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箱根駅伝は手段であり、目的ではない

 今回の箱根駅伝、沿道での応援が戻ってきて、あらためて人気の高さを感じました。陸上競技はもともと個人競技(リレーを除く)ですが、駅伝はチームスポーツでかつ、区間配置の采配など走力以外の戦術、戦略の要素も加わります。それによりゲームとしての面白さも生まれますし、テレビ放送の影響により、人気がこれほどの規模になりました。私自身も駅伝の魅力にとりつかれた一人です。日本特有の文化ですが、陸上長距離の競技人口拡大や人気向上に大きく貢献していることは間違いありません。箱根駅伝を目指して、走り始める中高生も多いことでしょう。まさに夢舞台と呼ぶにふさわしい大会なのだと思います。

運営管理車からの光景 
2区斎藤将也

 ただ、その箱根駅伝が終わったばかりの今、強く感じるのは「指導者は箱根駅伝の結果を目的にしてはならない」ということです。箱根に限らず、駅伝はもともとオリンピック種目へ向けた「強化の手段」であり、大会を通じて、競技力向上を目指すものなのです。
 具体的に言えば、駅伝を中距離や5000m、10000mの記録向上につなげる視点を持ち、さらに距離の長いマラソンへとつなげる視点を持つべきということ。そして日本選手権など高いレベルで活躍し、世界へ羽ばたく。それこそがこの大会創設の原点であり、指導者はその本質を理解しておかなければなりません。

 1区間がほぼハーフマラソンと同じ箱根駅伝と、トラックの5000m、特に1500mは完全に別物です。世界的に見ても同シーズンに1500mとハーフマラソンを両立している選手はいません。
 一方で新しい思考により、二刀流の考えも多くのスポーツで生まれてきました。異なる種目を両立させるには情熱と相応の準備が必要ではありますが、若い選手がそこにチャレンジするのは良いことだと思います。昔は「二兎を追うものは一兎も得ず」と言われていましたが、「二兎」を追う考え方も有りで、得られる効果も高いと私は考えています。多様性が求められている現代社会と重ねても、これまでの常識にとらわれる必要はないのです。

 トレーニング理論に照らし合わせると「全面性の法則」というものが当てはまります。これは全身のさまざまな部位、機能をバランスよく刺激し、鍛えることが能力や競技力向上につながるというものです。スピードランナーであっても長距離走などによる持久力強化は必要ですし、スタミナ型の選手も短いスピード強化が必要です。もっといえば箱根駅伝の5区山上りの強化も、傾斜により平坦な路面の走行とは違ったベクトルへの動作により、筋力向上や多様な動きを習得することができますので、他の種目につながる利点は多くあります。

クロスカントリーでは様々な要素を鍛えることができる

 ただ、すべての選手が卒業後も競技を続けるわけではありません。実際は大学で引退する選手が大半で、彼らは箱根駅伝が最終目標になっています。もちろんそのことに問題はありません。目標に向かい、信念を持って苦しいトレーニングに耐え、最後までやり遂げた達成感は、社会に出るにあたり大きな自信になります。そして少し軽い言い方になりますが、選手にしてみれば承認欲求を満たす場としてこれ以上の舞台もないでしょう。
 しかし卒業後も競技を続けたい選手にとって大学4年間は基礎づくりの時期と見ることもできますので、少なくとも私は箱根駅伝をゴールと考えず、選手の未来を見据え、可能性を広げるコーチングを目指しています。能力の高い選手が大学で心身共に燃え尽き、卒業後に競技力を伸ばせないのは本当に残念だと思うからです。

エアロバイクによるトレーニング。心拍数を確認して評価する

 城西大学では、引き続きハーフマラソンの強化を行うものもいれば、4月からのトラックシーズンへの準備を進めるものもいます。来年の箱根駅伝は3位以内を目指しますが、このnoteで繰り返し書いている通り、駅伝だけを見据えた強化ではなく、選手それぞれの個性を活かした強化と多様性のあるチーム作りしていくつもりです。
 今後は来シーズンに向けてサポートに回った選手たち含め全員が新たな可能性を探りつつ、他のトラック種目でも競ってくれると信じています。特に中距離種目の活躍にもぜひご期待ください。

多くの方がとても喜んでくれました。めで鯛!


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