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SNSで商品を宣伝する際に注意すべき点(ステルスマーケティングと景表法に関する備忘録)

はじめに
SNS等で商品の宣伝を行う際に気を付ける必要がある法律の一つに不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)があります。
この記事では、インスタグラムやtiktok等のSNSで特定の事業者の商品の宣伝を行う際に注意すべき景品表示法上のステルスマーケティング規制について備忘録的に整理をしていきたいと思います。

ステルスマーケティングとは?
ー消費者庁のウェブサイト上で「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと」¹と記載されています。

なぜステルスマーケティングが規制されるのか?
ー「一般消費者は、事業者自身の広告・宣伝に比べて、事業者とは関係のない第三者の感想だと思うと警戒心を抱かず、その表示内容をそのまま受け取ってしまう」ことになるとして一般消費者に誤認を生じさせるおそれを生じさせる点、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある点が消費者庁の関係者の方の論考でステルスマーケティングを規制する趣旨として記述²されています。

広告のわかりやすい例として挙げられるテレビCMは通常の番組の合間に番組内容と明確に区切られて放映されることから、商品の宣伝を目的とした広告であることが視聴者が明確に認識できると思います。一方テレビCMのように明確に区別がないインスタグラムやtiktok等のSNSのコンテンツにおいて消費者が広告であると認識できずに情報を受け取る場合、上記指摘のように、広告と認識して情報を受け取る場合と比べて誤った判断を下してしまいやすくなると考えられます。
美容商品やおすすめのお店サービス等影響力のあるインフルエンサーから発信される情報に意思決定が影響を受けた経験が思いあたるのではないでしょうか。
このような事態を防ぎ「消費者がより良い商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守ること」³を目指し、ステルスマーケティング規制が行われています。

1.https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/ (2024/05/06)
2.水上啓・今村政嗣 『「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」及びその運用基準の解説』法律のひろば 76巻6号(2023) 20頁。
3.https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/ (2024/05/06)

ステマ規制の対象について
ステマ規制が行われることとなった内閣府告示において定められた「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」という要件を充足すると規制の対象となることとなります。

事業者が自己の供給するという文言からわかるように規制の主な対象は事業者が行う表示となっています。
もっとも発信者が事業者と一定の関係性がある場合行った表示が事業者が行う表示であると認定される場合があります。

事業者が行う表示であると認定される場合


消費者庁の運用基準上「商品又は役務の販売を促進することが必要と される地位や立場にある者(例えば、販売や開発に係る役員、管理職、担当チ ームの一員等)が、当該商品又は役務の販売を促進するための表示」⁴があげられています。
何らかの商品サービスの販売や開発を行う企業で業務に携わる人がインスタやTIKTOK等のSNSで発信を行う際は、規制対象となる可能性を認識して対処を行うのが穏当であると思われます。
実際に美容化粧品メーカーの従業員がSNSで自社商品を紹介する投稿を行い、ステルスマーケティングではないかとの指摘を受け、謝罪を行うという経過をたどった事例が存在しました。

また第三者を用いて商品の宣伝を行う場合について、消費者庁の運用基準上「事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となるのは、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合」や明示的な指示等がなくとも「事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定 できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、 事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない 関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の 表示となる」と記載されています⁵。
商品の宣伝をするために明示的に投稿内容について指示があった場合はもちろん明示的な指示がなかった場合でも客観的な状況に基づいて事業者の表示と判断されるケースがあります。
客観的な状況に基づいて第三者の自主的な意思による表示内容とは認められるか否か判断する際には、運用基準上当事者間の具体的なやりとりの内容や関係性、事業者が提供する対価の内容や理由等様々な事情があげられていました⁶。
特に無償で商品やサービスの提供を受けた場合に投稿を行う際では、経済的利益を受けた状態で発信が行われることになるため一定の注意が必要であると考えられます。
無償で提供を受けたうえで投稿者の自由意思で発信できる場合は問題が生じにくいと思われますが、何らか発信者の意向を左右する事情が存在する場合には、後述する方式で発信を行うのが望ましいと考えられます。

4.消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 representation_cms216_230328_03.pdf (caa.go.jp)(2024.05.11) 3頁
5.消費者庁・前掲注(4)  4頁。
6.消費者庁・前掲注(4)  4頁。

発信者がステマに関与した際に生じるリスクについて
上記のように主な規制対象が事業者とされているステマ規制ですが、発信者も関与が発覚した場合レピュテーションに大きな打撃を受けることになります。
ステルスマーケティングに関する記事や動画等でよくあげられるリスクが顕在化したものとして、詐欺オークションサイトのPRをした芸能人の事例、報酬を受け取った上で行った宣伝であることを秘して、映画をツイッター上でPRした発信者の事例があります。どちらもステルスマーケティングにかかわる規制ができる前の事例ではありますが、前者の事例で関与した芸能人の多くは活動休止を余儀なくされ、後者の事例でも投稿者が炎上し謝罪を行う経過をたどりました。

発信を行う際に注意すべき点について
第三者インフルエンサー等の発信が企業とつながりがあることによって事業者による表示であると認められた場合には、ステマ規制の対象となり、事業者が宣伝を行っているものと判別できる必要があります。
運用基準上は広告や宣伝、プロモーション、PRといった文言を利用したり、発信や商品の提供を受けて投稿していることがわかるような文章を記載をすることが求められています⁷。
また投稿の際には、大量のハッシュタグをつけてPRであることを認識しにくい状態にしたり、宣伝であることを示す文字を小さくした結果認識しにくくされていた場合事業者の表示であることが不明瞭であると考えられると指摘されています⁸。
企業によっては、PRの記載があることによって投稿が伸びないことを懸念してPRや宣伝であることを示す記載をしないことを求めてくる場合がある可能性があります。しかしその際はPR表示を必ず行うことを確認することが望ましいです。
逆に発信を行う際に、PR表示を行うことが契約上求められていたにも関わらず、投稿を伸ばすことを意図してPR表示を行わない場合やPR表示を埋もれさせる形で発信を行うケースも想定されます。契約条件に違反するとともに、状況によっては事業者に対して景表法違反のリスクを負わせることになりかねないため、投稿の際の契約条件を十分認識したうえで投稿を行うことが重要であると思われます。
7.消費者庁・前掲注(4)  9頁。
8.消費者庁・前掲注(4)  9頁。





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