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全てに挫折し孤独死を待つだけの老人の日常③【超ショートショートまとめ】

宇宙人が目の前に現れたとき、俺の口を突いて出たのは

「若返らせてくれ」

の一言だった。

異常事態に陥ると本性が露わになる人間の性だろう。

少しして宇宙人は「いいだろう」と脳内に語りかけてきた。

俺は飛び上がるほど嬉しかったが、次の言葉で願いを取り下げた。

「では猿に戻すぞ」

悠久の時を生きる宇宙人。

架空の現代人、宮山郁夫(みややま いくお)の日常を描いた超ショートショートのまとめです。
宮山郁夫は、事業に失敗して家族に逃げられ、アルバイトで食い繋ぎながら孤独死を待つだけの日々を送る老人です。
いわゆる「老害」で、コンビニ店員に理不尽なクレームをするなどして憂さ晴らしをしています。
宮山郁夫が老害になった詳しい経緯は〈宮山郁夫のプロフィール〉にて。

解説

〈宮山郁夫のプロフィール〉


公民館で中年女性に話しかけられた。

久しぶりに女性とのお喋りを楽しんでいると、不意に女性が言った。

「ご結婚はされているんですか?」

「い、いえ」

ドキドキしながら答えると、女性が言った。

「私、ご高齢の方同士の婚活パーティーを主催してまして……」

俺は女性にキレて帰った。


退職後、久しぶりに通勤時間帯に外出したとき、俺は道行く人々の背の高さと歩くスピードの速さに驚かされた。

そして少しして、自分の背が縮み足が錆び付いたのだと気が付いた。

息を切らしながら歩を進めるが、背広を着た大きな背中は遠くなる一方だ。

時代が俺を置いて先に進んでいる。

信号待ちをしている人々に追いついたが、呼吸が整っていないうちに信号は青に変わった。

娘の旦那に招待され、初めて娘の家に入った。

時々眺めていた外観に比べて随分と狭い部屋だった。

娘の旦那から引っ越しをすると報告を受けた後、大を催してトイレを借りた。

その直後に娘がトイレを使い、奥の部屋に戻る前に言った。

「消臭剤使ってください」

久しぶりに娘の声を聞いた。

思わず頭に血が上って「臭い物に蓋をするのは現代人の悪い癖だ」という反論が喉から出かかったが、堪えた。

『老害』とは社会に害を及ぼしている老人の蔑称です。
具体的な特徴の例は下記の通りです。

・組織の世代交代を阻む
・時代遅れの根性論を持ち出す
・気に食わないことに癇癪を起こす
・注意力の衰えによるトラブルを起こす
・公道に唾を吐くなどのマナー違反をする

参考:https://t.co/IqFFCG4S90

『老害』に関するメモ

交通誘導のアルバイト中に痰が絡んだ宮山郁夫は、通行人への配慮として口元を隠しながら、痰を歩道の花壇に吐いた。

直後、人の目がある中で半世紀分は年の若い現場隊長から叱責を受けた。

宮山郁夫は堪え切れず、配慮した自負も手伝って、言下に「風邪を引いた」と言い残し帰宅した。


読んでいただきありがとうございました。
あなたが老いに心を乱されませんように。

挨拶

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