃きました。

JPYC卒業生のあるやうむ社がふるさと納税にNFTを活用している事例もありますし、いくつかの地銀や地方自治体からも「地域通貨にJPYCの技術を活用できないか」という相談もありましたので、この部分でも我々のWeb3技術やステーブルコイン発行・運用の知見を活用できるかもしれません

金融包摂に取り残された青ヶ島村だからこそ、金融機関設立は村民の賛成が得られるのではないか? と夢が広がります。

水産加工業組合のコイン発行で我々がお手伝いするのであれば、JPYCの海版「JPY Sea」では? というアイデアも出てきました。
(実際にその後成立した改正法と内閣府令で農協、漁協、水産加工業協同組合でステーブルコイン発行ができることが明記されました)

青ヶ島で佐々木村会議員と

その頃DAOのメンバーは各自青ヶ島に旅行して移住を検討したり、家を建てる為の計画に協力したり各々動いていました。
中でも大学生のなるみんさんには村長に紹介してもらい、休業中の民宿の人に繋いでいただいたところ、なんと休業中の民宿と母屋を移住検討している人向けに貸して頂けることになりました!

さっきも書きましたが、青ヶ島には家が足りていないので、このタイミングを逃すといつ住めるようになるかわかりません。
また、青ヶ島で金融機関を設立する計画を進める為にも拠点が必要です。
そこでとりあえずシェアハウスの部屋をおさえて青ヶ島と東京を行き来することにしました。

YouTube「青ヶ島ちゃんねる」より

ブルーエコノミー推進室を設置

2022年9月には取締役会で、青ヶ島でブルーエコノミーに関わる実業を行いつつ金融機関設立を目指す為の調査を行うこと、ブルーエコノミー推進室を設置することを決議し、併せて「JPY Sea」の商標を出願したこと等を発表することができました。現在は調査フェーズから実際の準備に移行しつつあります。

日本円ステーブルコインのJPYC|新たにブルーエコノミー推進室を設置し、『JPY Sea』の商標登録を出願いたしました

https://jpyc.co.jp/news/posts/BlueEconomy

JPYCはこれからも日本円ステーブルコインの発行を通じて社会のジレンマを突破するというミッションを実現する為に突き進んでいきます。

その際の重要な一つ目のステップが「資金移動業によるステーブルコイン発行」で、二つ目のステップが「ステーブルコイン発行金融機関の設立」です。

投資家の方にも「実験事業として、金融機関が存在しない青ヶ島での社会課題解決に取り組みたい」「そのためにJPYCが組合員となり設立する協同組合金融機関によるステーブルコイン発行を進めていく」「青ヶ島での知見をJPYC本体でのステーブルコイン発行事業にも生かしていきたい」とご説明しています。

水産加工業共同組合設立準備のため(?)、私も小型船舶操縦免許を取得し、青ヶ島にいる時には漁師の見習いをしています。

YouTube「青ヶ島ちゃんねる」漁師に密着取材【衝撃映像】より
小型船舶操縦免許証です!

使いやすい日本円ステーブルコイン発行のために

青ヶ島村に本店を置く水産加工業組合が発行するステーブルコインにより離島の金融包摂が成し遂げられ、地域が発展していく日を目指して、準備を進めつつあります。まずは目の前の前払式支払手段や資金移動業による日本円ステーブルコインの発行流通を伸ばしてまいります。

また、青ヶ島の漁業振興の為にも未利用魚をひんぎゃの塩で加工した干物や塩漬けといった製品を作り、NFTをふるさと納税返礼品にして収益化できないか調査を進めております。水産加工業への参入です。JPYC / JPY Seaを活用したブルーカーボンクレジットマーケットの創出なども考えられます。
こちらは幸いにも農水省のビジネスプランコンテストINACOMEでファイナリストに選ばれております。

日本円ステーブルコインのJPYC|農林水産省主催「令和4年度 INACOMEビジネスコンテスト」で特別賞を受賞

https://inacome.jp/business-contest/final

JPYCが資金移動業でステーブルコインを1兆円発行した場合(USドル建のステーブルコインはすでに20兆円以上発行されていますので、決して夢物語ではありません)、金融機関保証だけでも単純計算で年間100億円程度が金融機関に流れます。
そのうち一部を青ヶ島の協同組合金融機関に保証して頂ければ、協同組合を銀行に組織変更する収益性は出せるのではないでしょうか。
それ以外で水産加工業組合が稼ぐプランも色々思いついているのですが、設立前なので控えたいと思います。

銀行は本体では水産加工業ができないけど、水産加工業組合は金融機関と基本的には同じ業務ができます。
ここでアドバンテージが出せると他社の銀行ステーブルコインとの競争においても勝てると確信しています。

現在取り扱っている自家型前払式手段は、間もなく第三者型前払式支払手段に移行する予定です。同時に、資金移動業の取得と電子決済手段等取引業の登録を目指した準備を始めつつあります。そして、青ヶ島発の水産加工業組合とそこが持つ資金・為替機能を手にする準備も始めていますので、近い将来、電子決済等取扱業の登録も行うことで、金融機関との提携も出来るようになれば、JPYC社として幅広く多くの皆様にステーブルコインとしてのサービスを提供できるものと考えています。

これからも、宜しくお願いします。

さいごに

青ヶ島発の金融機能を活用したステーブルコインは、私が起業家人生をかけて練りに練った、真に使いやすい日本円ステーブルコインを徐々に広げていける道だと確信しているプランです。スタートアップの立場から、地方からつくる新しい経済活性の実現に向けてチャレンジしてまいります。皆様のご支援を賜りますようお願いいたします。


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