あおいぶるう🎶

元物書きもどき。ほぼ投稿のためだけのアカウント。訳ありで今は日の目を見ない運良く賞を頂…

あおいぶるう🎶

元物書きもどき。ほぼ投稿のためだけのアカウント。訳ありで今は日の目を見ない運良く賞を頂いたいくつかの拙作、iBook・シーモア等から販売されていた凡作等を投稿します。設定が古いものもありますが、何処かの誰か一人にでもご一読頂ければ。ジャズ中心の音楽に纏わるショートエッセイも時々。

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【短編小説】きききの吊り橋

 ねえ、そのタイムトンネルを通り抜ければ、あの日に戻れるのかな。  汽笛に僕は意外なくらい驚き、電車はトンネルに入った。その驚きを静める間も無く明るさは戻った。トンネルは三つあって、どれも5秒位の短いトンネルだった。驚いたのは僕が少し緊張してたからだろう。車窓からの風景は、東西の低い山並みに挟まれた狭い町っていう感じ。小さな川が線路と並行して流れてる。手が届きそうなほど近付いた山々には5月初旬の新緑の中、川岸の所々に濃いピンクの桜が見える。東京はもう初夏だけど、ここにはまだ

    • 【小説】レフトアローン(第4,最終話)

      第19章 祷り  「主役が外れて大丈夫か?」と和哉が心配して聞いた。  「大丈夫。文香が上手くやってくれる」と言って隆次は先にパブを出た。それに付いて行く形で啄郎と和哉、知佳がパブを出て通路を挟んで向かいの店の扉の前に立った。店の名は「ミスティ」。ジャズのスタンダード曲の名前だが、まさにこれから隆次が何をしようとしているのか解らずに戸惑っている三人にぴったりの店の名だった。啄郎が「ミスティ」の扉を開いた。  狭い店でカウンターの他にボックス席が二つしかない。カウンターの向こ

      • 【小説】レフトアローン(第3話)

        第16章 泡粒たち 1988年  啄郎のアパートは仙台駅の北西、JR仙山線の北山駅の近くにあった。  新しめの綺麗なアパートで部屋はワンルーム、床が三角形だった。正確に言うと二つの隅が90センチほどの壁になっていたため五角形だったが大まかに見れば三角形でみんな「三角部屋」と呼んでいた。どれも狭いながらも部屋の外にキッチン、トイレ、風呂付き。当時流行り始めたフローリングで八畳ほどの広さがあり、黒電話が置かれた木目合板の机と肘付き椅子は何かの事務所風。レコード棚の上にコンポ。そ

        • 【小説】レフトアローン(第2話)

          第8章 知佳(4)  知佳が講義を終えて廊下に出ると先日60年代と現代の学生の落差について質問してきた学生が追いかけてきた。  「先生、この前の話の続きが聞きたいんですけど」  学生の腕が知佳の腕に触れそうな位置に並んだ。  「ごめんなさい。もう少し離れて」と知佳は反射的に言った。  「すみません」と言って学生は大きく横に離れた。  学生はスマートな体型でハイヒールを履いている知佳よりも15センチ以上背が高く、180センチ以上はあった。美男子で黒目が大きく澄んだ瞳をしていた

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        【短編小説】きききの吊り橋

          【小説】レフトアローン(第1話)

          序章 卒業  1989年  春彼岸の頃、晴れた日の仙台から見える遠い山々は薄紫に見え、雪を頂く白とのコントラストが空の青や雲の白と美しく溶け合っていた。街には時折生暖かい風が吹いた。広瀬川には白鳥が北帰行の途中に羽根を休め、畔や土手に蕗の薹や蒲公英の花が見られる季節になった。  咲山琢郎(さきやまたくろう)は近い日に去ることを惜しみつつ、仙台の気持ちいい季節を感じていた。  広瀬川に程近い青葉学院大学の卒業式は、例年通りキャンパス内の大きな体育館で行われた。比較的学生数が少

          【小説】レフトアローン(第1話)

          【短編小説】スローボール

          もう少し曇り空がよかったが、盛岡は晴れ渡っていた。 「山ってさ、天気がいいと、遠ければ遠いほど青いんだね」 盛岡駅近くのレンタカー屋で借りた白い小型車の助手席で真(ま)紘(ひろ)が言った。 「そうか?」 「そんなこと知らないで生きてきたよ」 車窓から吹き込む空気は、四時間前までいた東京の朝のそれよりも涼やかだ。遠く見える岩手山の青は、空の青とほぼ同じ色で、中腹付近まで残っている残雪が、その境界線を引いている。新幹線からはところどころに見えた、田植えを終えたばかりの水

          【短編小説】スローボール

          第1回ケータイ文学賞大賞【短編小説】解氷

          恋なんて、まして結婚なんて私には全く必要ない、ていうか、想像すらしなかった。本心。だって今の私は幸せ一杯だから。そう、本心。 でも私には彼がいる。しかもプロポーズされた…。 出会いはドラマティックでも何でもなく、居酒屋での合コン。盛岡が一番寒く、雪も多い二月だった。その夜は雪がちらつくうえに、特に冷え込みが厳しく、外を歩いていると顔が凍るように感じて、繁華街の大通りを走るタクシーもタイヤを滑らせながら走っていた。 私たち「たんぽぽ学園」の女性職員と岩手県庁の男性職員、四

