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和裁のきほん② 【和裁の必要性】手縫いとミシンの違いを詳しく解説


▶︎▷このnoteを読んで分かる3つのこと

1 手縫いとミシンのメリット・デメリット
2【和裁わさい洋裁ようさいの違い】外せない補足3種!
3 和裁を必要だと言えるか否か

以上3点を踏まえて、前回に引き続き【和裁と洋裁の違い】を縫製ほうせいの視点から詳しく説明を付け加えていきます。

前回note、和裁①【和裁とは】和裁と洋裁の具体的な違いを6つ取り上げています↓↓


⚫︎ミシンと手縫いの違い

洋裁で使うミシン縫いと手縫い運針うんしんの違いは、布に針を刺した際の、縫い糸の渡り角度にあります。

ミシンと手縫いでは布への負担が変わる

⬜︎ ミシン目(直角縫い)

・糸は上糸と下糸とで2本
・針は真上から【直角】に通る
強度があるため縫い目に遊びがない

……………………………………

⬜︎ 手縫い(運針うんしん/流れ目縫い)

・糸は一本
・布に対して斜めに針が通るため【流れ目】
・縫い目の遊びがあり強度が調整できる

縫い糸の引っ張り強度と渡り角度の減少は、縫い目の強度に影響し最も強度の強くなる角度は90°です(縫合時ほうごうじ)、そのためミシン縫製は最も丈夫な縫い目と言えるでしょう。
しかし、渡り角度が90°に向かうにつれて、生地の破断率はだんりつが上がるため縫い目の強度が強ければ強い方が良いとは言えません。(※参考資料は下記)

加えてミシン縫製は上糸・下糸の2本糸で糸の強度が増すために、生地の損傷は避けられないと考えられます。

また、縫い目が細かくなるほど負荷ふかが加わった際の生地の破断率はだんりつが上がります。その破断の形跡けいせきミシン縫製よりも手縫い運針うんしん損傷そんしょうを小さく抑えられます。

つまり和裁の運針うんしんは、素材の織り糸のゆがみや損傷を最小限に抑えながら和服を長持ちさせられる我国に必須の技法だと言えます。

▶︎▷和服の仕立ては負荷の加わりやすい部分を適度に細かく縫いながら全体の力加減を調整して仕立てられる手縫いがベストと言えるのです⭕️

縫い目の違いに伴うそれぞれの変化

⚫︎まとめ

【ミシン縫製メリット・デメリット】

⭕️縫い目に強度がある
⭕️比較的安価に仕立てられる

❌縫製の強さ故に布が裂ける可能性がある
❌針穴が残って消えない
❌仕立て替えが不可能
❌解きにくい

【手縫いのメリット・デメリット】

⭕️縫い糸の強弱を加減して縫製出来る
⭕️仕立て替えが可能
⭕️解きやすい
⭕️縫い目への負担が蓄積されると、先に縫い糸が切れるため布を傷つけない

❌高価になる

ミシン縫製で縫い目の強度が強い方が、ホツレが発生し難いために安心感が生まれるとも考えられますが、仕立て替え可能という和裁最大級の利点を損なってもミシンで仕立てるべきかは熟考しなくてはなりません。
それぞれの利点を心得た上で選択したいものです。

手縫い仕立ての着物を羽織に仕立て直しました
元の針目も損傷もは一切ありません⭕️

⚫︎【和裁と洋裁の違い】外せない補足3種!

・①用意する布のサイズが違う

和裁で使用する布は反物たんものと呼ばれ
・長さは着物で約12m
・幅は約35㎝
・1反で着物1枚分
を仕立てることが出来ます。

仕立て前の反物姿

洋裁で使用する布
幅は約90㎝〜150㎝と幅広
・型紙を使って一度に多くのパーツを裁ち切ることが出来る
・大量生産に向いている

一反で一着分しか取れないの和服と、大量生産に向く洋服とでは縫製の面からも考え方が異なるのは必然です。


・②耳を使用する和裁

⬜︎耳を裁ち落とす・洋裁

洋裁では製品を縫製する際、縫い代であっても【耳】を使用することはありません。

洋裁用の布の耳は歪みや穴が有り、耳を縫い代として仕上げてしまうと、段差が生まれたりゆがみの原因になる可能性があるためです。(※実際の布幅から耳を引いた、有効幅ゆうこうはばのみが縫製に使われます)

洋裁生地【耳】

⬜︎耳を裁ち落とさない・和裁

和裁では耳を裁ち落としません。
その理由は大きく2つあります

①仕立て替えを可能にするため

両者の耳には違いが有り、和裁反物の耳を残しおくことは布端処理の手間を省き、和服最大の利点である再生可能な役割を果たすために実用的な判断です。

(先写真)洋裁生地の【耳幅】1.5㎜
(下写真)和裁生地の【耳幅】5㎜

両者に1㎝の違いがあります。有効部位ゆうこうぶいが広い洋裁生地と比べ、反物幅は約36㎝と狭いので耳を小さくし縫製可能部位を広く取れるように工夫されています。さらに縫合時表面に影響が出ないよう滑らかな仕上がりです。

