ほんとにただの、2月の「日記」。
2月。
立て続けに、このすてきな連載に出会ってすぐに、「日記」を書こうと決めた。
厳密にいうと、「日記」は書いていた。
古賀史健さんの『さみしい夜にはペンを持て』に出会って、手書きノートに綴っていた。
でも、しっくりこない。
「日記」の書き方が、よく分からない。
そんな時に見つけた、くどうれいんさんと古賀及子さんの日記。
私の中で「これだ!」が弾けた。
その日から毎日、携帯のメモに書いてきた2月の「日記」を投稿する。
人前に出せるように手直しを加えたので、ややぼかしと脚色が入っているが、ほんとにただの「日記」である。
くどうれいんさんや古賀及子さんのような、軽やかで、情景浮かぶ描写には遠く及ばないが、真似をするのは楽しかった。
20日以上あるため、とても長い。
もし読んでいただく際は、どうぞ適当に流し読みを。
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2月6日(火) 初日記
日記を打とうとしたら、今日が何日かさえ分からない自分に気がついた。毎日をなんとなく生きている証拠か。
くどうれいんさんみたいな日記が書きたいけど、あんなふうに「忘れちゃうようなこと」をひとつまみ切り取って書くのって、どうやるんだろう。わたしは、あれもこれも書きたくなって絞れない。長い一日のどれを書けばいいのか。
くどうさんは、忘れないことは書かなくていいって言ってたから、ほんとに絶対、明日には忘れてしまうようなことを書こう。
2月7日(水) 気遣い
たとえば、自販機で缶コーヒーを買う。そのとき、自分のだけじゃなくて、夫の分も買ってあげればいいのか、と思い立った。過去、そういう場面が何度かあったが、私は夫の分まで買っておいた試しがない。
だってそのとき、夫が何を飲みたいかわからないし、いらなかったら迷惑だろうし。本当に欲しいなら、あとで自分で買いに行くだろうと思って。でもそこをあえて買っておいて、「ほら、よかったら飲みなよ」とサッと渡してあげられたら、それが思いやりとか気遣いってやつになのかな。
迷惑になるくらいならやらない方がいいって思いがちだけど、やらなかったら「ゼロ」なのだ。場合によっては、ありがた迷惑をするくらいの方がいいのかもしれない。ほんと、今更だけど。
2月8日(木) 夢
甘いものばかり食べ過ぎて、下腹のあたりが重いのに、お腹が空いていると錯覚する。暴食期が来ている。下腹の前の方に蓄えるゾーンみたいなのができていて、食べても食べてもそこに入るので、無限に食べられる気すらしてくる。
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昨晩、長男が大きな道路に飛び出す夢を見た。眠れなくなった。我が子が出てくる夢は、いつも恐ろしい夢ばかりだ。昔は夢が楽しみだったけど、今はなるべく見たくない。
2月9日(金) 悶々
次男のことで、他のママの発言に傷ついた。あまりに悶々としたので妹に電話し吐き出した。だれかに吐き出さずにいるには、あまりに嫌だったので。
2月10日(土) 発表会
朝からタスクが多い日。
長男の園の発表会、かわいかった。でも、できることやできないことにばかり目を向けてしまう自分は、やなヤツだなと思った。
2月11日(日) お母さん力
遠方から、親族が来ている。珍しく。テンションの上がる息子たち。人が増えると、おなじ家でもこうも雰囲気が明るくなるのかとしみじみ驚く。
姪っ子も来てくれて、かわいいかわいいと愛でた。姪の世話を手伝ったら、さすがだと母に褒められた。そうか、こんなことがうまくできるようになっていたなんて、わたしもちゃんと「お母さん力」がついてるんだな、と自信が持てた。
2月12日(月) 結婚
親族がみんな帰って行った。家がいつものほよーんとした空気に戻った。
甘えるのを我慢していた夫が、「みんなの中にいる◯◯ちゃん(私)は、小さくてかわいかった」と言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。それを見た長男が「結婚みたいだね」と言った。
2月13日(火) 弁当
朝から長男の弁当を作った。今日はサンドイッチがいいのだとか。
