見出し画像

鹿がいた。

車に乗せてもらって、隣町からこっち町へ移動していた。川の上に架かる橋を走っていたら、土手の茂みにじっとしている一頭の鹿がいた。鹿を見た私はこう言った。「鹿がいます」と。そう。鹿がいたのだ。なんて幸運なんだろうと思った。言わなきゃいいのにペラペラと「きょう鹿を見た」としゃべってしまうあたりまだまだだけど、とにかく鹿がいた。茂みに鹿を見つけると、人はほぼ間違いなく「鹿だ」と言うだろう。それくらい、鹿は鹿だ。

楚々とした鹿を見ることができた今日は、良いことも悪いこともあったけど一気に良いことの割合が増した気がする。数年前、隣の県でキャンプをして、朝早く散歩に出て戻ってきたらテントの前に牡鹿が立ち止まってこちらを見ていた以来の鹿だ。その時は鹿と見つめ合った。鹿とテントの前で視線を交わした時間のことはよく覚えている。ふと目線をそらして山へ戻っていく鹿の後ろ姿のことも。

とにかくきょう、川の土手の茂みにじっとしている鹿を見たということだけはきちんと記録しておこうと思った。鹿がいたのだ。鹿は良い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?