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『Believe-君にかける橋-』キムタクに「カッコいいオレ」はもうキツいかな【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#26


公式ホームページより

「木村拓哉、逮捕!? 実刑1年6カ月!!」。平成の世なら、全スポーツ新聞一面に掲載され、話題沸騰だったろうなあ。令和の世では、こんな釣りタイトル、コンプラ的にNGか。何の話かというと、ドラマ『Believe-君にかける橋-』である。

 大手ゼネコンの設計者として働く主人公(木村拓哉)が、とある橋の建設中に起きた崩落事故の全責任をかぶり、逮捕。1年6か月の実刑を受けて、刑務所へ収監されるところから物語が始まる。お仕事ドラマかと思いきや、まさかの『プリズン・プレイク』とは、おったまげた。

 キムタクといえば、美容師、パイロット、脳科学者、レーサー、ボディガード、アンドロイド(これは職業じゃないか)などなど、「職業の玉手箱や~」と彦摩呂チックに叫んでみたくなるほどドラマで多種多様な役を演じてきた。それがキムタクドラマの売りのひとつであり、「次は何の職業を演じるのか」と視聴者の期待や妄想を煽ってきた。なのに、なぜ今回の『Believe』ではやらなかったのか。「キムタク逮捕!」って、字面的にもめちゃくちゃ引きが強いじゃないか。まあ、スポーツ新聞が売れない時代ですから、PR戦略としては弱いのかもね。なんて思っていたら、「VIVANT方式」を採用していたらしいじゃないか。

 “らしい”というのは、木村拓哉主演のドラマは、あるときからスタート時期を大きくずらしたり、内容や共演者情報を小出しにしたりと、焦らして焦らして期待させるという手法を用いるようになったからだ。だから今回も情報がほとんど出ないことに関しては、「キムタクドラマの手法っすね」と思ってはいたが、まさか「VIVANT方式」だったとは。とういか、「VIVANT方式」なんていわれているが、もとを正せば「キムタク方式」じゃないか。

 話はずれるが、テレビ局は「VIVANT方式」を即刻やめるべきだと思う。期待値だけ上げて、ふたをあけたら残念無念。落胆を通り越して、裏切られた気分だ。新手の詐欺か。ロマンス詐欺か。大きすぎる期待は、裏切られたときの反動が10倍ぐらいになる。『アンチヒーロー』の長谷川博己がまさにそれ。野村萬斎の存在で溜飲を下げてはいるが、いなかったら、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、長谷川博己のこと嫌いになっていたぞ。テレビを見る人間が減っている今、連続ドラマを毎週見る稀有な人たちと、もっと真摯に向き合ってくれ。ほんと、マジでやめてください。

 『Believe』に話を戻そう。先に書いたように、木村拓哉は“普通の役”をあまり演じてこなかった俳優だ。演技力ではなく、“キムタク”を求められる、なんとも哀しい俳優でもある。そんな木村拓哉も51歳、ドラマで演じるのは実年齢とほぼ同じ50歳のサラリーマン役(現在は囚人からの脱獄犯だけど)。年相応の演技を見せてくれるかと思いきや、平成のキムタク降臨。

 妻役の天海祐希が癌を患っていることを告げるちょっと深刻なシーンで、「は? 癌?」「そんなわけないじゃん。ははっ」と、軽い返事に軽い笑いで場を和ませようとするおとぼけキムタク。会社の部下に「先輩カッコいい!」と褒められると、「もっとちょうらい!(もっとちょうだい!)」と子ウサギのようにぴょんと軽く飛ぶおちゃめなキムタク。上層部に掛け合いに行くぞというシーンでは、手首を一周くるっと回してからの行ってきますの敬礼ポーズをし、どや顔のキムタク。すべてが絶妙に古くさい。これ全部、一生懸命考えた演技プランなんだろうなあ。イケてると思っているんだろなあ。そう思うと切なさが極まる。

 深刻なシーンでも、おとぼけなシーンでも、「カッコいいオレ」という空気をかもす木村拓哉。それこそがキムタク演技の真髄なのだろうが、今の木村拓哉は、年をとってもカッコいい、というよりも、年をとって衰えた、という印象が強いのがネックだ。

 それを痛感したのが、木村拓哉のアップシーン。シンプルに「絵面が厳しい」と思うのだ。自身が商品である芸能人にとって、容姿のよさは最大の武器だ。木村拓哉は言わずもがな。その武器が通用しなくなった場合、他の武器を探すなり磨くところだが、キムタクであることが絶対の正義で絶対の商品価値であった木村拓哉に、いまさら新しい価値を生み出せというのは、酷なことなのかもしれない。

 と、ああだこうだいってきたが、私は、ドラマ『教場』の木村拓哉はとても高く評価している。冷酷で感情を表に出さない警察学校の教官。あれは、年を重ねた木村拓哉にぴったりで当たり役だと思った。色メガネで白髪なところもいい。表情が見えないし、年相応の演技をしなくても、白髪が年相応という記号の役割を果たしてくれるからだ。冷酷ってことでセリフが棒読みでも許される。あ、結局、木村拓哉を酷評してんな。ごめんねごめんね~。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き

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