見出し画像

大学入学共通テストによる地方国公立大学への波及効果を2次募集から考察する

2021年度から大学入試センター試験に取って代わって爆誕した大学入学共通テスト(以下「共通テスト」)。

文部科学省は1990年度より30年続いた旧センター試験の知識偏重を毛嫌い、中学受験のような情報処理能力を受験生に求めた結果は以下のとおり。

・長文読解に抵抗のある高校生とのミスマッチ
・教養の無い作題者が作る問題の質の低下


ここに偶発的なコロナ禍が加わったトリプルパンチにより、開始3年ですっかり受験生からは忌避の対象へと成り下がりました。
現役高校生の立場を思えば、時代の趨勢で貧乏くじを引かされた気分が伺えることから“凶”テと呼称したいくらいです。

さて、今回注目したいのが、この共通テストによって国公立大学2次募集が影響を受けていることについてです。

国公立大学2次募集とは?

国公立大学2次募集をご存知ではない方に簡単に説明します。
国公立大学の入試日程は大きく分けて3つ。

①前期日程(2/25〜)
②公立中期日程(3/8〜)
③後期日程(3/12〜)

これらの日程終了後に、各国公立大学で定員に達しなかった学部・学科があれば3/28〜3/31に追加募集をかけることができます。
この追加募集こそが、2次募集です。

2020年度までに2次募集を実施していた常連の大学は主に2校。

・静岡大学
・筑波技術大学

前者は人文社会科学部(夜間主)が主な対象。
後者は障がいを抱えた方しか入学できない大学ということもあり、追加募集が出ても何ら不思議ではありませんでした。

2021年度大学入試で見えた兆候

2021年度を境に変容が起きます。
横浜国立大学がコロナ禍を鑑みて、2次試験を実施せず共通テストのみの点数で合否を決める方式を採りました。

コロナ禍および共通テスト初年度という未曾有の状況下で受験生を大混乱に陥れた結果、志願者数は激減。
そして、定員に達しなかった学部・学科が生まれたため、なんと横浜国立大学が2次募集を実施。
理工学部で80名に及ぶ大規模な追加募集となりました。

なお、2次募集は実にアナログな方式で、出願書類を直接持参しなければいけません。
横浜国立大学の入試課窓口には1,300名もの長蛇の列ができたとのこと。
当時は特殊な事例として捉えていましたが、2次募集に対してより一層注目するきっかけとなったことは言うまでもありません。

さらに、同年度には横浜国立大学以外にも2次募集を実施した国公立大学が増加しました。
依然として、常連の静岡大学と筑波技術大学は名を連ねましたが、その他大学を具体的に挙げると以下のとおり。

・北海道教育大学
・茨城大学
・金沢大学
・山梨大学
・岐阜大学
・広島大学
・大分大学

2020年度以前には見当たらなかった国公立大学が2次募集を実施し、全10校146名の追加募集がかけられたことは時代の変わり目を予感させました。

2022年度以降はどうだったのか?

では、2022年度以降の2次募集を実施した国公立大学を陳列しましょう。

○2022年度
・北海道教育大学
・筑波大学
・筑波技術大学
・山梨大学
・静岡大学
・名古屋工業大学
・岡山大学
・県立広島大学
・琉球大学


-全9校55名-

【特筆事項】
北海道教育大学は2年連続。
旧帝レベルに次ぐ筑波大学の理工学群で1名の追加募集。
旧制六医科大学の岡山大学ではなんと医学部医学科(地域枠)で1名の追加募集という事態。
全体の募集人数は前年度ほどではないもののインパクトがありました。

○2023年度
・北海道教育大学
・山形大学
・茨城大学
・筑波技術大学
・富山大学
・福井大学
・静岡大学
・島根大学
・島根県立大学
・県立広島大学
・愛媛大学
・長崎大学
・沖縄県立芸術大学


-全13校143名-

【特筆事項】
北海道教育大学は3年連続と常連になりつつあります。
山形大学は工学部でなんと54名の追加募集。
福井大学も工学部で10名と2桁の追加募集。
理系人気の高まりがある中で国立2大学の工学部が追加募集をかけたのは驚きを隠せませんでした。
長崎大学は多文化社会学部で5名の追加募集。2020年度以前に興った国際系ブームの鎮火により、新設された2014年度以来の追加募集となりました。

ここ3年で最多の13校で追加募集が実施され、2次募集もよもや1つの大きな受験市場となりかけています。
一方でコロナ禍が一段落し、教育指導要領の現過程ラストの2024年度は果たしてどうなるのか見ものです。

総括

2021〜2023の過去3年のデータを通して、共通テストの誕生と国公立大学2次募集の増加との間における相関は否定できなさそうです。

昨今では首都圏・関西圏の高校生の“共通テスト離れ”が加速し、それこそ自宅から通学圏内且つ3科目型のGMARCH・関関同立等の難関私立の人気が更に高まっています。

現状でさえ国公立大学を志望すると、5教科6or7科目型と負担が多い“凶”テは2025年度から「情報Ⅰ」が加わり、6教科8科目型へとその凶悪ぶりを進化させる予定です。
首都圏・関西圏以外の地方にある国公立大学にとっては『2025年問題』とも呼べる有事です。

少子化の一途を辿る中、日本の大学数は逆向して増え続け、その数は800を超えようとしています。
学生数確保に躍起な私立大学における推薦乱発や追加合格などの全入体制を訝しげに見ていた一方で、2次募集を実施せざる得ない国公立大学が増えつつある現況にどこか危機感を覚えます。

たかが大学の入口事情ではありますが、共通テストの変革と2次募集の動向からは、地方国公立大学の行く末を見てとることができるかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?