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詩集や詩作品の紹介、鑑賞。
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#詩集

溶かす眼球 蜂飼耳『顔をあらう水』を読む

溶かす眼球 蜂飼耳『顔をあらう水』を読む

奇妙なタイトルである。飲む水でも流れる水でもなく、顔を洗う水。表題作ではそれが「顔をあらう水がほしい」となる。なぜ?「ねぼけてる」と書いてある。「ねむるための闇が軽くなり/(わたし(たち)は)薄くなる」という。ねぼけた顔を水で洗って、しゃきっとしたいのだ。飛行中の窓から見る「富士の高嶺」が「氷菓子」に見えるしい。「取り返しがつかない」ともある。なにが?分からない。

「えがかれたことのない心が/眼

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「日本ノ詩」の到達点 川口晴美『Tiger is here』

「日本ノ詩」の到達点 川口晴美『Tiger is here』

今年の夏、日本の詩の流れを明治初から戦後まで辿ってみて気付いたのは、近代詩が浪漫主義的な抒情を引き受ける一方で、小説が自然主義的な社会性や思想性を受け持つと云う一種の分業制だった。詩は<私ごと>に専念し、<公のこと>は小説に任すと云う割切りが、プロレタリアート詩や戦争賛美詩、その反動としての戦後の荒地派の詩といった例外はあるものの、今日にいたるまで凡そ認められる。『新体詩抄』で「日本ノ詩ハ日本ノ詩

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