          第1回ケータイ文学賞大賞【短編小説】解氷

          点描の唄 Mrs.GREEN APPLE

           ある音楽イベント※でMrs.GREEN APPLEの「点描の唄」を聴いた。あまりに感動的なバラードで泣いた。音楽を聴いて泣いたのは何年振りだろう。  イントロ。  これから感動的なストーリーが始まる予感をイメージさせる短く静かなピアノのリフが繰り返される。隣の薄緑色のタオルを持ったミセスファンの女性が「点描?ヤバ」と言った。僕には意味が解らない。約2万人の観客の驚きと喜びの歓声が湧いた。「キャー」という甲高い声も大きく響く。  終演後に知ったのだがこの曲がライブで演奏される

          点描の唄 Mrs.GREEN APPLE

          寝ジャズのお話 フロム盛岡[5]

          双極性障害とリー・モーガン「リー・モーガンVol.3」  僕は双極性障害だ。細かくは双極性感情障害と言い、躁鬱病とも言う。躁鬱病と言う名前がおどろおどろしいから人に話す時は双極性障害と言う。双極性障害の方が軽く感じる(個人的見解)し、カッコよく感じる(かなりの勘違い)からだ。でも説明するには躁鬱病のほうが解りやすいから結局、躁鬱病と付け加えたりもする。ちなみにこの病気になって20年程経つけど「鬱」という字を未だに書けない。あまり書く機会も無いが。  あまりに波瀾万丈、紆余曲

          寝ジャズのお話 フロム盛岡[5]

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 7(最終章)

          最終章 蝉  和真は、退院してしばらくは自主トレをしようかとも考えたが、逸る気持ちを抑えきれずに、大学の野球部長を訪ね、入部手続きを取った。連盟から受理されるまでは公式試合には出られないと言われたが、体力の衰えを考えると調度いい準備期間だと和真は思った。  早速、部員に入部の挨拶をすると、数人の高校のチームメイトや先輩、後輩、その他の部員も歓迎してくれた。  リハビリに近いような、体力作り中心の別メニューのトレーニングが組まれ、鈍った体にはそれでもかなりきつかったが、必死で

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 7(最終章)

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 6

           入院五日目、伶のカウンセリングを境に和真の体調は一段と回復してきていた。頭の包帯も取れた。食後の薬も一つ減り、睡眠薬も出なくなった。  気分のほうもだいぶ良くなってきている。自分の中でいろんなことが整理されてきている実感があった。そして伶から言われた唯一残った課題だけを考 えていた。  その日は土曜日で、節子と美紅が昼食後に来た。美紅に会うのは、初七日の法要が終わって和真が盛岡に戻って来て以来だった。  「意外に元気そうだね」  「ああ。心配掛けたな」  「別に」  「心配

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 6

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 5

           和真は、急患として扱われ、すぐに処置室で点滴が始まった。和真は眠っていた。  並行して、佳奈が須貝に事情を訊かれた。佳奈が知っている範囲で答えると、  「入院しましょう」 と須貝は言った。そしてさらに、  「和真君はいい友達を持っていますね」 と微笑みながら言った。  佳奈は、和真の携帯から和真の実家の電話番号を調べ、節子に連絡した。 節子は恐縮しながら、「今から行く」と言ったが、佳奈は和真が安定して眠っていること、入院の細かい準備は明日でいいと言われたことなどを話し、明

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 5

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 4

          四 遺言  「どうだった?実家は」 三度目のカウンセリングは、里帰りの話から始まった。  「親孝行はできませんでした」  「どういうこと?」  「何の手伝いもしなかったし、あげくに親父を興奮させて」  「どんな風に?」  「野球のことです。俺がこの間、ここで言ったようなことを言ったら、訳が分かんないことを言い返してきた。て言うか、俺に言ったのかどうかもはっきりしないけど」  本当は、隆の言った言葉の意味が和真には分かりかけていた。ただ、素直になれず、あえて深く考えようとはし

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 4

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 3

          盆も近づいた三度目の通院の前日、朝九時頃に佳奈が来た。あらかじめメールを寄こし、来ることを和真が了承したのだった。  また、差し入れをいっぱい持ってきた佳奈はうれしそうに言った。  「さてと、何からしようかな」  その日、もともと体調は良かったが、その佳奈の姿を見ていると和真もさらに気分が良くなるような気がした。  「やっぱり掃除かな!」  張り切る佳奈を制止するように和真は言った。  「そんなこといいよ。適当にやってるから。それより、車で来たのか?」  「うん。またお母

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 3

          寝ジャズのお話 フロム盛岡[4]

          盛岡とマイルス・デイヴィス「マイルス・イン・ベルリン」  ニューヨークタイムズの記事に盛岡が載った。「2023年に行くべき52カ所」。ロンドンに次いで2番目。何が起こったのか、一番驚いているのは盛岡市民だろう。もちろん愛着はある。啄木の故郷、賢治が学生時代暮らした街。川と橋、緑がたくさんある城下町。程良いいい町だとも思っている。ただそれは「住めば都」的な感覚で、超有名な観光スポットがあるわけでもないこの街が外部の人の目にどう映るか、自信はなかったし、実際、観光都市という言葉

          寝ジャズのお話 フロム盛岡[4]

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 2

           待合室にはいろんな人がいた。  畳にはまだお婆さんが寝ていた。ダイニングテーブルには今度は夫婦らしき中年の男女が向かい合って座り、男はうつむき、女は声は静かだが、とどまること無く男に話し掛けている。テレビのワイドショーに食い付いているおばさん。車椅子のお爺さんとヘルパーさんらしき人。ただボーっとテレビに視線を向けながら右足をずっと貧乏ゆすりしている赤ら顔のおじさん。  若い人もいた。漫画を読みながら時々ニヤリと笑っているどこも悪そうに見えない自分と同い年くらいのやや肥満体の

          【連載小説:盛岡】すいかメンタルクリニック 2