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臨床推論 Case144

Braz J Infect Dis. 2004 Aug;8(4):324-7.
PMID: 15565264

【症例】
64歳 男性

【主訴】
咳嗽 睡眠への恐怖

【既往/治療歴】
なし

【現病歴】
■ 咳嗽、倦怠感、嗄声、微熱が出現した
■ 発症の1週間前より妻に同様の症状あり 妻の方が軽微な症状であった
■ 咳は数日で悪化し、3-5分ごとに白い痰を伴うようになった
■ 30-45分間眠ると、口の中で分泌物が貯留し、喉頭あたりがイガイガし、制御できない横隔膜の痙攣性の運動により、30-60秒間呼吸ができなくなる
■ 時々これが原因で15-30秒間失神し、転倒にして負傷(脚、腕、頭部の打撲)した
■ 患者は寝ている間に窒息することが怖くなって、睡眠できなくなてしまった
■ これらのエピソードを回避するために、一晩中椅子に座る、読書をする、冷たい飲み物を少しずつ飲む、軽食をとる、上気道の分泌物を継続的に取り除くなどを行い、ずっと寝ずに起きている
■ 発症10日目に救急病院を受診された

【現症】
身体所見:軽度の咽頭発赤あり、間欠的な喘鳴あり
バイタル:問題なし
胸部Xp:明らかな異常なし
ラボ:WBC7500(分画は正常)
喀痰検査:痰は灰色で塗抹ではグラム陰性桿菌を認めたが培養では正常細菌叢であった

【経過①】
■ ウイルス性感染症からの細菌感染症としてオーグメンチンを処方された
■ しかし1週間経過見たが全く改善なし
■ マイコプラズマ感染疑いとしてクラリスロマイシンに変更された
■ しかし追加検査でウイルス検査は陰性、マイコプラズマ陰性、Chlamydia pneumoniae IgG陽性、IgM陰性であった
■ 喀痰PCR検査でとある菌が陽性になった

What's your diagnosis ?













【診断】

百日咳

【経過②】
■ PCRでBordetella pertussisが陽性と報告された
■ Chlamydia pneumoniaeのPCRは陰性であった
■ クラリスロマイシン開始後10日目、ステロイド投与後5日目に、粘液分泌と痙攣の程度が減少した
■ クラリスロマイシンは3週間継続した
■ その後6週間で発作性咳嗽は消失したが、ほこりっぽいところに対する過敏反応による間欠的な咳嗽は8ヶ月間持続した

【考察】
■ 小児科医は”whooping cough”を百日咳の診断を示唆する徴候として用いている
https://www.youtube.com/watch?v=S3oZrMGDMMw

赤ちゃんは確かに命に関わりそうな咳の仕方です

■ これは制御不能な発作性の激しい咳嗽、呼吸時の「喘鳴」音、咳嗽時の吐き気や嘔吐、無呼吸期間が含まれる
■ これと同じ症状が成人患者でも報告されている
■ しかしこれら百日咳に特徴的な症状の精度は失われつつある
というのも他の呼吸器感染症の症状の表現にも用いられている可能性がある
■ 例えば「発作性咳嗽」という言葉は、咳嗽が周期的な間隔で突然発生することを意味するが、ほとんどの呼吸器疾患でみられる徴候である

■ 百日咳の特徴的な症状は以下の通り
▫️ 横隔膜の痙攣性の運動によって呼吸を妨げ、同時に吸気と強制呼気が混在する喉頭音を引き起こす
▫️このプロセスは咳嗽を「あえぐような咳」と表現することにもつながる
▫️子供はこれらのエピソードの間、嘔吐する傾向があるが、成人はこの反射をコントロールし、嘔吐ではなく吐き気や空気嚥下を経験するかもしれない ▫️百日咳の徴候として「無呼吸」と表現されているのも正確ではあるが、呼吸しようとするあえぎよりも呼吸できないことを強調しすぎているかもしれない
▫️百日咳の特徴的な症状は夜間に発生するため、診察時に医師が観察できない
▫️日中は分泌物を継続的に除去し、鼻呼吸で上気道への突然の刺激とこれらの徴候が起きないようにしているためである
▫️これらの症状は病気の最初の1週間に最も顕著に認める
▫️なぜなら患者はこれらの症状が起きないよう学習するからである

■ 日本人の成人の百日咳様症状を呈した33例のうち、確定がついた14例と非確定19例のデータ比較(日呼吸誌, 3(5): 665-670, 2014)
※百日咳様症状:2週間以上咳が続き、発作性の咳き込み・吸気性笛声音・咳き込み後嘔吐のいずれか 1 つの症状がある患者

➡︎炎症反応は上昇しない(受診までに一ヶ月空いているからかもしれないが)

➡︎limitationにもあるが、百日咳様症状を呈した人たちの解析なので臨床症状から他の疾患との鑑別は困難である

■ 海外の報告では咳嗽後の無呼吸、嘔吐が多い(J Infect Dis. 2000 Jul;182(1):174-9.)

■ PCRによる診断が可能になったため、こういった最新の技術をいつどうやって運用するか見直す時期に来ている
■ PCRによって百日咳の治療は発症後数日以内に開始できるようになった
■ ”慢性咳嗽=百日咳の鑑別を挙げる”のは間違いかもしれない

■ なぜなら(古典的な治療法として)抗生物質治療は病気の早期の段階しか有効ではないためである
➡︎ Mandellには治療については未だにcontroversialとされている

■ 少なくとも2週間の咳があった患者だけを診断検査の対象とすることは適切な療ではない(かもしれない)
■ しかし咳嗽患者全例に実施するわけにはいかず、詳細な病歴をとることによってのみ判断する必要がある

■ 治療についてMandellの記載は以下の通り

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