あの頃の香港

はじめての外国は香港だった
まだイギリス領だった時のこと
飛行機も初体験
成田の滑走路を離陸し 飛行機が上を向くと
胸の鼓動が高まった
期待からではなく不安から（笑）

エコノミークラスの隣の席には一人の登山家
それなりの高山に初登頂した記録をもつ人のよう
奥さんはスウェーデン人だとか
少し自慢げな響きも

香港に着くと一緒に飛行機を降り
九龍にあるYMCAに彼も部屋をとる
翌朝ふたりで街を散策
立ち食いで朝食を済ませ 牛乳のパックも買って飲んだが、ひどくまずかった記憶が
あの時の登山家は今頃どうしているのだろう

その後 乗り継ぎで何度となく香港空港に降り立った
まだ啓徳空港と呼ばれていた頃で
建物すれすれのところをかすめるように着陸する
荒天のなか着陸態勢に入ったとき
いきなり雲が晴れたと思ったら　すぐ下に安アパートの屋上が迫っていて
婦人が洗濯物を干している姿が目に飛び込んできたことも･･･
空港から市内に出たこともたびたびある
ケーブルカーでヴィクトリア･ピークにも
訪れるたび街は活気に溢れ
街路はもので溢れ雑然としていたが、人々の暮らしは生き生きとしていた
独り歩きも 飽きることがなかった
九龍側からみえる香港島の夜景も群を抜いていて
日系企業のイリュミネーションで一杯だった

あの頃の香港はもう戻らない
ハンドオーバーのあと こわごわ行ってみたことも
空港も遠いところに新設されていて
街も、すでに殺伐とし 往事の魅力はとっくに失われていた
中国本土から来たに違いない人々が 我が物顔で闊歩し
市街はすさんだ雰囲気に一変
飲食店などが多く立ち並ぶ旺角の界隈も 粗野な中国語が飛び交い
独特のけわしさが支配していた
セントラル地区もすっかり整備されていて
かえって味気ない近代都市に変わっていた

香港はどこに行くのか
どうなっていくのか

あの頃の街の息吹を思い起こせるだけに
いまの様子が残念でならない