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    読んだ本の紹介をしている記事のまとめです。

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[本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow)

 本ばかり読む生活をしていると、出来事に対する考えの中に読んだ本のことを思い浮かべたり引用したりということが日常的になってくる。今回は、読んだことのある本の思い出しをいくつか含む形で日記をつけてみる。 姉の夢の話を聞く  見たばかりの夢について話す相手がいることは幸せだと思う。話した方も話された方も日中にはどんな話だったか忘れてしまうのだが、夢という意外にもパーソナルでとりとめのない内容を、朝起きて間もなく、遠慮せずに話すことのできる人がそばにいるのは豊かなことだ。  姉

    • (日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

       小さい頃からものづくりが好きだった。保育園のお昼寝時間を抜け出して先生たちの元へ行き、お手玉の生地を見よう見真似で縫い合わせる時間が好きだった。どんな平面の縫い合わせがどんな方向に強い立体物を作るのかを考えるのは楽しかった。田舎の広い家と庭全体を使って、10-30体ほどの人形たちを使った群像劇を考えるのが好きだった。そこには何やら自分なりのワールドビルディングがあったようである。(人形たちは広い外の世界に憧れるが、あくまで"人形"として生を受けたため、実際に野外に出るとたち

      • リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

         北斎の巨大な荒れ狂う波。ゲーミングデバイスを連想させる虹色のポップな書体。一度目にしたら忘れることのないタイトル。"Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"は、初めて書影を見た時から私の意識の片隅に居座り続け、あらゆる雑誌のレビューから顔をのぞかせ、発売当初から「もしかして読んだ方がいいんじゃない?今」と絶えず訴えかけてきた小説だった。日本語訳が近所の書店に平積みされ始めたあたりであらすじに目を通し、観念して購入した。書籍のデザインや広報に

        • 生産的であり続けろ、という声にとらわれて: "How Should A Person Be?" by Shelia Heti / "The Black Monk" by Anton Chekhov

          "How Should A Person Be?" by Shelia Heti  Productiveという言葉はいつからか魅力的になった。休日は有意義でないと間違っている気がする。自分が一時間長く寝ている間に自己研鑽をしている同世代がいる。常に進捗がないと心を健康に保てない。趣味も友人関係も休み時間も何かを生み出していないといけない。きらびやかな写真を添えてSNSを更新すれば少し心が休まる気がする。常に誰かと自分を比べ続けている。なんとも終わりのないマラソンを走り続けて

        [本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow)

        • (日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

        • リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

        • 生産的であり続けろ、という声にとらわれて: "How Should A Person Be?" by Shelia Heti / "The Black Monk" by Anton Chekhov

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        記事

          幼い日々の、痛み苦しみに祈る: ここはすべての夜明けまえ (間宮改依), “Universal Harvester” by John Darnielle, "Allah Have Mercy" by Mohammed Naseehu Ali

           「痛みのない幼少期は無い」というフレーズが頭の中にずっと残っている。どこで読んだのか思い出せないが、どんな人でも、何かしらの(わざわざ人に話さないような)痛み苦しみを幼年時代に持って大人になる、の意だったと思う。子供の頃の記憶や感覚、心の動きというのは萌える若葉の如く、柔らかく剥き出しで、それゆえに鮮烈で、自分自身でも受け止め方がわからないくらいダイレクトに響いてくる。大人になってようやく向き合い方がわかるようになる人もいれば、生涯その記憶に背を向けないといけない人もいるだ