昔、とあるママが「冷凍食品は一度も使ったことがない」と話していたのを思い出した。「すごい」と思うと同時に「なぜ?」とも思った。冷凍食品は悪。同世代ママでもそういうふうに思うなら、園の先生や上の世代の人はもっと思っているんだろうか。毎回、冷凍食品のコロッケをメインに据えるうちの弁当は、このママからすれば手抜きで愛がないのだろうか。
冷凍でもなんでもええやん、と強気でいられない。わたしの心がくよくよする。
2月14日(水) 失態
自分が嫌になる。大切なものをなくしてしまった。その場しのぎをするからこうなる。さすがにに凹んで、やる気が出ない。
バレンタインのクッキーを焼いたのに、「こんなことしてる場合じゃないのに」という気持ちが勝ってしまって、達成感がない。
どうして私はこうなんだろう。
そう思うたびに、昨日たまたまnoteで読んだ「ありのまま事実を受け止める」という話が頭に浮かんだ。なくした事実を受け止めるだけ。それで悩むのは終わりにする。頭では分かっているんだけど、なかなかすんなり切り替えられない。
2月15日(木) 気まずい
夫の協力のおかげで、なくしたもののひとつを取り戻した。自分の失態で夫に迷惑をかけている。そういうとき、何を言っても良くない気がするが、黙っているのも空気が悪い。これが、気まずいというものなのか。
他の無くしものを取り戻すために、必要な箇所に電話すると、対応があっさりしていて拍子抜けする。「なくしちゃう人、よくいるんですよ」などと言われて、「なくしたのは私だけじゃないんだ」と安堵してしまう。そういうことじゃないのに。それでも、軽やかな対応をしてくれた電話口の方のおかげで、心が少し楽になった。
2月16日(金) 長靴
連日の雨で水たまりが多い。雨上がりに外に出ると、次男が躊躇なく水たまりに入るので、今しかないと長靴を履かせてやった。兄のお下がりの青い長靴だ。
玄関で履かせると、次男はポカンとして動かなくなった。何度も足先を指さして、首をかしげ、しまいには、座り込んで一生懸命脱ごうとする。ははーん。どうやら靴だとわかっていないな。しかし歩くのも難しいようで、残念ながら長靴デビューはお預けとなった。
2月17日(日) note熱
ここ数日、「note」熱が冷め気味である。毎日投稿の縛りがないからか、あまり力を入れて書けない時期だ。
書くことは、自分を見つめることだ。その時間をとっていない。自分に向き合っていないから、書きたいことも湧いてこないのか。はたまたそれすら、考えたくないのか。なんせ受け身だ、頭が。
2月18日(月) イライラ
イライラする時期が到来中だ。ホルモンバランスのせいで、月に一度必ず訪れる。そしてその時は、自分の不遇さばかりに目がいってしまう。自分のターンが来ないことに、もどかしさと苛立ちを抑えきれない。
そしてその矛先は、どうしても隣の夫に向きがちだ。自分がどうしたいか察してもらおうとせず、相手に言えばいいだけなのに。うまくできないんだ、この時ばかりは。
口をひらけば、憎悪にまみれた刺々しい言葉を吐きそうになるので、黙っておく。無だ。今は無になるのだ。
2月19日(月) 夜中
こういう不調のときに限って、次男が夜中に覚醒した。2時だ。まったく布団に置けない。姿勢も変えられないから、やむを得ず片手でこれを書いている。何か書かなければ、発狂しそうだ。先ほど、あまりに眠くて思わずソファーを蹴り飛ばしたら、抱っこしていた次男が振動にけらけら笑った。怒りがしゅるるとおさまった。
2月20日(火) 電卓
長男が欲しいというので、電卓を買ってやった。ダイソーの330円のやつだ。帰ってからずっと数字を打っては夫に読ませている。「何万何千何百‥‥」と延々読まされる役は、わたしはごめん被りたい。
2月21日(水) ステーキ
昨日、肉が食べたいと思い、張り切ってステーキを焼いた。焼け具合を確かめたいのと、匂いにつられたのとで、ついフライパンの中の一切れをトングで掴み、そのままポイっと口に入れた。上手く入れたつもりが、下唇の端に肉が当たって、思いっきり火傷した。あまりに愚かだ。「つまみ喰い」という愚か者の行為を、神は見逃さないんだなと思った。
2月22日(木) 推し
