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中小企業における生成AIエフェクト

1.はじめに

 2024年2月22日の日経クロステックから「職場における⽣成AIの利用割合は⽇本が最下位、ベリタスが11カ国で調査」を紹介いたします。
対象とした1万1500人の会社員(日本:1000人)の結果を部分的に紹介します。

グローバル平均では、頻度にかかわらず「仕事でChatGPT などの生成AI ツールを職場で使用している」と回答した人の割合は70%以上だった。一方、日本では利用していると回答した人の割合は38%で、調査を行った11カ国の中で最下位だった。
 
日本では他国に比べて、生成AIの影響を重視していない傾向も見て取れた。「生成AIツールを職場で使用することは、個人としてメリットはないと思う」と答えた人の割合は28%、「今後 3 年以内に組織内の役割が AI に置き換わると思っていない」と答えた人の割合は78%と、いずれも日本が1番高かった。

日経クロステック

 このような調査がある一方、生成AI、特にChatGPTが社会に与える影響というのは、単なる技術革新を超えたものだと思っています。ちょうど読んでいた日経ビジネス、日経クロステック、日経クロストレンド編『Chat GPT エフェクト 破壊の創造のすべて』日経BP(2023)の内容を交えながら所見をまとめてみます。


2.生成AIの影響力について

 生成AI、とりわけChatGPTが遂げている進化は、仕事の風景を一新する力を持っています。本書内で東京大学の松尾豊教授は以下のような指摘をしています。

私はいつも同じことを言うんですが、課題は何とか、懸念は何とか言わずに、どんどんやればいいんです。日本にまん延している空気感なのですが、課題を挙げて、何か分かったような気になって、実際には行動しない。それでは意味がないです。黎明期の技術に課題があるのは当たり前ですし、その課題をすぐ乗り越えていくわけです。(P53)

出所「Chat GPTエフェクト」

 新技術を取り入れる時に起こる日本独特の慎重さを克服し、積極的な行動を起こすことの重要性を伝えています。

 ChatGPTを含む生成AIを私も活用し始めていますが、これにより仕事の仕方を大きく変化しています。私個人の限界を超えていける実感があります。アウトプットの質を向上させ、効率性や生産性を高めてくれると実感しています。この恩恵によって、時間をかけてきた単純な作業時間が大幅に削減されます。新しい仕事に取り組む意欲も湧いてきます。

 行動を起こすのに組織内の調整に終始したり、変化を嫌う社風の企業にあって、生成AIの導入することは、その性能の高さに新鮮な感覚が芽生え、新しいビジネスが起こせるのではなかろうかという高揚感が生まれ、活力を注ぎ込むには絶好の機会だと思っています。ただし、この機会を最大限に活用するためには、生成AIに対する理解を深めていきながら、関心ある方から試してみて、その感覚を梃子にして組織内にある変化に対する抵抗に揺らぎを呼びこみ、その抵抗をコントロールしていくことが不可欠です。

 導入を試みようとする側の方においては、生成AIがもたらす変化の波をどのように捉え、それを自社の舵取りや企業風土の変化とどのように結び付けるかに焦点を当てる必要があります。そういう目線で議論ができる相手が社内外問わず必要です。冒頭で、組織の役割がAIに置き換わらないだろうと考える企業にいる生成AI推進派にとって避けて通れない課題といえますが、この挑戦を乗り越えることで、企業の規模の大小と問わずに持続可能な成長を達成することができるのだと捉えています。

3.生成AIが浸透する社会、問われ続ける人間性について

 生成AIがもたらす新しい技術は、言語や画像を扱う産業だけでなく、私たちの創造性や知性を拡張する可能性を秘めています。
本書の言葉を借りれば、

生成AIという『破壊的技術』は世に放たれた。ならば破壊と創造の波が、言語や画像を使うすべての産業に波及することは、必然なのかもしれない。(P70) 

出所「Chat GPTエフェクト」

ということです。

 また、AIを活用した仕事の効率化や自動化への大きな流れは、ルーチンワークをなくし、わくわく感や前向きな者同士の会話から生まれる新しいアイデアの創出機会を増やすことになります。また、問題解決を早めたり、従来の手順を省略する道具としての役割を果たしたりしていきます。人間とAIの協働の時代です。これまでの仕事でもAIのサポートを受けることで、さらなる能力の開花が果たせる予感がします。この点、本書では家庭教師という喩えをしております。

でも、新しいテクノロジーが登場したときに、間違いなく重要なのは、どうすれば人間の知能を高めることができるかを考えることだと思います。本当に必要なのは、優れた家庭教師で、問題分析して、自分のモチベーションを本当に理解してくれる存在なのでしょうか。(P82)

出所「Chat GPTエフェクト」

 このような、わくわく感を引き起こす技術の革新においても、「人間の問題」が存在していることは忘れてなりません。AIによって提供される解決策や提案は、最終的には私たちが自らで判断し、倫理的についても考慮していくことが必要です。

 英オックスフォード大学の教授、ニック・ボストロム氏は本書の中で以下のように述べています。 

ChatGPTの高性能な対話型AIの登場は、(アライメント問題と並び)もう一つの重要な課題について考えるきっかけになりました。それは、私たちは「デジタル知性」とどう向き合うべきかを、倫理面から検討しなければならないという課題です。(P176)

