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詩集や詩作品の紹介、鑑賞。
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#川口晴美

ファシズムの夏:その3 ウンベルト・エーコ 『永遠のファシズム』

ファシズムの夏:その3 ウンベルト・エーコ 『永遠のファシズム』

『ぼくの兄の場合』を読みながらの日本滞在中、新宿紀伊国屋書店に秋山清の著作を買いに行ったのは、イタリア文学者の和田忠彦さんと対談をする当日だった。対談は「現代詩手帖」の主催によるもので、僕が去年に同時刊行した二冊の詩集『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』と『小説』をめぐる話だったが、『単ぼた』の方は政治的なプロテスト・ソングという性格の詩集なので、自然と日本の近・現代詩における叙事的な詩、社会性や

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「日本ノ詩」の到達点 川口晴美『Tiger is here』

「日本ノ詩」の到達点 川口晴美『Tiger is here』

今年の夏、日本の詩の流れを明治初から戦後まで辿ってみて気付いたのは、近代詩が浪漫主義的な抒情を引き受ける一方で、小説が自然主義的な社会性や思想性を受け持つと云う一種の分業制だった。詩は<私ごと>に専念し、<公のこと>は小説に任すと云う割切りが、プロレタリアート詩や戦争賛美詩、その反動としての戦後の荒地派の詩といった例外はあるものの、今日にいたるまで凡そ認められる。『新体詩抄』で「日本ノ詩ハ日本ノ詩

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