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謎の巨大藁人形「カシマサマ」を知っていますか?

東北地方をドライブしていると、ときおり、奇妙な物体に驚くことがある。藁でできた巨大な体躯に、いかつい、しかしどこか親しみやすい面。それはもしかしたら、カシマサマかもしれない。ここ秋田で長年受け継がれてきた、愛すべき神様のことである。

湯沢市岩崎地区で見たカシマサマ。
国立歴史民族博物館に保存され、アメリカにも渡った
芸術作品としても認知されている

 秋田県湯沢市、岩崎地区にあるこの巨大な藁人形は、「カシマサマ」と呼ばれる道祖神である。「カシマサマ」とは「鹿島様」。大和朝廷による蝦夷征伐の本拠であった鹿島神社、その戦神・武甕槌命(たけみかずちのみこと)を祀ったものとされる。

由来が書かれた看板

 江戸時代よりずっと以前から続くこの風習は、秋田県下に目立って伝えられる民間信仰だ。無病息災、家内安全、五穀豊穣。集落の入り口に祀られた鹿島様が、外敵や疫病の侵入を防いでくれると信じられている。鹿島様の他にも、仏教系の「仁王様」、道教系の「鍾馗(しょうき)様」など、数多くの人形道祖神が存在するが、それらの役割は、基本的には変わらない。集落ごとに信仰する神仏があり、それによって呼び名が変わってくるということなのだろう。その代わり、各集落が強烈に個性を主張するのは、その造形だ。

大山市八つ目川の鍾馗様。
真っ赤な顔がポイント
湯沢市三ツ村の鹿島様。
やる気なさそうな姿も良し


仙北市畑中の仁王様。
すごくイジワルそうな顔をしている

 全身が藁で作られたもの、木製の面を着けたもの、墨で表情が描かれたもの、杉の葉を顔中にまとうもの。怖い顔、優しい顔、とぼけた顔ーー。どの人形も特徴的で、一度見たら忘れられない。
「集落の信仰心が、そのまま素晴らしい形で現れるんだろうね」と、地元公民館の職員は言う。だが、その素晴らしい文化も、少しずつ翳りが見えているという。

「この集落では、かろうじて仁王様のお面だけが残っているけれども、もう飾ることもなくなった。かつては心の拠り所としたものが、いまはその対象じゃなくなってしまったんです。昔は、農業しかなかった。みんな一生懸命それを守ろうとしてきた。でもいまは、会社勤めが多くなった。若者が都会さ出ていけば、自然と後継者もいなくなる。神社そのものすら、朽ち果てていく時代なんですよ」

 身体をなくした仁王様は、それでも、蔵の中から見守ってくれるだろうか。
(文=編集部/2008年12月撮影)