出所「Chat GPTエフェクト」

  AIが作り出した解決策や提案は、過去のデータから学習した知識に基づいています。その点は限界として理解する必要があります。そして、私たちの責任で判断し、バランスをとっていくという新しい洞察も求められ続けます。その点を意識しておく必要があります。

4.生成AIの発展に伴って認識が強まるセキュリティに関する課題について

 これまで述べてきたように、生成AIの台頭は、私たちを取り巻く仕事環境に大きな変化をもたらしますが、同時にプライバシーとセキュリティに関する課題も大きなものがあります。機密情報の管理と保護に対するリスクは高っています。
 
 前出の2.とも関連しますが、仕事上のイノベーションから得られる価値とそれに付随していくリスクとの間で、各人、各社なりのリスクコントロール策を見つける必要があります。
セキュリティの問題は、規模の大小にかかわらず、持続可能性に直結するものです。私のような個人、もしくは小規模企業にあって、顧客データの漏洩が原因で、取引先企業に損失をもたらした場合、損賠賠償請求で一発アウトです。生成AIの技術の導入を検討する際には、わくわく感の部分のみならず、リスクにかかわる情報も取り込んでいきながら、自社(自分)の負える責任範囲を見据えた対策を講じることも必須事項です。これは、意識的に第三者から情報提供なりチェックなりを受けていくことが賢明なのでしょう。
繰り返しますが、このチャンス自体は最大限に生かすこと、リスク管理は最終的にはバランスです。

 生成AI(人工知能)がもたらす「破壊」。それは企業が、新たなビジネスモデルを「創造」するきっかけでもある。適者生存が宿命付けられている企業にとって、変革の時に生き残るには「守る側ではなく攻める側に回る」ことが必要だ。(P236)

出所「Chat GPTエフェクト」


5.著作権法などの法律上での位置づけや課題について

 本書では、生成AIの台頭から、著作権法やデータ保護規則などの法的枠組みの再考についても述べられています。

 日本の著作権法は比較的柔軟な規制です。本書では以下のように述べられています。

注目すべきなのは、ガイドライン中の「単に生成AIに他人の著作物を入力するだけの行為は著作権侵害には該当しません」という一文だ。日本はAIに関する著作権法の規制が諸外国に比べて緩い、著作権法30条の4では、AIによる著作物の「学習」は、ほぼ無条件で認められている。営利・非営利の区別もない。(P289)

出所「Chat GPTエフェクト」

日本の「緩さ」はどう機能するか。JDLA理事長を務める松尾豊 東京大学大学院工学系研究科教授は「緩さが競争上優位に働くことはあると思う」「日本にはむしろチャンス」と述べた。他国に比してDX(デジタルトランスフォーメーション)で遅れる日本において、緩い法規制はプラスに機能するとの考えだ。「AI黎明期の今なら多くのプレーヤーにチャンスがあるはず」「この機会が開かれている期間は短い」とも述べ、日本の成長戦略においてAIが果たす役割の大きさを強調した。
ただし、松尾教授も無制限の学習を推進しているわけではない。AIの活発な利用を促す一方で「あくまでバランスを取っていきたい」という立場だ。「(日本政府の)AI利用の前のめりでありつつ、欧州の主導するAIルール作りにも積極的にコミットしていく態度はとてもよいと思う」とも語る。(P290)

出所「Chat GPTエフェクト」

 生成AIが人間の創作物を学習し、新たなコンテンツを生成する能力は、既存の著作権法の枠組みを超える問題を引き起こし、作者の権利とAI生成コンテンツの境界線についての議論が生れています。

 比較的緩やかな著作権法の日本において、イノベーションを奨励する一方で、知的資産の保護の観点も重要です。ガイドラインや規制の策定、法律や規制の更新をウォッチしながら、表現者の権利と技術革新を促進のバランスはどこにあるのかを各人が把握していくことは新しい責任の形のように思います。

6.最後に

 以上をまとめますと、ChatGPTをはじめとする生成AIは、ビジネス、社会、そして個人の生活に大きな変化をもたらしています。これらの技術は、業務の効率化、新しいコミュニケーションの取り方、個人の未知の能力の開花など、多くの機会を提供くれています。しかし、これらの進歩は同時に、セキュリティ上の脅威、倫理に関わる葛藤、今の仕事の行く末、プライバシーの保護など、多くの懸念や課題も引き起こしています。
 
 中小企業経営においては限られた経営資源の再編集において生成AIを取り入れることは必須だと思っています。生成AIの力を最大限に活用し、同時にそれらがもたらすリスクを管理するためにも、過去からの捕らわれから如何にして解放するかを日々問いかけていくことが必要です。その時には、よりよい未来の構想に向けて倫理、責任が中心テーマとなります。
 
 中小企業においても取締役会の場でマネジメント層が深度ある議論をできることが望ましいです。取締役会が非設置であれば、経営における生成AIとの付き合い方を議論できるパートナーを据えることが必要です。

 冒頭の「組織内の役割が AI に置き換わると思っていない」という発想では、他社に会社が競争で遅れを取り、取り残されてしまうという現実だけはお互いに忘れてはなりません。

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