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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心に…

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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心にアメリカ文学を読んでいます。

最近の記事

ケルアックとブローディガンの『ビッグ・サー』

ジャック・ケルアックとリチャード・ブローディガンという二人のアメリカ人作家。ふたりの共通点は1960年頃にサンフランシスコに住んでいたことです。そして題名に『ビッグ・サー』とつく小説を執筆していることも一緒です。ビッグ・サーはカリフォルニアの地名で訳者藤本和子さんによると「あるときは点を示し、またあるときはカリフォルニアの太平洋沿岸に沿って細長く帯状にのびる土地、モントレーからサン・ルイス・オビスポまでの広がりをいう。」とあります。 リチャード・ブローディガン『ビッグ・サー

    • 『愚か者同盟』ジョン・ケネディ・トゥール

      いつも本を借りる市営図書館の新刊がおいてある棚で見かけたのが最初です。ピンクのカバーに『愚か者同盟』というタイトルでインパクトがかなり大きい、そしてあらすじも「警察にも追われるようになったイグネイシャスは、一癖も二癖もある奇人変人たちを巻き込んだり巻き込まれたりしながら逃亡劇を繰り広げ、ニューオリンズの街に大騒動を巻き起こす」とおもしろい予感しかしませんでした。 木原善彦さんが翻訳している本は難しいという印象があるので、最後まで読めるのか心配でした。でもイグネイシャスという

      • トゥーサン版『ルバイヤート』オマル・ハイヤーム

        フランツ・トゥーサンによる仏語散文訳オマル・ハイヤーム作『ルバイヤート』を邦訳した詩集です。なんの前知識もなく題名だけで購入しました。まずは表紙がかわいかったです。 オマル・ハイヤームは現在のイラン北東部にある都市ニシャーブで生まれたそうです。イスラム教徒らしいのですが、やたらと酒を飲む内容の散文が多いという印象です。イスラム教徒はアルコールだめだったような気がするのですが、こうゆうのは時代がたつにつれて厳しくなることもあるし緩くなることもあるのでしょう。宗教の解釈は結局ひ

        • フラナリー・オコナー『賢い血』

          主人公のヘイゼル・モーツはたしかに奇人だが、それ以外のひとびとはあんがいどこにでもいる普通の人々ではないかと感じました。フラナリー・オコナー独特のフィルターでみるとどんな人間でも悪意や欠点が際立って見えてくる、そんなフラナリー・オコナー節満載の小説でした。 フラナリー・オコナーにとって主人公のヘイゼル・モーツはイエス・キリストの再来をイメージしているのでないかと感じました。幼少のころ、祖父の説法を聞いたヘイズは「イエスを避けるためには罪を避けなければならない」と考えます。そ

        ケルアックとブローディガンの『ビッグ・サー』

          馬伯庸『両京十五日』

          ハヤカワ・ミステリ2000番特別作品。 「南京から北京、15日で1000kmの決死行。華文冒険小説の一大傑作」と紹介されているのをみて興味をもち購入しました。 紹介文のとおりにおもしろい冒険小説でした。明の時代を舞台にしていますが、皇太子朱せん基と下っ端役人五定縁がタメ口で喋るところからも歴史考察を重点としていないところが良いです。内容としては『ロード・オブ・ザリング』とまではいかないけど『ホビット』くらいのスケール感があります。 中国の歴史、広大な大地、長すぎる長江を反

          馬伯庸『両京十五日』

          遅子建『アルグン川の右岸』

          物語の舞台は現在の内モンゴル自治区最北端でロシアとの国境付近になります。自然とともに暮らしているエヴァンキ族、主人公の「わたし」が幼女から90歳になるまでのウリレンと呼ばれる集団共同体に集う人々の生きざまを語っていきます。 数々の強烈な印象を残すエピソードが次から次へと出てきます。私が最近読んだ小説だと、ジョン・アーヴィングの『あの川のほとりで』や『オウェンに祈りを』を思い出せてくれます。人種も物語の舞台も全く違いますが、家族の物語でもあるのでそう思ったのかもしれません。そ

          遅子建『アルグン川の右岸』

          創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

          トミー&タペンス『秘密組織』に続くシリーズ第二作目が新訳で出版されました。一作目はクリスティの小説のイメージとはちがう、若さやあぶなかっしさにあふれたとても楽しい小説でした。ポアロやマープルの有名な小説は全部を読んではないのですが大好きな小説が何作もあります。人間それぞれにプライドがあり、その一方でひた隠しにしている欲望もあります。その欲望が隠しきれない状態になったときに、勝敗を分けるのが人間の格であることがわかってきます。トミー&タペンス物はそうゆう重苦しさから全く逆の古い

          創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

          『レッド・アロー』ウィリアム・ブルワー

          レッド・アローというのはイタリアを縦断する特急列車の名称だそうです、さらに物理学のなかでは時間の流れを表す記号をさすことばになるそうです。その2つは当然物語のなかにでてくる事柄になります。 あらすじはというと主人公のぼくがまったくの偶然で出版することになった『ボーイスカウト』という小説がまぐれ当たりをします。そして、次回作として1995年にウエストバージニアでおきたヘキサシクラノール9がモノンガヒーラ川に流出した事故を題材にしますが、主人公のぼくには小説を執筆するつもりがま

