見出し画像

【エッセイ】年下の人が苦手だった

 私が年下の人が苦手になったのは社会人2〜3年目のころだった。

 当時、営業所で私を含めて若手社員が4人いた。自分以外は後輩だった。この4人で一つのメイン業務を担っていた。

 ここから非体育会系の私は、後輩指導に苦労する。

 後輩はみんな男の子。私と彼らのキャリア年数が5年以上などあれば全員「はい!」と、注意も聞いてくれたことだろう。


 しかし、たった1〜2年上の、全く怖くない女の先輩の言うことなんて、響くわけがなかった。

 上司からは面談で「君は後輩に優しすぎる」と怒られたりもした。


 困惑した。学校などでは人に親切にと教わってきたのに、会社ではダメだと言われる。


 優しすぎると怒られたので、ちょっとキツめに指導をする。当然、若い男の子たちはいい気分にはならない。

 特に当時20歳の男の子には苦労した。書類上のミスを見つけて「ここ違うよ」と返すと、プンスカものすごく怒っていた。

 別に私が間違えたわけでも、ひどいことを言ったわけでもない。事実を言っただけなのに、一体この状況ではなんて言えばよかったんだろうと毎回悩まされていた。


 とにかく全員若くて未熟なので、言う方も言われる方も、適切な対処方法がわからなかった。今思えばすごいカオスだ。


 その後の所属先は、ほぼ全部後輩指導はしなくていいポジションだったので助かった。

 こうしてこの営業所での数年で、私はしっかり自分に「私は年下と関係を築くのが苦手だ」というレッテルを貼った。

 実際に私は年上からは可愛がられる方だった。学生時代は高齢者が年金で飲みにくる大学の近くのスナックでバイトをしていて、おじいちゃんたちを手玉にとっていた。

 断っておくが、単純に若いからというだけで可愛がられていたわけではない。

 おじいちゃんたちとデュエットを歌うために、「北空港」「男の女のラブゲーム」など、演歌も何曲も覚えるなど、努力して信頼を勝ち取っていたのだ。


 年下・後輩が苦手と確信している私は、20代の時にいろんな男性と交際させてもらったが、最終的には21才年上の夫と結婚した。

 夫は経験豊かで穏やかで落ち着いており、幸せな結婚生活が続いている。

 その事実もまた、私は年上の人との方が相性が良い、年下は無理だという根拠になっていた。


 しかし、私は明日35歳になる。

 この歳になると、会社以外で付き合う人も年下が増えてきていることに気づいた。


 美容師さん、整体師さん、ネイリストさん、ジムのトレーナーさんなど。会社以外で友達になる人も、最近は年下の人が多い。

 自分の年齢が上がるということは、それだけ自分の周りに年下の人が増えるということだ。


 私は相手が年下とわかっても、基本的には敬語で喋り続けている。その方がバランスがいいのだ。なんか年上面するのも嫌だし。

 末っ子気質なので、個人的にはずっと年上の人たちに囲まれていたい。

 しかし、最近はそういうわけにもいかなくなってきたなぁと思っている。


 年下の悩みの内容や困っていることを耳にすると「私も同じくらいのとき、そういう悩みあったなぁ」と思うのだ。 


 そういう感覚が、自分の中で新しいなと思う。

 自分の精神年齢では割り切れることで悩んでる若い人たちを見ると、そうだ、この人たちは本当は年下だったと思い出す。敬語で喋ってても、実際はそうなのだ。


 自分も同じくらいの年齢のときに悩んでいたことは、同じ歳の友達と「どうしたらいいんだろう」と言っていた。しかし、今の自分はうっすら答えを持っている。


 だから、あの頃の自分が言われたかったことを彼らに言うことにしている。


 大丈夫だよ。
 自分を信じて。
 そんなに心配しなくていい。
 自分が思うままにやるといいよ。



 もちろん無責任なことは言えないし、薦めない。


 でも彼らが持ってるものを表に出すことを手伝うくらいは、できるようになったかなと思う。



 別にあの営業所を出てから、後輩指導の経験が増えたわけではない。


 増えたのは、自分の苦しい経験だけだ。


 親の結婚反対、親族トラブル、犯罪被害、ハラスメント、長期休職など、30代で嫌なことはたくさん経験した。

 アイデンティティや自分の価値がわからなくなったこともある。


 たまに年齢を重ねても精神年齢がとまっていたり、あるいはあぐらをかいて劣化している人もいる。


 だけど自分自身もそうならず、長く生きた分だけ若い人を助けられる人になりたいなと思う。


 それがもうすぐ35才になる、私の新しい使命と目標だと思う。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?