星川モア

詩とか小説とかエッセイとか。

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最近の記事

【老いの入舞】超短編小説

須賀広志は訃報ハガキを受け取り、大きく肩を落とした。 今年はこれで何人目だろう。 「(館内放送が鳴る)皆さま、新しい入居者をご紹介しますので談話室へ起こし下さい」 悲しみに打ちひしがれる中、ため息をつきながら、重い足取りで食堂ルームへと向かった。 「竹内茅野(かやの)です。生まれは徳島、育ちは大阪で…どうぞ宜しく」 色白で小柄な女性。身丈に合わせた薄ピンク色の着物が、肌に馴染んで上品さを醸し出す。 『老人ホームしあわせ壮』に住む老男女たちが、のそりのそりと円陣を組み

    • 【旅の途中】超短編小説

      歩道橋の上、再び会った。 間違いない、あの日の彼女だ。革ジャンのポケットから取り出した煙草に火をつけ、ひとつ、ふたつ、みっつ。彼女の口からフワリとした白い輪が、星の見えない夜空に吸い込まれていく。僕の心臓が大きく鼓動を打つ。  あの真冬の夜。すべてのものに嫌気がさして数えきれぬほどの酒を飲んだ。独りで飲み歩いて、色んなものにぶつかった記憶まではある。気づけば、この歩道橋の上で潰れていた。通り過ぎる人が僕を見て、笑ったり、蔑んだり、罵声を浴びせたりしたけど、僕は何も感じなかっ

      • 「ダイエットの極意」エッセイ

         万年ダイエッターとは私の事である。幾度となく挫折を繰り返す日々。理想の凹凸ラインは、はて、どこにいってしまったのか。  ある時、友人からの紹介でダイエットコンサルタントという人に無料でアドバイスをもらうことになった。内容はほぼ食事制限。今までの3分の一程度しか食べない生活だが、2ヵ月経っても体重は減らない。 すると結果が出ない要因をコンサルタントは『私自身に現状変化を拒む自分がいるのだ』という。メンタルブロックというらしい。それを解く方法は「親に産んでくれてありがとう」

        • 「謎のクリスマスプレゼント」エッセイ

          一度だけクリスマスプレゼントをもらったことがある。 保育園時代のわたしは、母が美容学校に通っていた為に 祖母の家に過ごすことが日常だった。    ある日、祖母と夕飯を食べていると 、母からの電話で信じられないことが伝えられた。 サンタさんからプレゼントが届いているという。 今まで友人宅には来ても、我が家には一度も来てくれなかった。 やっと私の元にも来てくれた! はやる気持ちを抑えられずにすぐに我が家へ飛んで帰った。 プレゼントは当時絶大な人気があった石野真子の水着のポスタ

        【老いの入舞】超短編小説

          「昭和のバタークリームケーキ」エッセイ

          先日、昭和を思い起こすバタークリームケーキを食べた。ベタッとした口あたりが子どもの頃は苦手だったのだが今はそれも懷しい。 昔ケーキと言えばバターだったのだが初めて生クリームに身を包んだものに出会った時は衝撃だった。見た目は真っ白いフワフワとした雪のように滑らかなコーティング。明らかに軽い重力。スポンジも柔らか仕立てに改良。口に入れるとほんのり甘く広がるクリーミーな味。溶けてなくなる感覚は夢見心地な気分にさせてくれた。その後も日本におけるケーキの進化は加速していく。イチゴ、メ

          「昭和のバタークリームケーキ」エッセイ

          『存在』

          緑の輝き。 空の蒼さ。 あなたを満たす空気。 ゆらりと風を動かす。 なにも恥じなくていい。 誰かと群れなくていい。 皆が大好きであっても 一緒じゃなくてもいい。 誰かがいないと  ダメな自分にならないの。 誰かを思い 生きる喜びを感じる 自分がいい。 誰かに思われよう、 愛されよう、 求め続ける関係は、 自分を弱くする。 思い合う必要なんてないから。 自分に真っ直ぐでいればいい。

          「沈黙の75日」②

          翌日は朝早くに目が覚めた。彼女のことが気になったからだ。学校へ着くと皆が輪になり弥生ちゃんを囲んでいた。ふと私に気づいた彼女。それなのに大きく首をひねって目をそらしてしまった。違和感を覚えた私だったが、すかさず 「怪我、大丈夫?」と聞く。すると前にいた一人のクラスメイトが私に向かって大声で怒鳴ってきた。 「あんた彼女を突き飛ばしたでしょ!最低!」 一瞬、何のことかわからずに弥生ちゃんを見たが、忠誠高い家来に守られた王女のようにクラスメイトの集団の渦に隠れる。彼女は1ミリ

