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漫画「バーテンダー」再アニメ化で原作者が唯一希望した2つの事(城アラキ)①

お願いのひとつは、亡くなられたおふたりの名前をスペシャルサンクスとしてスタッフロールに加えて欲しいということでした。
ひとりは切り絵作家の成田一徹さん。
もうひとりがバーテンダー尾崎浩司さん。

成田さんからは銀座で飲みながら「バーテンダー」という漫画が生まれるきっかけになった言葉をたくさんもらいました。アニメにも使われているキメセリフはこの時に生まれたものです。
ただし、BAR(カウンターの横木)とTENDER(優しさ)を合わせてBartenderという説は文献的には正しくなく、これは原作者の解釈……というより願望ですね。ドラマとしてはギリギリ許されるフィクションと考えました。(TEND=世話をする。ER=人。がルーツと言われています。でも、それじゃドラマは生まれない(笑))。
この「ギリギリ許されるフィクション」については、成田さんに謝らなければならないことがあります。神戸の、今はなきバーのハイボールについてのセリフ。正確には「『神戸ハイボール』スタイルのハイボール」が正しいのですが、漫画の吹き出しとしてあまりに長いので「神戸ハイボール」と短くしました。これは確信犯的な誤植でした。いつかきちんと謝ろうとおもっているうちに、成田さんは急逝されてしまいました。

かつてバーの扉が今よりはるかに重く、近寄りがたい時代の話。頑固なバーテンダーさんからはグラスの持ちかたからバーでの会話まで、昭和の若造(私だ!)は、とてもよく叱られたものです。尾崎さんは多分、そんな世代最後のバーテンダーで、私自身が本当によく叱られ、逆にこちらもいろいろ迷惑をかけました。今はなき「2ndラジオ」は我が家から徒歩2,3分。尾崎さんがカウンターに立っているだけで店の客が少し緊張したものです。

成田さんは切り絵作家として日本の名だたる名バーを取り上げてきました。
ところが、尾崎さんの店だけは切り絵にしません。
その理由はいかにもバー好きな成田さんらしいものでした。
「ラジオはインテリアがオシャレすぎて、酔っ払いに優しくない。床が一段下がっていて、あれじゃ酔っ払いがケガをする」
対する尾崎さんの考えもまた、いかにも名バーテンダーらしいものでした。
「バーは足下がおぼつかなくなるまで酔う場所ではありません!」
顔を合わせればお互いニコニコと世間話をします。しかし、頑固者2人に挟まれたワタシは冷や汗でいつも身が縮む思いでした。

ところが、成田さんの死後、「ラジオ」を切った原画が見つかったというのです。いつ頃、どんな経緯で、どこの媒体の為に切った物か、今となっては確かめることも出来なくなってしまいました。

ということで、教訓――。
「そういえば、最近顔をだしてないな~」とふと気付いたら、思いついたその日、その足でバーの扉を押しましょう。時を逸して後悔する前に。

このへんのさまざまなエピソードはアニメではなかなか伝わりませんので、ぜひ原作の漫画。そしてその漫画の元になった活字の「バーテンダーの流儀」のさまざまなエピソードをお読みいただけると幸いです。

「アニメ化での希望」②は次回に――。


 



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