中小企業が押さえておきたい成長戦略・出口戦略の一例「TOKYO PRO Market(TPM)」への上場
1.上場の意義や現状について
企業が上場すると、信用力や知名度が向上し、人材の獲得もそれまで以上に有利になってきます。しかし、上場に必要な条件の厳しさから、多くの経営者がその道を諦めているのも現実です。売上数億円、利益が数百万円規模の中小企業にとっては、上場は自社には関係のない話のように感じられることでしょう。
2.TOKYO PRO Market(TPM)の紹介
しかしながら、東京証券取引所が提供するTOKYO PRO Market(TPM)は、その比較的緩やかな上場基準により注目が集まっています。TPMはプライム、スタンダード、グロースに次ぐ第4の市場であり、プロの投資家向けに設計されていますが、東証上場企業という重要なステータスは変わりません。
2月26日に一般社団法人東京プロマーケット上場協会が主催するセミナーに参加しました。
その時に受けた内容を含めて、いかにTPMの上場についてまとめてみます。
3.TPMの特徴や上場のメリット
TPMの最大の特徴は、上場の形式基準が存在しない点です。これにより、例えば経営者が全株式を保有する企業でも、売上の最低基準がないために上場が可能になります。また、TPMへの上場はコストと時間の面で大きなメリットがあります。グロース市場への上場準備には例えば4,5年という時間と2,3億円の費用がかかりますが、TPMでは上場準備期間が大幅に短縮され、コストも格段に低く抑えられます。
また、TPM上場の具体的メリットとしては、プロの投資家のみを対象としているため、一般投資家の影響を受けにくい点が挙げられます。一般投資家による株価の変動や、企業経営に対する直接的な影響から自由であるため、企業はより安定した運営が可能になります。さらに、グロース市場を含む他の新興市場へのステップアップを目指す企業にとって、TPMは効果的なスタート地点となり得ます。
加えて、上場企業としてのステータスは、先述の人材獲得の他、銀行取引、営業取引においても有利に働きます。上場企業であることが、信用やブランド力の向上につながり、企業成長の加速に貢献します。さらに情報開示を行うことで、透明性の高い経営が可能となり、投資家や顧客からの信頼獲得に繋がります。
TPM上場は、その独自な市場形態から一部の企業にとっては最終目標となる場合もあります。または、一般投資家が参加しない特性を生かし、企業の成長と安定を図りつつ、必要に応じてより大きな市場へとステップアップするための「予備校」としても機能しています。
これらを総合すると、上場を目指す多くの企業にとってTPMは、その選択肢を広げ、新たな可能性を提供する位置づけの市場と言えるでしょう。
4.TPM上場は意味が無い!?
一方で、TPM上場では資金調達ができないという評価もあるようです。この点については、2023年の上場時の資金調達について、東証グロースで上場しても31社が5億円未満の調達に留まったというデータもあるようです。
また、銀行調達が有利になることもあえてエクイティ調達をしなくてもよい理由になっているようです。例えば、1%未満で銀行借り入れでき、かつ代表者保証が不要となれば、エクイティコストが高く、IRコストもかかるコスト高の調達を敢えてしなくても済むことになります。
5.TPM上場の事例
セミナーとは別に関連する書籍も読んでみました。「今こそ東京プロマーケット上場」日本経済新聞出版(2023)にはTPM上場事例企業のインタビューがあります。
その中の一社、株式会社アートフォースジャパンは、静岡県伊東市で「最初の上場企業」目指し、実現した地盤改良事業者です。
以下のような記載があります。
6.地域中小企業の出口戦略としてのTPMの可能性
地域企業の活性化は、地方経済の再生と持続可能な発展に不可欠です。特に女性の雇用創出は、社会全体の活性化に大きく寄与し、少子高齢化問題の緩和にもつながります。地域女性が安定した職に就ける環境が整えば、家庭を持ち、子育てをすることへの経済的不安が減少し、結果として出生率の向上に寄与する可能性があります。また、女性の社会参加の拡大は、地域社会に新たな価値観やアイデアをもたらし、革新的な事業や地域社会の多様化を促進します。
地域企業の成長と発展を支える手段として、TPM市場への上場が有効であると考えられます。TPM市場は、上記のとおり、上場基準が比較的緩やかであり、小規模ながら成長ポテンシャルのある地域企業にとってアクセスしやすい市場です。上場を為し遂げれば、企業は資金調達の選択肢が増え、その資金を用いて新たな事業展開や、より良い労働環境の整備にも投資できるようになります。また、TPM市場への上場は、企業の信用度や知名度を高めることにもつながります。これにより、地域外からも人材を引き寄せることができるようになり、地域の女性だけでなく、多様な背景を持つ人材の活躍の場が生まれます。
7.まとめ
TPM市場を活用した地域企業の活性化は、地方創生の新たなモデルとなり得ます。地域企業が成長し、女性を含む多様な人材が活躍できる環境が整うことで、地域社会全体が持続可能な発展を遂げることができます。また、地域内での雇用機会の拡大は、若い世代が地域に定住しやすくなることから、少子高齢化の進行を食い止める一助となるでしょう。
TPM市場の更なる活用と、地域企業に対する支援策の充実が、地方経済の活性化と少子高齢化問題の緩和へのカギを握るのではないかという視点をもちながら、今後のTPMの動向をみてみたいと思います。
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