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「未来少女革命」

プロローグ

 「ここはどこだ!?」
晴一は気付いた。気付くと、そこはまっしろな世界だった。
 「何だ、これは?どこだ、ここは?は!まさか、俺は死んだのか!?」
晴一はただ動揺していた、目の前の世界に。

 「ふっ。ご名答。」

 ふいに、どこからか声がした。
 「誰だ?神か?お願いだ!教えてくれ!俺は、本当に死んだのか!?」                男「私が誰か?それには答えられないし、残念だが神でもない。先に言ったように、お前は一度死んだ。今いるのは、『生』と『死』の狭間の世界だ。さぁ、選択しろ。この先、『生きる』か『死ぬ』か。」
 そう言って、男は目の前から消えた。

 すると、目の前の世界が突然変化した。
 半分は明るく照らされた真っ白な世界、半分はただ真っ暗な、何もない世界だった。

 「さぁ、選択しろ。『生』か『死』か。」
 また、男の声がした。
 「好きな方を選べ。お前がこの先、生きたければ『白』へ、もう死んでもいいと思うなら『黒』へ進め。ただし、その生きる意思が少しでも弱ければ、すぐに『黒』の世界へ行ってしまう。さぁ、選択しろ。」

 晴一は一瞬『黒』の世界を見た。そこは、ただ真っ暗で、底が全く見えなかった。
 「ひっ、そ、そんなの、迷うまでもない!生きたいに決まってるだろ!」
 晴一はそう言ってすぐに、『白』の世界へと進んだのだった。


第一話『あたらしい生命』

 ふと、一人の少女が現れた。
 「ハレちゃん、どうしたの?そんな姿で。ふふっ、可愛い。帰ってきてくれてありがと。おかえり、ハレちゃん。」
 そう言って、少女はそこから消えた。

 パチッ。

 晴一は目覚めた。晴一は、現実世界へと帰還したのだ。
 目の前に、朝の眩しい光が差し込んでくる。
 「ん、俺は生きているのか?本当に生きてるのか!?」
 晴一は体中を触りながら言った。試しに、頬っぺたを自分の手で叩いた。
 「痛っ!やった!痛い!生きてる!俺は生きてるぞ――!!」
 晴一は無性に叫んだ。嬉しいあまり、ベッドを何度も飛び跳ねた。

 「うるさいな。静かにしろ、晴一。」
 また、男の声がした。

 「えっ。誰だお前!あっ!お前はさっきの男だな。さては、俺を死後の世           界に連れ戻そうとしに来たな。そうはさせるかっ。」
晴一はそう言って身構えた。
 「ふっ。くっくっくっくっく・・・。本当に覚えてないのか。まぁ無理もない。人は一度死ぬと記憶がリセットされるようになっているらしいからな。」
男は笑いながら言った。
 「何を言ってる?誰だお前は!?」

 「私が誰か?悲しいな。親友の名を忘れるとは。まぁいい。私は、葉桜雨哉。君とは同級生で幼馴染みの親友だ。」
 「あまや?お前があの雨哉なのか!?本当に?」
晴一は驚いて、聞き返した。
 「いかにも。どうやら、私の記憶はなくなっていないようだな。よかった。」
 雨哉は安心して答えた。
 「なんだ、雨哉か。びっくりさせやがって。」
 「それはこっちのセリフだ。何だ?あの女は!?普通は、生死の彷徨いの中で会う人と言えば、家族や身近で大切な友人だと決まっているだろ?それが、なんでアイドルなんだ!!」
 雨哉は激怒した。
 「仕方ないだろ。俺は桃菜のことが大好きなんだ、何よりも、他の誰よりもな。きっと、彼女のことで頭がいっぱいのまま死んだのだろう。」

