クラス独自の学習集団づくり

 「子どもは学びの方法については教えたことしかできない」ということはあまり理解されない。ほとんど当たり前のことなのだが。なぜかやり方を教えてないのにできると思っちゃう。
 似たようなことに「教えたからこれはできる。」
 それはない。少なくとも全員ができることはない。学校教育はできる子がいるでよいものと全員ができないといけないものに明確に分けられる。この辺のことが分けて考えられない人がいるのは困りもの。
 誤解なきように言えば全員できなきゃ教員は責任取れと言うのとは違う。できるような手だてをとって結果できない子が出るのはやむを得ない。やるだけ手渡しても受け取ってくれないものは仕方ない。強要はするなとウエが明言してしまっている。文科省はすでに「教育すること」を放棄する文言をいくつか吐いてしまっている。いわんや教育委員会と管理職は追従するしかない。

 逆にできてスゴイということも教えたんだからできて当たり前っしょということもあまり理解されない。研究指定校の授業でよく見られる現象。
 それだけの時間を割けば、どこかを削っているわけでそれがよその取り組みとの優劣になることはない。加減の問題だ。
 できれば管理職も教育委員会も保護者もそこに教師としての優劣はないことはわかってほしい。全く理解されないのだけれども。
 教師の優劣はよっぽどの大差が開かなければ分かりっこないラーメンの味の好みのようなものだ。どれもウマイけど私の好みはコレというハナシ。
 しかも保護者の観点と子どもの観点はちがう。この辺の複数の違いの重なりを認めることにこそ真の多様化がある。ある教師Aの凸とある教師Bの凹を比べてAが優れているというのは明確に間違っている。これは実際に管理職などによって行われる教員の評価である。先の時間の加減を重ねれば、裁量権という低レベルな話とは違うことがご理解いただけると思う。
 よく文科省やそれに追随する大学教員が学校に裁量権を認めることで学校の実践に資することができるし、余白ができるみたいな言葉を吐くがそれはちがう。裁量権として差し示されるのはただの時間であってどう活用するかは方向性としても示されていない。裁量権というなら予算だてや人事権まで、そして明確なビジョンを示す必要がある。現実的な整合性は現場が受け持つし。

 こうした前提を示した上でもたぶん誰も認めたがらないと思うが、学習集団のレベルは学級というある一つの組織の質がそのまま直結するわりと単純な話である。これが教員の数だけあるというだけのことである。まずはこの独自性の承認をはかり、信頼を寄せることがこの多様性が強みを発揮し、進化するただ一つの条件だと思う。もし独自性を破棄してマニュアル本が勧めるクラスづくりをみんなが実行してしまえば即座に保護者からの信頼を失い、下手をすれば全てのクラスが学級崩壊を起こしかねない。
 教師個々人が自分がしていることの全てを理解した上で行うことに意味があるのであって、理解しようもない意味不明な行き当たりバッタリのパッチもん実践を猿真似することが上手く行くわけがない。「ハラに落ちる」レベルで自分のモノにしたことの方が教える内容や方法としてより適切であることは言うまでもない。
 落語家さんが噺すときに上っ面をただ朗読している訳ではないのと同じである。聞いている方は中身が同じでも伝わり方は熟達した落語家さんの噺は朗読とは全く違う情景や間を創り出している。

 こうした独自性を補完、支援するのは、文科省の仕事であるはずなのに実際は学テや学習指導要領は裁量権の名の下に明確に分断の手助けをしている。そして予算やポピュリズムを獲得するために新規事業、ひどい場合は単なる看板の掛け替えに邁進することになる。
 独自性によってスタンダードが破られる心配をすることはわからなくもない。これは行政にも保護者にもそして大多数の教員にも共通する感覚だろう。
 しかし独自の方法というのはすでに教育技術そのものであると歴史が証明してるし、定式化や法則化が初任者にですら役に立たず、逆に将来禍根を遺すことになるというのは言い過ぎでないと思う。独自性を出すことの大切さを学べないからだ。

 最初に縛り付けて、独自性を出せないようにするよりは、独自に取り組みながら一定の収れんを目指していく方が明らかに効率的に広がりを持て、何よりそこから広がる対話が作り出しやすい利点もついてくると思う。

 もはや個別最適化とか言ってる時点で独自性を認めないロジックは無いように思うが、場の設定としての独自性までには考えが及んでないように見える。

 働き方改革に逆行するように見えるので多分共感されないとは思うが、この独自性が日本人に認められることが教職の優位性を示せる唯一の方法なんだと思う。


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