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カラオケデートで槇原敬之歌ったら大変なことになった話

中学3年生の時の話だ。

僕に初めて彼女ができた。相手はとあるワークショップで知り合った同い年の女性だった。映画が好きな人で会う度映画の話ばかりしてたら付き合うことになった。

が、彼女は、まぁまぁ大変な人だった。
いわゆるメンヘラだった。付き合ってからそれが加速していった。
僕が友達がつくったコントに出演した時、作中で女子との会話シーンがあったことで号泣された。リアルに1リットルぐらい出てた。
ファミレスで事が起きたため、備え付けの紙ナプキンがかなり減っていた。家族で新潟にスキーに行くという話をした時も、ブチギレ号泣だった。
彼女もスキーウェア着替えてしまう一歩手前だった。

僕は気の利いた男とも流石に言えないような人間なため、彼女には知らずのうちに不快感や寂しさを与えてしまっていたのだろう。

そんなこんなで冬休みになった。
カラオケに行こうという話になった。彼女の生涯フェイバリット映画が「花束みたいな恋をした」だったのできのこ帝国とか歌う準備を一応した。

当日になる。
まずのっけからテンションが低かった。
むしろ本当は来たくなかった的なことを言っていた。
では別のところにいこうかと提案したら、私が決めたからと聞かない。
これは難しい感じになりそうだと普通に思った。

案の定彼女は部屋に入っても全く歌を歌わなかった。
というか喋らなくなった。インスタを無言で見る人になった。
僕は結構歌った。盛り上げた。盛り上げようとした。

前前前世、裏表ラバーズ、ピースサイン、チェリー、上海ハニー

自分のカラオケ盛り上がる曲ネットワークを限界まで広げ、彼女(ボカロ好き)の好みを汲んだ、結構間違いないセトリを提供した。
でも彼女は僕の方を向いてもくれなかった。
心が折れそうになりながらも「クロノスタシス」を入れた。

僕「クロノスタシスって知ってるぅ?」
彼女にマイクを向ける僕。

僕「……時計の針が止まって見える〜♪」

ここで僕の何かは壊れた。花束以前の問題で、まだファミレスでパフェ撮りあってない二人に負けている。何言ってるのか自分でもよくわからないが、間違いなく僕は死んだ。

そして、僕はおもむろに槇原敬之を入れた。
「どんなときも。」
これは極めて無意識な選択だった。潜在的とも言える。
なぜ僕がその瞬間にマッキーを入れたのかというと、父が槇原敬之のファンでありマッキーのメロディーが僕の体にDNAレベルで染み付いていたからである。
だから困ったら入れるようにしていた。それがその時ポロッと出てしまった。

それがいけなかった。
完全な選択ミスだった。

なぜかというと、僕の彼女はマッキーが嫌いだったからだ。

「えっなんでですか?」という声がくるのは必然だ。

説明すると、彼女は直接的にマッキーが嫌いなわけではなく、前科がある人間が嫌いだった。なぜ人様に迷惑をかけた人間が金儲けしているのか。彼女はそこ一点に憤りを感じていた、らしい。
それは常々言ってた。
だから、マッキーはもちろん、田代まさし、ピエール瀧、ASKA 、KAT-TUNの人に至るまで嫌いなのだ。最近、バイト君が追加されたのではと思う。

完全にそこを失念していた。
正直イントロ流れた時に気づいた。

「これこのままマッキー歌ったらやばいかもな……」

そうは思った。怒るぞ、と。
けどその時ばかりは僕も彼女に対して何なのとは思っちゃっていたため、そのまま歌うことを選択した。
僕なりの抵抗だった。

その時、僕らは四人掛けのソファに座っていた。そのソファはドアがある壁面に上から見ると垂直になるよう設置されていた。テレビ側に僕が座っておりドア側には彼女がいた。つまり彼女は僕より後ろにいた。
僕はソファに座り、膝にブランケットをかけ斜め前にあるモニターを見つめ歌を歌っていた。

マッキーを歌いながら僕はまず気づいた。
なんかこの部屋暑くね?と。
特に手元らへんに何やら熱気を感じていた。

また気づいた。
なんかパチパチ言ってんな、と。

明らかに音が横から聞こえていた。
パチパチといっても、半角カタカナのパチパチぐらいの音量だ。

多分ブランケットから音が聞こえている。

何だこれは。
少し鼓動が早くなる。

僕はおもむろにふっと横を見た。
ブランケットを見た。

すると、ブランケットが燃えていた。

「えっ」

声を失った。
これはなんだ。

明らかに燃えていた。
煙が結構出ていた。
黒色のブランケットがもっと黒くなっていた。
リアルな燃え広がり方だった。
リアル炎だった。

僕は咄嗟にテーブルの上のコーラをブランケットに放射した。
そしてありえないスピードでブランケットを振った。片手にコーラが入っていたコップを持ちながら。
風を受け前髪が逆立った。

だが、時はすでにもう遅し。
ジリリリリンという音が「どんなときも。」二番Aメロのオケ音源をかき消していたことを今でも記憶している。
火災ブザー的なものが作動してしまった。

すぐに店員が入ってきた。

「何があったんですか!?」

「えっ……わかりません……」

片手にブランケット、もう片方にコップを持った僕は弱々しくこう言った。

彼女の方を見た。
泣いていた。
全てを察した。



この後はかなり面倒なので、省く。なんでライター持ってたの?とか面倒なので、省く。
が、僕とその店員で彼女から話を聞き出し、私が火をつけたと話してくれたことと、その後彼女の親が来て、僕と店側に交互に謝っていて工場とかにあるロボットアームみたいだったことは書く。

僕と彼女はその後フェードアウトしてしまった。
その後、彼女がどうなったのかとか知らない。
いまでも思う。あの時マッキーを歌っていなかったら。
多分彼女は、あそこでマッキーを歌ってしまう僕のそういうところが嫌だったのだと思う。

この話は僕の中で苦い思い出として刻まれていた

が、この話に進展があったのだ。
先週の話だ。
大学生の先輩とか数人とご飯をたべる会があり、そこに僕はいた。
途中で参加者が増えた。
結構盛り上がってきたところで僕は後ろから肩を叩かれた。
振り返ると知らない女性がいた。

ぎこちなく会釈すると、その女性は笑った。
見覚えが本当になかったので記憶を必死に辿った。
すると、女性は笑顔で自分の名前を名乗った。

なんと、その彼女だった。僕が中3の時に付き合っていたその彼女だった。
でも顔が結構違った。言われてみればそうかもと思うがメイクでどうこうとかの次元じゃなかった。

「整形したの」

ええ!?と声をあげてしまった。

彼女は僕の隣に座っていろんなことを話してくれた。
先輩たちの話が盛り上がっているのをよそに。
中学出て市外の高校に進学したが、中退したこととか、県の中心部らへんのスーパーで魚を捌いて働いていること、推しに振り向いてもらうためにかわいくなったこと。
今は実家に帰っているということ。

僕は、あの時はごめんと伝えた。
マッキー歌ってごめん、と。

彼女は、私のほうこそごめんと言った。

僕はこのやりとりで胸のしこりがほぐれた。
ちゃんと終ったなーと思った。

その後「このこと、書いていい?」と聞いたら「いいよ」と言ってくれた。なので今書いてます。
彼女も見る。

まじであの時すみませんでした!!


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