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おすすめの本〜アルコール関連2冊〜

今回おすすめする本は、アルコール依存症関連の2冊です。
どちらも、とっても気軽に手に取れる本です!


だらしない夫じゃなくて依存症でした

こちらは、さまざまな依存症(アルコール、薬物、ギャンブル)の人とその家族の、苦悩と葛藤の日々、回復までの道のりを描いたマンガです。このマンガは、厚生労働省 依存症対策推進室による2018年度の依存症普及事業の一環として掲載されました。

第一話は、アルコール依存症の夫とその妻の物語から始まります。第二話以降、妻は、薬物依存症やギャンブル依存症の過去をもつ知人との関わりを通して、依存症患者への家族としての接し方、家族自身のケアについて学んでいきます。
作者のnoteでも公開されていますので、まずはこちらで試し読みもできます!

わたしたち病院総合医は、アルコール多飲による健康障害を抱えた患者さんを診療する機会はたくさんありますが、いつも見ているのは診察室や病室にいるときの患者さんで、一面だけです。
ご自宅や職場で、どのような苦悩を抱えているのか、習慣を変えていくのにどのような困難があるのか、どのような心のゆれ動きがあるのか。もちろん人によって異なりますし、患者さんごとに直接お話を伺う必要がありますが、一般論として理解を深めるのに役立つでしょう。
一般の方向けに描かれたマンガなので、医学用語は日常使いする言葉に置き換えられています。医療者が患者さんやご家族に依存症について説明する際、その言葉の選び方の参考になるかもしれません。

現在、Kindle版で1話〜8話まで無料公開されていますので、まず1話だけでも読んでみてください。全話有料版もあります。

ぼくらのアルコール診療

2冊目は、総合診療医向けの本で、複数の総合診療医と、複数の精神科医によって書かれています。(文庫本よりやや縦長、くらいのサイズです)

生涯でアルコール依存症に罹患する人は約1%(107万人)といわれており、(尾崎米厚:アルコールの疫学―わが国の飲酒行動の実態とアルコール関連問題による社会的損失.別冊・医学のあゆみ アルコール医学・医療の最前線UPDATE:43-47, 2016.)依存症の診断に至らずともアルコール関連の問題を抱える患者さんは多く、精神科医だけですべての診療を担うことは到底できません。

わたしたち病院総合医はアルコール関連の身体疾患を診療する機会が多いです。問題のある飲酒かどうかスクリーニングする役割、アルコール依存症の疑いのある患者さんを適切に精神科へつなげる役割、精神科での治療が続いても続けられなくても、かかりつけ医として患者さんに寄り添い、行動変容をサポートしていく役割があります。
病院総合医がその診療の一部を担うには、まず正しい知識を持つことです。アルコール関連の問題を抱えた患者さんで対応が困難だった経験があると、なおさら敬遠しがちですが、よりよい対応方法を知れば、その苦手意識も拭えるかもしれません。

前半では、非専門医の介入方法のひとつとして、ブリーフ・インターベンション(brief intervention:BI)が紹介されています。
BIは、生活習慣の行動変容を目指す短時間の行動カウンセリングで、以下の特徴があります。

  • 断酒ではなく飲酒量の低減を目標とする

  • 依存症の専門家ではなく、主にヘルスケア従事者によって行われる

  • アルコール依存症にまで至っていないもののアルコール問題を抱える人を対象とする

BIでは「feedback(スクリーニングテストなどによって飲酒問題およびその程度を客観的に評価し、このまま飲酒を続けた場合にもたらされる将来の危険や害について情報提供を行う)」、「advice(飲酒を減らしたり(減酒)、やめたりすれば(断酒)、どのようなことを回避できるか伝え、そのために必要な具体的な対処法について、助言やヒントを与える)」、「goal setting(本人が7〜8割の力で達成できそうな具体的な飲酒量低減の目標を自ら設定してもらう)」の3つが主な構成要素となる。