晴一は冷静に答えた。
 「そうだとしても、実際に出てくることはほとんどない。第一、何だ?ハレちゃんとは?お前はアイドルにあだ名で呼んでもらっているのか!?」
 「ああ、そうだよ。握手会に行ったときに付けてもらった。」
晴一は自慢げに言い放った。
 「くっ、キモい。こいつ、キモすぎる。それに、桃菜はもうアイドルを卒業しただろ!」
 「卒業しても、俺の心の中では永遠のアイドルなんだよ。って、え?卒業!?もしかして、桃菜はもう卒業したのか?」
晴一は耳を疑った。
 「したよ、とっくに。昨日、卒業公演があったって、さっきテレビでやってたぜ。」
 「何―――――――――!!あぁ、俺はなんてことを。桃菜たんの卒業公演を見られずに死ぬなんて。死んでも死にきれない。」
晴一は絶叫した。
 「はぁ。お前はそんな理由で生き返ったのか。心底あきれる。」
雨哉は落胆した。
 「なぁ、今日は何日だ?俺は一体どのぐらい寝ていた!?」
晴一は焦って訊ねた。
 「今日は、二〇二三年八月八日。そうだな、お前は半年ぐらい死んでいたな。」
 「何――――――!!半年も寝ていたのか、俺は。なんでもっと早く起こしてくれないんだよ!」
 「知らん。お前の生きる意志がそれだけ弱かったということだ。もっとも、普通はそんな早くには目覚めないし、目覚めることもないがな。お前が初めてだ。私に殺されて生き返ったのは。」
雨哉は冷たく言い放った。
 「お前、今、何て言った!?お前が俺を殺した?ウソだ!俺はそんなの、信じないぞ。」
 「ウソじゃない。本当だ。私が君を殺した。私は、君にずっと隠していたことがある。私は、未来から来た能力者だ。」
 「えっ!?」
晴一は只々、驚くばかりだった。

