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詩集や詩作品の紹介、鑑賞。
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2017年10月の記事一覧

隅田有 挿画とともに自作を語る6:「日時計」

隅田有 挿画とともに自作を語る6:「日時計」



『日時計』の萌えキャラ、牧神サマ。またしてもバレエ・リュスで活躍したダンサー、ニジンスキーの『牧神の午後』と、ギレルモ・デル・トロ監督映画『パンズ・ラビリンス』のパンと、ジョージア・オキーフの描いた牛の骨が合体して、最終形態はなにやらエイリアンみたい。

「日時計」

花畑はクローゼットの中
土の匂いに湿っていた
壁ぎわ、梅毒病みの牧神が酔いつぶれ
崩れた鼻にタンポポの綿毛をはりつけ
二階の寝

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隅田有 挿画とともに自作を語る5:「PeRmanent ADdreSs LOST」

隅田有 挿画とともに自作を語る5:「PeRmanent ADdreSs LOST」



「PeRmanent ADdreSs LOST」の大文字部分は、ミルトンの『失楽園(Paradise Lost)』にかけています。イスラエルを旅行した際、パレスチナとの間を隔てる高い壁に衝撃を受けました。自分の育った街に分離壁が絶対にできないとは限らない。もしも壁ができたとして、私はそれに適応できるだろうか、と考えたことが詩を書くきっかけになりました。私が生きている間にも新しい国ができたり、新

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隅田有 挿画とともに自作を語る4:「スライドショー」

隅田有 挿画とともに自作を語る4:「スライドショー」



バレエ作品のイメージが加わっている詩は他にもいくつかあります。「スライドショー」を書いている時は、バレエ・リュスの代表作の一つ『ペトルーシュカ』が頭の片隅にありました。魂を持ってしまった藁の人形の悲劇が描かれるシュールな作品で、ストラヴィンスキーの音楽が使われています。

「スライドショー」

藁の人形が燃えた
白ペンキの家が燃えた
裏庭は海に続いていた
夏至の夕暮れ
突風はスパイラルを描き

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隅田有 挿画とともに自作を語る3:「グレッチェン」

隅田有 挿画とともに自作を語る3:「グレッチェン」



『グレッチェン』は『ファウスト』のグレートヒェンを意識してつけたタイトルです。そこにバレエ『ジゼル』のイメージをのせています。村娘ジゼルは身分を偽った貴族の男と恋に落ちますが、男には同じ身分の婚約者が。それを知ったジゼルは、もともと身体が弱いことも災いして、ショックで命を落とします。しかし後半は精霊となって蘇り、悔やむ男を許して、仲間の精霊から殺されそうになる男を助けるというストーリー。ハイネ

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隅田有 挿画とともに自作を語る2:「路地」

隅田有 挿画とともに自作を語る2:「路地」



『クロッシング』はラストの「路地」を生かす為に、能の五番立で編みました。「路地」は切能を意識して書いた詩で、笛やら里女やら鬼やら日暮れやら、能のフラグをばんばん立てています。本作の前シテ部分では「私=ワキ」ですが、終盤になって更に「ワキ=シテ」であることが判明します。これは実際の能の舞台では不可能な仕掛けで、詩でやる能だからこそ可能です。救いようのない自己完結性を「ワキ=シテ」の構図で表してみ

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隅田有 挿画とともに自作を語る1:詩集『クロッシング』

隅田有 挿画とともに自作を語る1:詩集『クロッシング』



ダンスが好きで、二十歳までは自分でも踊っていた。今はバレエを中心に舞踊批評を書いている。ダンス作品には物語があるものも、ないものもある。ストーリーはないが、ある種のテーマ -生命力、瑞々しさ、官能、狂気などなど-を、絶妙に捕らえているものもある。数学的な美を思わせる、代数幾何のエレガントな解のような作品もある。表現の幅は広いが、同時にダンスは「説明」が苦手だ。言葉を使わないがゆえの制約がある。

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2017年上半期の詩集から:野村喜和夫

2017年上半期の詩集から:野村喜和夫



ジェフリー・アングルス『わたしの日付変更線』(思潮社)

ジェフリー・アングルスはアメリカ中西部オハイオ州に生まれたアメリカ人である。長じて、日本文学を専攻する研究者となり、さらには、なんと日本語で詩を書くようになった。本書はその第一詩集だが、いきなり読売文学賞の栄誉に輝いた。いかにインパクトのある、かつまた、感動的な詩集であるかがわかろうというものだ。

全体は「西へ」「東へ」「過去へ」「現

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