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2019年3月の記事一覧

小池昌代の〈詩と小説〉: 『影を歩く』を読む その3

小池昌代の〈詩と小説〉: 『影を歩く』を読む その3

『影を歩く』では、小説と小説の間に詩が挿入され、小説の中にも詩があるのだが、その一方、詩の中に小説の素が編み込まれてもいる。たとえば第二章の冒頭に置かれた「二重婚」という詩(それにしてもすごいタイトルをつけたものです)のこんな一節。

すでに十分老いたあなたは
新しいことができなくなった
しかしかすかに残る
性欲をもえたたせ
小鳥とともに歌う
タクトを振り
あの第二バイオリンの若い女を
欲しいと思

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小池昌代の〈詩と小説〉: 『影を歩く』を読む その2

小池昌代の〈詩と小説〉: 『影を歩く』を読む その2

生活から出ていかなければならない。その感覚は、小池さんの作品のなかではいつも突然の不意打ちとしてやってくる。『影を歩く』の第三章に入っている「水鏡」(短編小説)はその典型だ。

荒れている高校生の娘の部屋に『土佐日記』が投げ出されているのを「わたし」は見つける。拾い上げて、頁を捲り、貫之の「影見れば波の底なるひさかたの……」の歌を読みながら海の底を思う。「わたし」は夫を船の事故で亡くしているのだ。

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小池昌代の〈詩と小説〉:『影を歩く』を読む

小池昌代の〈詩と小説〉:『影を歩く』を読む

昨年末、小池昌代さんと公開トークを行う機会があった。それぞれの新刊を持ち寄って話し合うという企画。僕の本は『前立腺歌日記』、そして彼女の本が『影を歩く』だった。もっとも僕がドイツを出発する時点で『影を歩く』はまだ手元に届いていなかった。いま奥付をみると発行日は2018年12月11日となっている。最終ゲラをPDFで送ってもらい、僕はそれをiPadで読みながら日本行の飛行機に乗ったのだった。

『前立

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サルマン・ラシュディ、イタロ・カルヴィーノを朗読する

サルマン・ラシュディ、イタロ・カルヴィーノを朗読する

先日ニューヨーカー誌のポッドキャストを聴いていたら、サルマン・ラシュディがイタロ・カルヴィーノの短編を朗読するという。題名は、「Love Far from Home」。聴いているうちにどこかで読んだような話だと思い始めて、本棚を調べてみると、やっぱりそうだ。和田忠彦さんが訳している「愛ー故郷を遠く離れて」ではないか。岩波文庫の『魔法の空・空を見上げる部族」で一読して深い感銘を受けた覚えがある。

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