 「私は、未来から来た能力者だ。」
雨哉は唐突にそう言った。
 「えっ!?それは一体どういう・・・」
 「いいから落ち着いて聞け。今からそう遠くない未来、人間は能力を持ったアイドル(人間)達によって支配され、やがて絶滅する。人間は新たなる進化を求め、人間同士で共食いを始めるのだ。そして、生まれたのが私達、能力者(捕食者)だ。」
 「はっ!?共食い?そんなの、人間同士で共食いだなんて気持ち悪いよ。」
 「だから落ち着けって。もちろん、共食いといっても実際に食べるわけじゃない。そのターゲットの力の一部をもらい、吸収することで私達はパワーアップを果たすのだ。」
 「雨哉もその能力者なのか?」
 「そうだ。私の能力は『生命(ライフ)・捕食』。対象とする人間を自らの手で殺すことによって、その対象の能力、あるいは対象が得意とする才能を得ることができる。」
 「え?それじゃ、雨哉は俺から何かを奪ったっていうのか?」
晴一はそれを聞いて、激しく動揺した。
 「いや、お前からは何も奪えなかった。晴一には、得意とする才能がこれといってないからな。」
 「なんだとっ!?じゃあ俺は無駄死にってことになるだろっ!!」
 「はは、冗談だよ!お前は殺す必要があったから殺したんだ。だから何もなかった。ただそれだけだ。」
 「何だよそれ?一体どういうことだよ?」
 「それはな、お前が木下桃菜のことを好きだからだ。」
「は?桃菜には関係ないだろ。俺が桃菜のことを好きだからってそれがどういう・・・。」
 「それが大ありなんだ。彼女は能力者だ。お前は、すでに彼女に支配されかけていた。だから、俺がお前を殺したんだ。なのに生き返って、しかも彼女のことが好きなままだとは、心底あきれる。お前は本当にアイドルバカだな。」
 「う、うるさい、ほっとけよ。それより、桃菜が能力者だと!?そんな、まさか!?」
 「ああ。そのまさかだ。」
 「ウソだ。それに、だからって殺すことないだろ。桃菜に支配されて何がどうなったって言うんだよ!?」
 「それは、あのときはそうするしかなかったからだ。そうしないと、お前は彼女に捕り込まれてしまうところだったんだからな。」
 「捕りこまれる?どういうことだ!?説明しろよ!」
 「お前は、彼女に心を奪われていた。俺が気付いた頃にはとっくにな。そして、彼女の立ち上げた組織に入れられてしまうところだったんだ。」
 「あぁ、彼女のファンクラブへの加入のことか。」
 「ファンクラブなどというなま優しいものじゃない。その名を借りた、ただの奴隷組織だ。彼女に支配された人間は、一生彼女の思うままに行動し、操られ、洗脳されるんだ。」
 「そんなバカな・・・。彼女はそんな娘じゃない!何かの間違いだ!!あのキラキラした大きな目を見ればわかる。」
 「そこなんだよ。お前は、彼女のその大きな眼に見つめられたことで心を奪われたんだ。お前は、昔から素直で誠実だった。それがゆえ、弱い者には優しく接して生きてきた。だが、それが災いして、お前は彼女に狙われたんだ。」
 「ウソだ!!そんなこと、彼女がするはずないじゃないか!だいたい、何のためにそんなことをするんだ!?」
 「木下桃菜はいまや、日本中を代表する国民的アイドルだ。だが、それは架空の人気であって、本当の人気アイドルではない。彼女は、その大きな生まれ持った眼で人を思いのままに操り、自分のものにしてそれと同時に人気も急上昇し、あの千年に一人といわれる星野環奈を抜いてトップアイドルへと上り詰めた。だが、彼女はトップアイドルになることが夢や目標じゃなくて、日本の人間全員を支配して、本当の女性社会を作ることが目的なんだ。」
 「本当の女性社会を作る?つまりは、逆ハーレムってことか?」
 「そうじゃない!彼女の理想の世界は、女が男を支配する、つまり女は男より偉い、という世界を作り上げようとしていたんだ。」
 「・・・あの、それの何が問題なの?女性社会になるのなら良いことなんじゃないかな。」
 「問題大ありだ。現在、日本の人口の半分以上は女性が占めている。ということは、女性の社長や役員がこれから増えてくるということだ。さらに、彼女たちも同じく桃菜の手によって操られているのだから、何をするのかわからない。女性社会という名の奴隷社会だ。それは、いくらお前でも嫌だろ?」
 「・・・ああ、嫌だな。女性は好きだけど、一生奴隷の生活は嫌だな。」
 「そうだろ?だから、俺はそうなる前にお前を殺したんだ。」
 「そうだったのか。いや待てよ、俺のほかにも彼女の魔法にかかった人たちがいたんじゃないのか?」
 「いや、確かにいたがそいつらは殺せなかった。対象の人数が多すぎたし、第一、俺の知らない三十代以上の男性がほとんどだった。だから、お前だけを殺して窮地の底から救ってあげたんだ。」
 「窮地の底から救ったって、俺を一度殺しておいてよくそれが言えるな。」
 「俺はお前を一度殺して、お前が生き返る可能性に賭けたんだ。殺すといっても、対象の人間の心臓を一度止めただけだ。ただし、また心臓を動かすことは俺にもできない。
 だから神に、運命を託したんだ。」
 「神に運命を託したって、俺が目覚めなかったらどうしていたんだよ!!」
 「そのときは、どうしようもない。お前の生命はあきらめるしかなかったということだ。」
 「なんだよそれ?お前それでも俺の親友か!?」
 「いや、厳密に言えば親友ではない。俺とお前は赤の他人で、その記憶はお前が死ぬ前に俺がインプットした偽の記憶だ。さっき言ったように、俺は未来から来た能力者であって、この時代の人間ではない。」
 「・・・本当だったのか。じゃあお前は何のためにこの現代に来た?」
 「簡単に言えば、この先の未来を変えるためで、このままでは日本、いや世界はその女性アイドルによって支配されてしまうからだ。」
 「せ、世界を支配する女性アイドル?それはいったい、何なんだ!?」
 「それは、今から数日後に現れるアイドルグループ、赤坂46というグループだ。」



#週刊少年マガジン原作大賞

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