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点描の唄 Mrs.GREEN APPLE

 ある音楽イベント※でMrs.GREEN APPLEの「点描の唄」を聴いた。あまりに感動的なバラードで泣いた。音楽を聴いて泣いたのは何年振りだろう。
 イントロ。
 これから感動的なストーリーが始まる予感をイメージさせる短く静かなピアノのリフが繰り返される。隣の薄緑色のタオルを持ったミセスファンの女性が「点描?ヤバ」と言った。僕には意味が解らない。約2万人の観客の驚きと喜びの歓声が湧いた。「キャー」という甲高い声も大きく響く。
 終演後に知ったのだがこの曲がライブで演奏されるのは約4年振りだったとのこと。しかもファン(ミセスのファンネームはJAM'S)にとっては思い入れの深い人気曲で待望の演奏だったわけだ。
 この曲はデュエット曲で歌い出しは女性。歌い出したのはNiziUのミイヒ。そう、このイベントはMrs.GREEN APPLEとNiziUの対バン。本来はシンガーソングライターの井上苑子と大森元貴のデュエットなのだがこの日、大森と歌ったのはNiziUのボーカル組、ミイヒとリク、ニナだった。
 歌い出しと同時にライトが当たり、スクリーンに映し出されるミイヒ。また驚きの歓声が起こる。NiziUで一番感情表現に優れるミイヒが「あなたの声で解れていく…」と歌い出すと、戸惑っていた僕の気持ちが一気にスーッと解れ、落ち着きを取り戻す。JAM'Sがどう思ったのかは解らない。大森のソロで聴きたかった人もいただろう。ただ、隣のJAM'Sは聴き入っていた。
 リク、ニナが続き、「強がらないでいいよ」と大森の観客全員を慰めるような優しいボーカルが始まる。その後、稀代の超絶ボーカリストとNiziUの掛け合いやハーモニーが続く。
 大森元貴作のメロディはもちろん、歌詞が素晴らしい。「素晴らしい」だと評価みたいだから「好き」にしよう。個人的に「解る歌詞」より「想像させる歌詞」が好きだ。「謎解き」のような。さらに「現在」より「時間」を感じることができる歌詞が好き。歳のせいだろう、恋愛の歌が心に響かなくなって久しい。でもこの「限りある恋」の歌は何度聴いても感動的だ。何故だろう。この曲は「現在」も「時間」も感じさせてくれる。2人で過ごした時間、残り少ないこれから過ごす時間が愛おしく、それを思う現在が切ない。その切なさが自分のことのように心に痛い。
 素敵な歌詞の一つ。「好いている」という言葉選び。字数的には「愛してる」と同じだから普通だったら後者を選ぶのだろうが、この「好き」から、この壮大なバラードがぐっと身近になるのを感じる。そう、これは歌詞にもあるように「愛」ではなく「恋」の歌なのだ。青春という季節を切り取ることはミセスの真骨頂と言っていい。
「♪当たり前が壊れることに 気づけないくらいに子供だけど ちゃんと僕は貴方を好いている」
最もお気に入りの部分。ここは大森の超高音にメインボーカルのニナが透き通る声で絡んだ。
 ラスト。
「♪終わるな 夏よ、終わるな」
リクが全くブレないどストレートの声で主旋律を歌い、大森が下から支える。そうか、夏の歌だったんだ…それとも人生の中で一番キラキラした時期を夏と言っているのだろうか。最後のワンフレーズでもまだ解らない。「♪どこまでもどこまでも鈍感な僕」の謎解きは続く。
 初めて聴いた曲で泣いたのは初めてだった。いや、感受性が強かったこのストーリーの主役の二人のような年頃にはあったのだろうか。
 ライブ後、僕はこの曲ばかり聴いている。そらで歌えるほど。井上苑子バージョンもとてもいい。
 会場の歓声と拍手は鳴り止まない。隣のJAM'Sは時間をかけてタオルで顔を拭い、また「ヤバ」と言った。  



※2024年4月13日(土)Kアリーナ横浜 テレビ朝日開局65周年記念「The Performance」DAY2

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