ぼくらのアルコール診療 Ⅰ これだけは知っておきたい! 4. スクリーニングとブリーフ・インターベンション(25ページ)

病院総合医としてぜひ基礎スキルとして身につけたいですね。

後半は「お困りシチュエーション別!クイック・リファレンス」です。とてもわかりやすく実践的で勉強になります。具体的には、

  • 症例提示

  • やりがちな対応(NGな対応)

  • 理想の対応

の順に構成されており、全部で32ケース掲載されています。
例えば、

非専門医がどこまで診断していいの?本人に「依存症」って伝えていいの?
家族には同席してもらったほうがいい?
具体的な減酒の方法って?
別れ際のひと工夫ってあるの?
家族がお酒を買ってきてしまう
精神科紹介を本人に拒否された
治療意欲がみられないと精神科に断られてしまった…
ノンアルコールビールを勧めていいの?
・・・

ぼくらのアルコール診療 目次より抜粋

などです。
読んでいて、「やりがちな対応」を自分もやっていたな…と反省しました。
理想の対応として、「使えるフレーズ」が紹介されており、(これなら非専門医の自分でもできるかも!)と思えます。

この本では、医療者側の「アルコールに関するネガティブな感情」との付き合い方にも触れられています。
とくに印象的だったのは、108ページの長 徹二先生のcolumnです。

依存症治療は何回再飲酒しても回復することができる
「何回入院しても治りませんよ!」、アルコール依存症を抱える人のご家族ならまだしも、医療関係者からも聞こえてくる言葉である。専門医療につながっても、長期間断酒を継続できる方は20〜30%であり、まだまだ信用を勝ち得ていないアルコール医療にかかわる立場として、大きなことはいえないが、1つだけ知っておいてほしいことがある。それが表題の「何回再飲酒しても回復することができる」である。
〜中略(31回の入院を経てやっと6ヶ月間断酒できているという体験談を家族から聞いたエピソード)〜
 治療において、何回再飲酒しても、そのことを正直に、安心して話せる場所が1つでもあれば、回復できると信じている。

ぼくらのアルコール診療 Ⅱお困りシチュエーション別! クイック・リファレンス A. 一般外来

今回わたしがこのアルコール関連2冊を読もうと思ったきっかけは、自分の友人の中に、とても心配なお酒の飲み方をしている人(AUDIT 15点以上)がいたからでした。ついつい正しいことを言って、行動を正そうとしてしまいがちですが、むしろこれは悪手。どうすれば、適切な飲酒習慣に行動変容していけるのか、どんなサポートをしたほうがいいのか、勉強しないと、と思ったのでした。
もちろん読んだだけですぐできるようになるわけではないのですが、わたしも「正直に、安心して話せる場所」の一つになれるよう、日々研鑽していきたいと思います。

お知らせ〜日本プライマリ・ケア連合学会学術大会シンポジウム(オンデマンド配信企画)〜

今回のおすすめ本にも関連する企画を紹介します。

 JPCA若手医師支援部門病院総合医チームでは、2024年6月7日(金)~9日(日)に開催される第15回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で【アルコール使用障害、生活保護、知的障害をもつ患者の主治医になろう】と題したシンポジウム(オンデマンド配信のみ)を企画しています。
 普段、上記の患者を診療するときに、患者や家族との関わり方や他職種との連携のしかた、関連制度や法律、書類関係など、困った経験をされた方は多いのではないでしょうか。今回は下記の専門家をお呼びして実臨床で困る点を中心にレクチャー、ディスカッションを行い、苦手意識を払拭して積極的に関われるようになることを目標としています。

〇金子昌裕先生(公益財団法人復光会 垂水病院 依存症治療拠点機関)
〇橋本恵一さん(NPO法人 ささしまサポートセンター 障害者グループホーム 博愛の宿 規俊荘 管理者) 

日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師支援部門 病院総合医チーム:jpcahospitalmed@gmail.com

(文責:平松 由布季 Ubie株式会社/東日本橋内科クリニック)
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