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地域不動産会社が主導する「家守の現代版」

1 アパートオーナーの軌道修正
 大家業を営む友人と久しぶりに会いました。この友人は16棟のアパートを所有しています。また、天然石の輸入事業も行っています。2006年頃からアパート経営を初めており、昨年は1棟を買い増したとのことでしたが、このところ、金融機関の融資姿勢に慎重さが出てきており、その変化を感じ始めているとのことです。
 そこで友人は、アパートの新規取得をいったん見合わせ、自宅の最寄り駅近くで空き家を購入し、それを改修して店舗として貸し出したいと考えています。内装工事はYouTubeで学んだDIYを活用して自ら行い、電気工事については資格を取得済みで、こちらも自らで工事をしたいそうですが、難しそうであれば専門業者に依頼する計画です。

2 地域不動産業による交流の場づくり
 私は友人に、ベッドタウンで長年建築業と不動産業を営んでいる知人の事例を紹介しました。この知人は定期的に異業種交流会を開催しています。地元の商店主や独立開業を希望している方、地元の中小企業経営者や士業等が参加しています。その開催会場は、知人の会社が保有するコワーキングスペースです。知人会社で空き家を改修したものです。このコワーキングスペースが地域内の情報交換やネットワーキングの場として機能しています。
 さらに、最近では、最寄り駅近くの古い商店を取得・改修し、そこで飲食店が開業したとして告知していました。飲食店の出店者は以前の交流会に参加していた方だそうです。
 この物件を安価に購入し、おしゃれインテリアで改装しました。テナントとして出店した飲食店のオーナーは異業種交流会の参加者でもあり、同じ参加者の方からも応援され、また、物件を取得するのではなく賃借でスタートさせたので開業資金も抑えることができ、開業初期の営業告知の課題やリスクの軽減が実現しています。

3 現代版「家守」によるミニミニ街づくり
 この事例で、私が重要だと感じる点は、知人は、地元の建築・不動産会社として、自らが事業機会を創出し、ネットワークのハブとして機能していることです。知人は、異業種交流会の参加者のネットワークを蓄積し、個別情報を得たことで、将来的に店舗を開きたいと考えている開業ニーズをキャッチすることができました。または新築ではなく、立地の良い空き家を活用して、地域密着型の事業展開を行っています。さらに、建築会社として本業の改築やリフォームという新しい受注機会や新規の物件情報も結果として得ています。
 このビジネスの原型は江戸時代の家守というもののようです。家守とは、主人が不在の家屋敷を預かり、その管理・維持に従事するという、江戸時代にあった職業です。
 自らが大家さんとして、また、空き家の所有者に代わって地域の住民や商業者とを繋いで、街として創り上げていく。そんな「家守の現代版」です。
都市型の貸家経営のビジネススタイルでは、マーケット調査を重視し、立地優先で新築物件を建てることでテナントの出店を誘引するのが一般的でした。しかし、ベットタウンなどでは、それは通用しません。周辺を見れば空き家も増えてきて、地域の住民も高齢化してきています。これからの地域不動産ビジネスでは量の拡充は難しいので、如何にして地域の質的な充実を図るかが求められてきます。 
 不動産ビジネスにおいても、まずは丁寧にネットワークづくりでニーズの蓄積を図り、それらニーズに適する物件情報が出た際には、これを安価で購入したり、借り受けたりしながら、点在でも界隈性を意識しながらの地域を活性化させていく、「ミニミニ街づくり」は、急変化していく環境にもフィットしていくと感じます。
 コロナ禍によるテレワークの普及も、自分の住む街を新たな視点で見るようになる切っ掛けとなりました。郊外に住む人が自宅を改装し、生活をしながら小商いができるような事例も増えました。2017年に三浦展さんが指摘している郊外の問題を指摘しています。

私がかつて指摘した郊外の問題は以下のとおりである。
① 共同性の欠如:地方出身者など、故郷を捨てて大都市圏に流入してきた後にマイホームを郊外に買った郊外生活者は、歴史や伝統から切れている。そして異なる出自の人々が大量に集まった郊外には、住民同士の共同性が形成されにくい。
② 働く姿が見えない:男女の性別役割分業が顕著な郊外住宅地では、男性が都心に働きに出るので、郊外の昼間は母親と子どもだけになり、働く姿が見えにくい。消費だけの空間になりがちである。
③ 均質性:職業階層、収入、年齢、家族構成が同じような人々が一時期に集まってきており、住民に多様性がない。住宅も、大量生産された同じような形のプレハブ住宅が立ち並ぶだけの、単調で寂しい風景である。
④ 機能主義:空間が居住、商業、学校などに機能別に分離されており、閉鎖的である。
⑤ 私有主義:同じような住宅が立ち並ぶ住宅地の、マイホームという私有空間の中に閉じこもりがちになり、子どもに広い社会性が育たない。

出所 三浦展著『東京郊外の生存競争が始まった!静かな住宅地から仕事と娯楽のある都市へ』 光文社新書(2017)

4 場づくりで人・資金が集まる
 事例のように郊外立地では地域不動産業者が地域ならではのネットワークを形成し、地域に根ざしたビジネスを支援する形態があちこちで見られるようになり、上記の郊外の問題も解消されてきている事例も見られます。「家守の現代版」は、地域の個性を活かしながら、「家守の未来版」としてのアップデートされていくことでしょう。
 個性的な店舗が集積していく中で、資金調達の問題なども出てくる中、小規模不動産特定共同事業法による小口ファンドの組成なども機能している事例も出ています。

 このような情報を冒頭の大家業の友人に話を共有したところ、友人は地元での飲み友達は多いものの、広範囲にわたるネットワークを構築するところまでは、手が出せない様子でした。しかし、私が紹介した事例には興味を持ち、自分なりに何か新しいことに挑戦してみようかと考え始めたようです。新たなビジネスの可能性を感じてもらえたことで、私も時々の報告を聞けるのが楽しみとなりました。


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