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詩集や詩作品の紹介、鑑賞。
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#隅田有

隅田有 挿画とともに自作を語る6:「日時計」

隅田有 挿画とともに自作を語る6:「日時計」



『日時計』の萌えキャラ、牧神サマ。またしてもバレエ・リュスで活躍したダンサー、ニジンスキーの『牧神の午後』と、ギレルモ・デル・トロ監督映画『パンズ・ラビリンス』のパンと、ジョージア・オキーフの描いた牛の骨が合体して、最終形態はなにやらエイリアンみたい。

「日時計」

花畑はクローゼットの中
土の匂いに湿っていた
壁ぎわ、梅毒病みの牧神が酔いつぶれ
崩れた鼻にタンポポの綿毛をはりつけ
二階の寝

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隅田有 挿画とともに自作を語る5:「PeRmanent ADdreSs LOST」

隅田有 挿画とともに自作を語る5:「PeRmanent ADdreSs LOST」



「PeRmanent ADdreSs LOST」の大文字部分は、ミルトンの『失楽園(Paradise Lost)』にかけています。イスラエルを旅行した際、パレスチナとの間を隔てる高い壁に衝撃を受けました。自分の育った街に分離壁が絶対にできないとは限らない。もしも壁ができたとして、私はそれに適応できるだろうか、と考えたことが詩を書くきっかけになりました。私が生きている間にも新しい国ができたり、新

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隅田有 挿画とともに自作を語る4:「スライドショー」

隅田有 挿画とともに自作を語る4:「スライドショー」



バレエ作品のイメージが加わっている詩は他にもいくつかあります。「スライドショー」を書いている時は、バレエ・リュスの代表作の一つ『ペトルーシュカ』が頭の片隅にありました。魂を持ってしまった藁の人形の悲劇が描かれるシュールな作品で、ストラヴィンスキーの音楽が使われています。

「スライドショー」

藁の人形が燃えた
白ペンキの家が燃えた
裏庭は海に続いていた
夏至の夕暮れ
突風はスパイラルを描き

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隅田有 挿画とともに自作を語る3:「グレッチェン」

隅田有 挿画とともに自作を語る3:「グレッチェン」



『グレッチェン』は『ファウスト』のグレートヒェンを意識してつけたタイトルです。そこにバレエ『ジゼル』のイメージをのせています。村娘ジゼルは身分を偽った貴族の男と恋に落ちますが、男には同じ身分の婚約者が。それを知ったジゼルは、もともと身体が弱いことも災いして、ショックで命を落とします。しかし後半は精霊となって蘇り、悔やむ男を許して、仲間の精霊から殺されそうになる男を助けるというストーリー。ハイネ

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隅田有 挿画とともに自作を語る2:「路地」

隅田有 挿画とともに自作を語る2:「路地」



『クロッシング』はラストの「路地」を生かす為に、能の五番立で編みました。「路地」は切能を意識して書いた詩で、笛やら里女やら鬼やら日暮れやら、能のフラグをばんばん立てています。本作の前シテ部分では「私=ワキ」ですが、終盤になって更に「ワキ=シテ」であることが判明します。これは実際の能の舞台では不可能な仕掛けで、詩でやる能だからこそ可能です。救いようのない自己完結性を「ワキ=シテ」の構図で表してみ

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隅田有 挿画とともに自作を語る1:詩集『クロッシング』

隅田有 挿画とともに自作を語る1:詩集『クロッシング』



ダンスが好きで、二十歳までは自分でも踊っていた。今はバレエを中心に舞踊批評を書いている。ダンス作品には物語があるものも、ないものもある。ストーリーはないが、ある種のテーマ -生命力、瑞々しさ、官能、狂気などなど-を、絶妙に捕らえているものもある。数学的な美を思わせる、代数幾何のエレガントな解のような作品もある。表現の幅は広いが、同時にダンスは「説明」が苦手だ。言葉を使わないがゆえの制約がある。

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隅田有『クロッシング』:永遠の「よそ者」のためのパスポート

隅田有『クロッシング』:永遠の「よそ者」のためのパスポート

昨年、雑誌「びーぐる」31号の「土地の詩学」特集で、僕は隅田有の詩について次のように書いた。

この文章の最後を、私が読んだ限りもっとも新しいタイプの「地名詩」であると思われる作品で締めくくろう。隅田有の「ナリヒラ」である。その冒頭部分。

肉襦袢のような気泡緩衝材 もしくはプチプチ
好きなだけ潰しなさいって陽気にお前
いっこ潰しては雨上がりの白玉
またいっこ潰してはサクランボゼリー
次々と発送さ

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