          幼い日々の、痛み苦しみに祈る: ここはすべての夜明けまえ (間宮改依), “Universal Harvester” by John Darnielle, "Allah Have Mercy" by Mohammed Naseehu Ali

          the New Yorkerで面白かった短編フィクション②: 村上春樹 / Souvankham Thammavongsa

           The New Yorkerを自身で購読し初めてから随分経ちました。最寄りの図書館に置かれていないのが不満で、また最近は電子版の記事の更新がタイムリーかつ非常に読みやすいということに気づき、電子版のみの契約をするに至ったのでした。普段使っているiPadでマガジンを読んでいるわけですが、嵩張らない・シワにならない・音声 & podcast 付き・動くアートワークと相まって、最高の読み心地で大変おすすめです。フィジカルブックにこだわりが強い私にとっては、電子媒体の読書に慣れるき

          the New Yorkerで面白かった短編フィクション②: 村上春樹 / Souvankham Thammavongsa

          記憶の博物館を訪ねる本: "Time Shelter" by Georgi Gospodinov / "The Souvenir Museum" by Elizabeth McCracken

           私はあまり多くの物を持ちたくない性分なので、不要な物を売りに出したり、人に譲ったり、処分したりしたくなる時期が定期的にやってくる。しかし過去に使っていたものを手放すと、なんだかそこに引っ付いていた、記憶を呼び出すスイッチみたいなものまで失ってしまうような気がする。そこで、紙の本だけはどれだけ増えても良いということにして、並べられた本たちに記憶の倉庫、あるいは鍵束のような役割を担ってもらっている。一度読んだ本を何度も読み返すということは決して多くないのだけれど、一冊の本を本棚

          記憶の博物館を訪ねる本: "Time Shelter" by Georgi Gospodinov / "The Souvenir Museum" by Elizabeth McCracken

          読書のお供に!好きなBooktuberの紹介

           次に読む本との出会い方は年々多様化しているらしい。図書館や本屋で何気なく手に取った一冊を…というのは今も昔も変わらずあるようだけど、最近の、特に若年層の人たちにとっては、「ネットで見た」「SNSでおすすめされた」がかなり大きくなっているのではないでしょうか。とりわけ、英語圏を中心に爆発的に読者層を拡大させているラブロマンス/ファンタジー(romantasyというジャンル名が生まれたらしい)は、TikTokなどのSNSを介した口コミが流行に一役買っているとか。最近はどこの読書

          読書のお供に!好きなBooktuberの紹介

          20代のリアルと、ドラマなしに続いていく生活と/Beautiful World, Where Are You(Sally Rooney), NW(Zadie Smith)

           小学生の頃、学校の授業で20歳になった自分へのお手紙を書いて、どこかに託した記憶がある。どんな大人になっていますか。好きな人はいますか。想像もつかない将来の自分を想像して、私は何を書いたのだろう?  さて現実の私はというと、研究室に篭り、読書に耽り、画面の向こうの人たちとコミュニケーションをとるべく格闘していたら20代半ばになっていた。修士号を取るだけの研究データがたまって、ありがたいことに、好きになった医療機器メーカーで仕事をもらえることになった。視力がちょっと悪くなって

          20代のリアルと、ドラマなしに続いていく生活と/Beautiful World, Where Are You(Sally Rooney), NW(Zadie Smith)

          The New Yorkerで最近読んだ短編フィクション: 新たな作家との出会いの場

           The New Yorkerを初めて手に取ったのは高校生のとき。「日本のメディアとは切り口の違う記事が多くていいですよ」と当時の先生におすすめされたThe Japan Timesを目当てに、放課後、地元の図書館の洋雑誌・新聞コーナーに通うようになったのがきっかけ。学校近くの県立図書館は、これから世に出ていく子どもたちにとって、素晴らしい出会いの場であったように思う。The Japan Times、The Economist、National Geographic、TIME

          The New Yorkerで最近読んだ短編フィクション: 新たな作家との出会いの場

          Franz Kafka短編集 / Flowers for Algernon / 最近読んだクラシックとか

           言わずと知れた「名作」を手に取る時、いつも心が揺らいでいる。一つ、ここには時の流れによる淘汰を潜り抜けた折り紙つきの読書体験が約束されているという喜び。二つ、えっ、こんなに有名な作品なのに私は読んだことがないの?大丈夫?三つ、私は体験が欲しいのか、教養が欲しいのか。……こんな具合でいつも、一瞬心がゆらゆらと彷徨ったのち、表紙を開くことになる。読書ってかなり個人的で、solitudeを楽しむ人が多い趣味だと思うけれど、同時に幅広い人との体験の共有にも繋がっていることを意識せざ