②裁ち落とす必要がないため

耳を縫い代として使用しても問題のないように仕立てでは、引きつれている耳は落ち着かせたり、生地の歪みを直すなど手仕事ならではの工夫を行っています⭕️

和裁反物の【耳】

・③廃棄はいき布が出ない


型紙を使って各パーツを裁ち落とす洋裁では、不要な裁落屑さいらくくずは廃棄されます

しかし和裁は縫い代を裁ち落とさないため廃棄布の出ない縫製と言えるのです(※不使用布は全てお客様にお返しします⭕️)

廃棄布の出ない仕立て

洋服は立体縫製
和服は直線縫製

着用する人間は変わらない、変わらないのに如何にして直線裁断・縫製のまま着心地の良さを提供するか。
立体縫製を行う洋服が活動的な着心地を提供できることは言うまでもありませんが、和服を着たくなるのは利点に伴って心に響くものがあるからではないでしょうか。

和裁と洋裁の違いは着心地に至るまで存在しますが、どちらも工夫を続けながら現代に引き継がれています。それぞれの利点を理解して使い分けていきたいです。


⚫︎和裁は絶対に必要だと言える

和裁の必要性は言わずもがなではありますが、衣食住の頭にある【衣】を司る裁縫技術ですから基礎生活面においても必要性を欠くことはできません。

先の運針とミシン縫製の違いで示した通り手縫い運針は、和服の長期保存を可能にするためにも我国になくてはならない技術です。

普段の社会生活上で和裁も洋裁も区切ってしまえるものではありませんが、和裁の運針技術を身につけていれば、洋裁のなみ縫いも、まつり縫いに代替できる作業も、普段から手縫いを行っていない方に比べると、短時間で作業を進めることが出来るでしょう。
洋裁導入の基礎縫い段階でも【運針うんしん】を取り入れられているので(ものぐさの経験上)洋裁においても勿論必要であると言えますし、和裁の技術を伴って洋裁を行うとスムーズに作業が進められるのは、手指の動かし方などの基礎が身についているからです。つまり和裁の技術を|以もっ《》て裁縫技術は更に向上すると言えるでしょう。

普段生活の衣食住に関わるトラブルで最低限のことは自分で指揮監督しきかんとくできる様にしておきたいもの。その事について仰っている先生の言葉を一部抜粋して掲載させていただきます。

第一章 總論そうろん
およそ女子のおさむべき技藝ぎげいは多けれども、就中なかんづく、裁縫は、古より貴賤貧富きせんひんぷわかちなく、婦女の技能中の最も肝要かんようなるものとしてそれをかぞへたり。
これの技のたくみなることしからざることは、家事を整ふるにおいて少なからざる影響あるがゆえなり。
たとえ富貴ふうきなる人にして、自ら手を下すの用なしとするも、其の指揮監督は決して他にゆだぬべきものにあらず、しからざれば意外の不経済となり、あるいは他のなせるわざの良否をも見分くることあたはずして、測らざる恥辱ちじょくをも招くことあるべければなり。

大正2年 今村順子 裁縫教科書

↑上記を現代風に訳すと

『女子が修めるべき嗜みは多いのだが、中でも裁縫は身分の高低や金持ちや貧乏人の区別なく、女子の技芸中に最も重要な嗜みの一つです。一定の技術を身につけておかなければ、家庭内にを整えるにおいても少なからず影響を与えるでしょう。
裕福な方で自ら行う必要なしとしても、その指揮監督は決して他に委ねてはならないのです。ここを怠れば家内が効率の悪い不経済となるだけでなく、その他技芸の良し悪しを見抜くことも出来なくて、思わぬ場面で恥をかくことがあるでしょう。』

男女雇用機会均等法の制定されていない大正時代の考え方なので、今と比べると認識に違いがあれど、的を得ている考え方ですし、本当の裕福さについて考える一つのきっかけにもなりうる言葉です。

…昔ブランド物しか身につけない人が、僅わず》かに縫製の|歪《ゆがんだシャツを着ていたので、購入場所を尋ねてみると、恥ずかしそうにもう二度と着ないと言っていた。

文明の利器に溢れる社会で、和裁の技術が必ず必要だと訴える声は少ないのですが、私は絶対に必要だと思っています。それはボタン付けやスカートの裾上げ、ほつれ直し等簡単な繕い物だけでも行える技量を持ち、些細ささいな事だけでも我がの尻ぬぐいを出来るようにしておきたいから。今の視点からですが良い物は良いと見抜く力を身に付けていて良かったと感じているからです。

最後までご覧くださいまして誠に有難う御座いました。以上、ものぐさ和裁師でした🪡

仕立てのご依頼や相談はこちらから承っています↑↑


参考資料
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1987/51/10/51_10_971/_article/-char/ja/「和服構成時の縫い糸の渡り角度と縫い目の強さ」

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