見出し画像

一生渡れない横断歩道

横断歩道  episode-1

出勤途中、家を出て直ぐの所に、見通しのいい片側一車線の道路がある。
そこは、信号機が付いてない横断歩道がひとつ。
朝のラッシュ時で、左右から来る車が多い。
車が切れるのを立って待っていると、
「え?渡らないの」
と後から来た老婆が、私の横を通り過ぎながら話しかける。
「だって車が止まってくれないでしょう」
 ちなみに、どこかの優秀な県とは違い、信号機の無い横断歩道で車が止まる確率がかなり低い県である。
「ほんと、交通ルールを守らないよね」
と言いながらも、あまり車も見ずにさっさと横断歩道を渡り始めた。
えっと驚きながらも、後に続いて歩く。
当然のことながら、横断歩道に近づいた車はブレーキをかけ停車する。
それにつられて、反対車線の車も横断歩道の前で停車した。
老婆の悠然とした行動に唖然としながらも、続いて渡る。

 た、確かに、ルール上、横断歩道を渡ろうとする歩行者が最優先され、車両は停車する義務がある。
とはいえ、100%相手に責任があるとはいえ、車にはねられたらどないするねん。
痛い目をするのはこちらである。
正義が勝ったとしても、ケガすれば負けたも同然である。

『ちゃんと交通ルールを守れ』
と、言ってることはわかるんやで。

『そりゃあ、そうだけど、、、』

横断歩道 episode-2

出勤途中のオフィス街。
幅6メートル、二車線の車道に横断歩道がある。
10人位の男女が、歩行者用信号が青色になるのを待っている。
その中にスーツを着た20代の青年が、新聞を読みながら先頭で立っている。
車道に動いている車がいなくなったせいか、歩行者用信号が青色になったと勝手に勘違いしたのか、突然、青年は新聞を見ながら横断歩道を渡り始めた。
歩行者用信号は、依然赤色のままである。
思わぬ光景に、まわりの者は何があったのか様子を理解できないまま、その行動を眺めるだけだった。
あと少しで渡り切ろうとした直前、青年がまだ赤のままだとやっと気づく。
すると、その青年は、走って元の場所まで戻ってくるではないか!
『え!戻る?』
そして、まるで何事も無かったように、また立ったまま新聞を読み始めた。
た、確かに、交通ルールを守りたかったのはわかるんやで。

『そりゃあ、そうだけど、、、』

横断歩道 episode-3

 会社近くに、利用者は少ないが、長さ20メートルのかなり長い横断歩道がある。
しかし、横断し始めると、ものの5秒も経たない内に、歩行者信号が点滅し始める。
「え~、まだ半分も渡っていないのに」
それでも、ようやく半分まで歩いた所で信号がなんと赤色になる。
といって、こっちは引き返すような出来た人間ではないし、なにせ会社に遅刻してしまう。
信号は赤色のまま、急いで渡りきる。

 歩行者信号が点滅し始めた時に、横断歩道の半分まで行ってない場合は、引き返せと教わった記憶がある。
これじゃあ、普通の人間なら、一生この横断歩道は渡れない。
ていうか、この信号機を作った担当者は、どうみても渡ったことがないのだろうといつも思う。

 横断歩道の形状を考えていない信号機だが、法は法である。
た、確かにちゃんと交通ルールを守らなあかん。

『そりゃあ、そうだけど、、、』

横断歩道 episode-4

 雨上がり。
片手に傘を持ち、片側三車線の広い道路の横断歩道を渡る。
 ちょうど道路の中央線に差し掛かったあたりで、一人の老人がかなり遅いペースで歩いて渡っているのに気づいた。一瞬、間に合うのかと感じたが、そのまま通り越した。
 ところが、こちらが道路を渡りおえた時、歩行者用信号が赤色に変わった。
振り向くと老人は、中央線ラインまで戻り、立ったままではないか。

 この信号で、止まっていた車は一台もいなかったが、車両用信号が一斉に青になったところで、一つ前の信号待ちをしていた車がこちらに向かってきた。

『ヤバくネ!』
と、咄嗟に老人の所まで走って戻った。
急いで傘を大きく振り回し、向かってくる車に合図をしながら老人を渡らせようとした。
 老人は一瞬、嫌そうな顔をしたが、こちらの意味を察したのか一緒に歩き始める。
 最初に来た車は、三車線の真ん中車線で、歩道の10メートル前で止まってくれた。
できた車だ。
しかし、老人の歩行は亀のように遅い。
よく見れば片足をひこずってる。
 早く渡れと叫びたかったが、焦って転けてはまずいと思いながら、なお傘を大きく振り回し続けた。

 ようやく残り一車線目に達した時、今度はその車線を別の車が、スピードを落とすこともなくこちらに向かってくる。

危ない!
と思った瞬間、歩道の直前で車線を中央車線に変え、あっという間に通り過ぎた。
どうやら轢かれずに済んだ。

確かに車両側の信号は青色で、歩行者側はとっくに赤色。
我々を認識したから車線を変更したのだろうが、10メートル前で止まり待ってくれていた最初の車とはえらい違う。
ここで轢かれても文句は言えないのだろうか?

唖然としながらも、どうにか横断歩道を二人で渡りきった。

老人をみると、
『だから、あそこで待っていたのに、いらぬお節介をしてくれた』
と言いたそうな顔で、うらめしそうにこちらを見る。
 当然、礼など無く、黙ったまま背を向け去って行った。

『まあ、そりゃあ、そうだけど、、、』

この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?