推しが欲しい。わたしの母は、今推し活に夢中である。特定の一人を、そんなにも強く推せる母が羨ましい。聖地巡礼で全国を飛び回り、グッズの販売待機をして、知らない人とのコミュニティに入る。推しがいれば、そんなことが可能になるのだろうか。推しがいれば人生楽しいと母は言う。芸能人でなくても、二次元でもいいから、私も誰か推してみたい。
2月23日(金) パン屋
寒くて小雨が降り続いている。そんな中、家族で傘をさして散歩した。思ったより寒くて、手が悴む。
近所のパン屋さんの前を通ったとき、あたたまりたくて「寄っていく?」と声をかけた。夫は賛成してくれたが、長男には「朝パンだったからいい」と断られてしまった。残念。
しかし数歩進んだところで、パン屋から香ばしい匂いが漂ってきた。すると、長男が「‥なんか、いい匂いするな、やっぱ行ってみよか」と足先を変えた。おお。4歳も匂いにつられるなんて、パンを焼く匂いは最強だ。そう思いながら、パン屋の戸を開けた。
2月24日(日) ティッシュ
「テーブルに使ったティッシュを置きっぱなしにしてたら邪魔やでえ」と、急に長男が偉そうに言い出した。
でも、指差しているのは、長男がこぼしたご飯を拭いたティッシュだった。だから、「それ長男くんがこぼしたやつやで」というと、長男は「あれ?」と気まずそうにして、てへへと笑っていた。ずるい。許す。
*
夫に、ちょっとした病が発覚。
私も大切な物を無くしたばかりだし、もしかして今月は厄月なのか。よくないことが続くと、よくない波がきているなどと、不必要な意味をつけたくなる。
2月25日(日) 夫の病
夫の病がとつぜん起きるものなので、いつ来るのかおそろしい。何度も起きた時のことを頭の中でシミュレーションし、動揺しないよう意識を高ぶらせている。肩が凝る。
2月26日(月) あの頃
だらだらするか、家事をするか、読書をするかをハッキリ決められず、動画を見ながらマッサージをして、読書して携帯を打ち、途中で味噌汁を作った。
読書は、くどうれいんさんの『うたうおばけ』の続きを読んだ。夫ミドリさんとの交際の一編が出てきて、ときめいた。ロマンチックだ。本人にとっては、そうでもないだろうけど。
自分たち夫婦の付き合ったきっかけを思い出す。あの頃の夫はかわいかった。今もだけど。
相変わらず夫の病の症状に変化がない。私の知らないところで、すべて終わればいいのに、と薄情なことを思う。でも好きな人の苦しむ姿なんて、やっぱり見たくない。
2月27日(火) 霰
霰が降っていた。雹かと思ったが、そこまでじゃない。霰と雹の違いは大きさなのだそうだ。小さな霰がポロポロぶつかってくる中、きゃあきゃあ言いながら息子たちと車に乗った。「霰って何?」という長男の質問にうまく答えられなかったので、帰ったら詳しく調べよう。
2月28日(水) カレンダー
カレンダーを「3月」に変えた。少し早いけど、もう月末にはなんの用事もない。3月の予定を早く書き込んで、来月は何が待ち受けているのかという、心の準備を整えたくなるのだ。
2月29日(木) 読書記録
先月に引き続き、今月読んだ本、読みかけの本もここに記録する。
杉井光「世界でいちばん透き通った物語」
くどうれいん「うたうおばけ」
古賀及子「ちょっと踊ったりすぐにかけだす」
吉本ばなな「違うことをしないこと」
絢辻行人「十角館の殺人」
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身バレ防止のため、7000字近かったのを4000字まで削った。
ぼかしすぎて、端的な内容になったところがあるが、仕方ない。
読み直す時のために、タイトルもつけてみた。
2月は、落差の激しいひと月だった。
私の心が荒ぶると、家族全体が揺さぶられる。穏やかで、平坦な母でありたい。
しかし来月も、それは無理な気がする。
穏やかでいるためにも、「日記」を書こう。
「日記」は、心を捉える材料になる。
その日の出来事、忘れそうなこと、心に浮かんだ思いつきを書き並べ、月末に俯瞰してじっくり眺める。
そして「ああ今月も、生きてきたんだなあ」と自分を労る。
来月も、そんなゆとりある生き方がしたい。
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