          「沈黙の75日」②

          「沈黙の75日」①

          小学4年の夏。転校生がやってきた。弥生ちゃんという髪の短い女の子。焼けた肌にTシャツとキュロットスカート。子犬のような目が印象的な可愛らしい子。私は早く仲良くなりたくていち早く遊ぶ約束をしたのである。 家の近所にある公園には私のお気に入りの遊具がある。テトラポットのような高低差のある遊具。ピンク、赤、青、黄色、緑に彩られた小さな煙突みたいな。その上にチョコンと飛び乗り、移っていくと色とりどりのメロディーを踏んでいるような気分になる。 ひとつ隣へと飛び乗るには私の足幅が少し

          「沈黙の75日」①

          「雨音のワルツ」エッセイ

          カーテンを開けると空がどんよりと暗い。雨がガラス戸を濡らしている。今日は一日中降るそうだ。朝から思わず憂鬱な気分になる。 小さい頃は雨が好きだった。お気に入りの傘を開いて空へ向ける。天から降り注ぐ雨音。傘に弾かれリズミカルに鳴る。心が躍った。 そんな私も年頃になり、彼氏ができた。彼と過ごす雨の日のドライブ。 「雨が好きだ」と私が言うと、彼は笑わずに一緒に雨音を聞いてくれた。 ある日、彼から手渡されたプレゼントをもらう。それは様々なアーティストたちの雨の曲ばかりが集められ

          「雨音のワルツ」エッセイ

          『 深呼吸 』

          人を信じることで、 「強さ」が生まれる。 人を信じ続けることで 「弱さ」が生まれだす。 そのうち…… 何を信じていいかわからず。 そんな脆さが 自分を苦しめ、逃げたくなる。 何度も何度も。 葛藤。葛藤する。 後ろに、答えはないのに 過去に答えを見出だそうとして 迷い、悩み、苦しむ。 強くなくていい。 弱くたっていい。 『深呼吸』 地に足をつけている いまの自分を感じて。

          『 深呼吸 』

          『残心』

          傷みから逃げずによく頑張ったね。 痛みから目を逸らさず偉かったね。 負けていいよ。 譲っていいよ。 辛くても「すごく大切なことだから。」 けして離さず、放さず、握りしめていた。 もういいよ。 もう大丈夫。 それを言うのは、もう一人の自分だけ。 きっとそれは誰の言葉でもダメだった。 自分を赦してあげられるときが来たよ。 「自由」になっていいから。 本当にきみはよく頑張った。 たとえ心に残ったとしてもね。 傷にも痛みにもならないとき。 そんな日が来たんだ。 「う

          『残心』

          『 はるいろ 』

          心が ほんわかと浮わつく。 可愛い鼻歌がまとわりつく。 踊る。 歌う。 幸せだ。 シアワセだ。 しあわせだ。 どこまでも広がるあお。 やさしく照らしてあか。 揺れては散りゆくもも。 風になびいて光るきいろ。 大地に伸びゆくみどり。 根を張り巡らすちゃいろ。 春の色が舞う。 生まれてよかった。

          『 はるいろ 』

          『 価値ありき 』

          感謝を忘れたりしない。 出逢うひと。 出逢うもの。 出逢う出来事。 人はすぐに忘れるから。 大切な言葉が 浮いてしまう。 嘘くさくなる。 流れてしまう。 死んでしまう。 軽く扱ってしまう。 知らず知らずに そんな人間になってはいないだろうか。 「感謝」ができる。 「感謝」が見合う。 「感謝」を返せる。 活かせる人間になりたい。 言葉なんていくらでも言える。 パフォーマンスなら、出来る。 ちゃんと成長したい。 少しずつでいいから。 言葉に負けない自分になる。

          『 価値ありき 』

          『さんぶんのいち』

          悲しみを 憎しみにかえること。 寂しさを 怒りへすりかえること。 それを「自己防衛」というけれど。 これを繰り返すたびに 人は離れていくんだよ。 誰かを憎むとき。 誰かを怒るとき。 「さんぶんのいち」でいいから 自分のために相手にぶつけてる。 かもしれない。 そんな風に思える人ばかりなら… もっと優しさに溢れた世界になるのにな。

          『さんぶんのいち』

          『 向こう側 』

          ずっと向こう側に 誇らしげな自分が立っている。 信じるのもよし。 さすらうもよし。 大きな樹海へ迷いこむほど さらに自分をお貶しめては。 枯れないで 枯れないで。 声を届けているのは 今の自分だろうか。 それとも未来から。 まだまだ間に合うか。 今を過去にすること。 綺麗な空を見上げて ちゃんと声を聞きたい。

          『 向こう側 』

          『好きって言えるまで』

          どうして嫌いなんだろう。 あの人も。 この人も。 こんなところ。 あんなところ。 どうやっても【きらい】 【好き】が見つからない。 みんなは楽しそうなのに 私はちっとも楽しくない。 ちがう。 嫌いは自分だ。 自分を通してみるから すべてが楽しくないの。 あたしは…ワタシを好き? あんまりさ、 嫌いにならないで。 こんなにも頑張ってるんだから。

          『好きって言えるまで』