          『レッド・アロー』ウィリアム・ブルワー

          『ハリケーンの季節』フェルナンダ・メルチョール

          メキシコのどこかにあるラ・マトサという村にいる魔女が殺され死体が発見される。犯行現場近くにいたジェセニア、そのいとこのルイセミ、ルイセミの母親チャベラ、そのヒモであるムンラ、そしてルイセミに助けられたノルマという少女がそれぞれ語っていくうちに魔女が殺された経緯が少しずつあきらかになっていくという物語です。 登場人物がスマホを使用していることから現在の話であることがわかるが、それなのに魔女がでてくるというのはどういうことだろうか。登場人物がすべてアウトサイダーであり、ドラッグ

          『ハリケーンの季節』フェルナンダ・メルチョール

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          題名だけで読んでみようと思い、いつもいく本屋に在庫があったので購入しました。予想より本に厚みがあって(518ページ‼)躊躇したのですが、西加奈子さんの推薦文に後押しされて手に取りました。本の帯にはこうあります「何世代ものイギリス黒人女性たちがたどってきた可笑しくて哀切、心揺さぶる物語、ウィットに富んだ鮮烈な文体で語る」。フェミニズムが強すぎて物語としておもしろくないといやだなと思ったのですが、杞憂に過ぎなかったです。どのエピソードもユーモアがあり、どの登場人物も弱さだけではな

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          ニューヨークのサンセット・パークにある廃墟のビルに不法滞在する若者四人。マイルズ・ヘラー、ピング・ネイサン、アリス・バークストロム、エレン・ブライスが何者でもない若者がなにかを為し得てやろうともがく姿が描かれています。 四人はそれぞれ思惑があって一緒に生活をすることになります。結局、自分が大事で他人のことはかまってられないというのが本音かもしれません。それぞれの他人との関わりあいかたが微妙な距離感を持って描かれています。 ピングが一人で喋って、マイルズが聞いているんだかど

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング

          主人公のジミー・ガードナーは詩人でアルコール中毒で元妻を拳銃で撃ち殺しかけた男。キングの小説でアル中が登場することは多いが、今回は主人公に抜擢されています。 ジミー・ガードナーはしがない詩人でドサ回りの詩の朗読会(ニュー・イングランド・ポエトリー・キャラバンというあまりメジャーでなさそうな名前)に参加して日銭を稼いでいます。自分の番が回ってきてもまったく詩が浮かんでこないガードナーの脳内にメイン州ヘイブンから元恋人で唯一の友人であるボビ・アンダーソンからのテレパシーのような

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング

          シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』

          まず、主人公のマーリンダ・アルメイダ・カバラナ、カメラマンでギャンブラーでヤリチンである通称マーリのキャラクターが面白い。悪ぶっているというか、いいやつと言われたくないという感じ、正直言って好感がもてる人物です。 これが世間のマーリの評価になります。かっこいい男がいれば誘惑し、収入はすべてカジノに突っ込むようなわかりやすいクズ男。そんなマーリが撮影する軍の住民への虐殺や政治家のスキャンダル写真はどのような評価を得るのだろう。金のためとおもわれるのかもしれない、マーリは評価を

          シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』

          『勝手にふるえてろ』綿矢りさ

          綿矢りさの『パッキパキ北京』はものすごく面白い小説でした。他の小説も読んでみようと思い、近くの本屋さんで買ってきました。 主人公の女性に片想いの男と彼女に好意を寄せる男がいる、ほぼ3人だけの狭い世界です。でもじつは二人だけかもしれません。彼女と彼女に好意を夜よせる通称『ニ』しかいない世界。彼女の片思いの男『イチ』は実在しないかもしれない、読み進めるとそう考えるほうがしっくりくると感じました。 彼女の妄想の中だけで生きているイチ。イチを『イチゴ』に例えているからであろうか、

          『勝手にふるえてろ』綿矢りさ

          『グレート・サークル』マギー・シプステッド

          題名が気に入ったので購入しました。本屋で見つけたときは800ページもあることにすこし驚きました、読み出してみると面白くて1週間ほどで読み終わりました。 現代場面での主人公ハドリー・バクスターはパパラッチに追っかけられるような、いわゆる尻軽女のレッテルを貼られているような女優です。彼女が世界一周飛行に挑んだ女性マリアン・グレイブスを演じることから物語が始まります。ハドリーがマリアンの日記を読み、マリアンの血縁者に合うなどしていきます。演じるための参考という意味合いがあるが、も

          『グレート・サークル』マギー・シプステッド

          コルソン・ホワイトヘッド『ハーレム・シャッフル』

          『地下鉄道』『ニッケル・ボーイズ』のコルソン・ホワイトヘッドが2021年に刊行した新作が邦訳されたので読んでみました。 1959年のニューヨーク、主人公のカーニーは黒人であるがゆえの差別を受けている。たとえば取引先の電化製品修理店にいっても白人の店員に無視されるような屈辱を日常的に受けています。しかしカーニーからはそんな差別は柳の木のようにかわして跳ね返す賢さを感じることができます、小説の冒頭からは明るい希望のようなものを感じることができます。黒人でも白人と対等にビジネスが

          コルソン・ホワイトヘッド『ハーレム・シャッフル』