          Franz Kafka短編集 / Flowers for Algernon / 最近読んだクラシックとか

          Weird Medieval Guys: へんてこな中世の世界を愛する人

           きっかけは、Twitter(X)で見かけたへんてこな投稿であった。 何…………? 暇な中学生のノート? あ、これは砂漠(荒野)の40日のイラストかな。ぜんぜんその辺に食い物ありそうな背景ですが…。  こんな具合で、中世の欧州において描かれたヘンテコなイラストレーションを集めて投稿しているのがOlivia M. Swarhoutさん(X: @WeirdMedieval)によるweird medieval guysなるアカウント。日々の隙間に流れてくるなんとも言えない年

          Weird Medieval Guys: へんてこな中世の世界を愛する人

          推し、燃ゆ: 魂の死を伴う物語が好き

           推しというものができなくなって久しい。確か中学生くらいまでは、特定のキャラクターが大好きで、推し、に近い感覚を抱いていたように思う。部屋の壁に好きなキャラクターのポスターを貼り、食玩のような可愛らしくデフォルメされたフィギュアを集め、集めたグッズをディスプレイする専用の棚を作っていた。さながら推しキャラクターの博物館である。それも高校生あたりから興味が薄れ、今では完全にやめてしまった。  友達との会話から始まった「推しキャラ」は、幼い私にとって、未発達な自我に部分的に融合し

          推し、燃ゆ: 魂の死を伴う物語が好き

          The Midnight Library: IFの人生を眺めるも、両方の旅人にはなれないので

           大学院に入学してから、将来のことを考えている時間が増えた。ここ数年の大学生・大学院生は、進路を調べたりインターンシップに参加してみたり…という、いわゆる就職活動の時期が大幅に早まっており、大学院卒業後の進路は大学院入学時には考え始めないといけない、という具合になっている。最近はオンラインでイベントを行う企業や研究機関がほとんどなので、自分の部屋から出ずとも関係者と話したり、仕事の一部を体験したり、進路を決めたりすることが可能。便利な時代になったもので、自分が今・どこに居よう

          The Midnight Library: IFの人生を眺めるも、両方の旅人にはなれないので

          Outline(Rachel Cusk): 他者との関わりが自分の輪郭を作る

           新型コロナウイルス流行の影響で家に閉じこもって生活していたとき、ふと自分自身に対する認識が、肩の荷のおりた、やたらと柔らかいものに移行しつつあることに気づいた。他者の視線のない生活は気軽だったが、その一方で自他の境界の押し合いや譲り合いのようなものがなくなったせいか、張り合いのなさや寂しさも強く感じたことを覚えている。自他の境界、自分と自分じゃないものたちの境界が自己認識に影響するのは明らかで、その大部分を人間関係が占めるのも無理はないか…など、8畳に満たない一人暮らしの部

          Outline(Rachel Cusk): 他者との関わりが自分の輪郭を作る

          「雪を抱く」(大白小蟹短編集より): 自分の体を我がものにしたいよね

           大白小蟹さんの短編集「うみべのストーブ」を近所の本屋で見かけて購入した。表題作をオンラインで試し読みしたことを思い出して、シンプルで綺麗な絵柄、美しいセリフ回しの伴う登場人物の独白、この作家さんの本なら間違いない…!と確信してレジへ直行した。カバーの手触りも印刷もすごくいいので、ぜひとも紙の本として買っておきたい一冊。雪景色を背景にした作品が多く収録されており、今の季節にぴったりの作品集。私の住む地域では、今年は例年よりかなり降雪が少なく、寂しい思いをしていたので読んでいて

          「雪を抱く」(大白小蟹短編集より): 自分の体を我がものにしたいよね