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🎬ベイビー・ブローカー 感想

クリーニング店を営むサンヒョンは、ドンスと共謀して施設の赤ちゃんポストに入れられた赤ちゃんを横流しして金にしていた。
ある日ポストの前に置き去りにされた赤ちゃんのウソンちゃんをいつもどおり横流ししようとするサンヒョンたちだったが、実の母ソヨンが現れる。
ウソンちゃんを売るために釜山をオンボロのワゴン車で出発するサンヒョン、ドンス、ソヨン、そして彼らを密かに尾行する刑事のスジンたち。さらに孤児のヘジンも加わり、2台の車に乗った不思議な関係の人々のかけがえのない旅を描くロードムービー。


映画は赤ちゃんをめぐる大人たちの葛藤や変化を描いているので、子を産んで捨てる母や捨てられた子どものことを全編を通して考えていくことになるのだが、決して社会道徳的な思索に陥ることなく一人ひとりの人間の揺れ動く感情を静かなトーンで丁寧に語っていく。

当初反目し全く思惑の違う人たちが旅をすることにより心を通わせるストーリーはありきたりと言ってしまえばそれまでなのだが、赤ちゃんのウソンちゃんと母親のソヨンのことを必死で考える登場人物たちの姿は本当に健気で、すべての人たちが観終わったときには限りなく愛おしくなっていた。

中でも途中から旅に同行するヘジンくんが本当にいい。
好きな場所はみんなが大騒ぎした洗車場だったり、自分の名前のことをソヨンに話すシーンなど印象的なシーンに絡んでいて、ヘジンくんが幸せになってほしいと思う気持ちが強くなるほど、親に捨てられそうなウソンちゃんがどうすれば幸せになれるのか観ている側も一生懸命考えさせられてしまう。
モーテルでソヨンがいっしょに旅をしてきた一人ひとりに声をかけ、最後にヘジンくんがそっとソヨンにやさしい言葉をかける場面は名場面。

社会問題として、生まれてくる命を育てられない母が生むことが子どもの幸せなのか、中絶することのほうが正しいことなのかなども考えさせられるが、どちらにも映画としての答えは出していないし、そもそもそれを社会的に議論するための映画ではないと思う。
ただ単純に見知らぬ人々がともに生き、同じ時間を過ごし、いっしょに赤ちゃんのことを必死に考えたことで生まれたかけがいのない時間を淡々と描ききっているのは映画として潔く、それゆえに感動的。

赤ちゃんの未来を必死に守ろうと、それぞれの人々がそれぞれの立場で加速して動き出す終盤の展開には心揺さぶられる。

そして、忘れてはいけないのが音楽のすばらしさ。
ラストの大切なカットからエンドクレジットに流れるチョン・ジェイルの音楽の美しさには心打たれる。

是枝裕和監督作品らしく全編淡々として静かなドラマ展開で、ともすれば退屈になってしまいそうな作風なのに、いたるところにやさしい輝きに満ちたシーンや言葉が散りばめられていて、観終わって温かい気持ちになれた。
そして悲しすぎるほど深い愛情に満ちたラストのカットには泣くしかない。

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