全てに挫折し孤独死を待つだけの老人の日常③【超ショートショートまとめ】
宇宙人が目の前に現れたとき、俺の口を突いて出たのは
「若返らせてくれ」
の一言だった。
異常事態に陥ると本性が露わになる人間の性だろう。
少しして宇宙人は「いいだろう」と脳内に語りかけてきた。
俺は飛び上がるほど嬉しかったが、次の言葉で願いを取り下げた。
「では猿に戻すぞ」
〈宮山郁夫のプロフィール〉
公民館で中年女性に話しかけられた。
久しぶりに女性とのお喋りを楽しんでいると、不意に女性が言った。
「ご結婚はされているんですか?」
「い、いえ」
ドキドキしながら答えると、女性が言った。
「私、ご高齢の方同士の婚活パーティーを主催してまして……」
俺は女性にキレて帰った。
退職後、久しぶりに通勤時間帯に外出したとき、俺は道行く人々の背の高さと歩くスピードの速さに驚かされた。
そして少しして、自分の背が縮み足が錆び付いたのだと気が付いた。
息を切らしながら歩を進めるが、背広を着た大きな背中は遠くなる一方だ。
時代が俺を置いて先に進んでいる。
娘の旦那に招待され、初めて娘の家に入った。
時々眺めていた外観に比べて随分と狭い部屋だった。
娘の旦那から引っ越しをすると報告を受けた後、大を催してトイレを借りた。
その直後に娘がトイレを使い、奥の部屋に戻る前に言った。
「消臭剤使ってください」
久しぶりに娘の声を聞いた。
交通誘導のアルバイト中に痰が絡んだ宮山郁夫は、通行人への配慮として口元を隠しながら、痰を歩道の花壇に吐いた。
直後、人の目がある中で半世紀分は年の若い現場隊長から叱責を受けた。
宮山郁夫は堪え切れず、配慮した自負も手伝って、言下に「風邪を引いた」と言い残し帰宅した。
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