仲村 次朗
蠢く速度
偶然が世界に
飛ばない鳥
――夢だから、猶生きたいのです。 あの夢のさめたように、 この夢もさめる時が来るでしょう。 その時が来るまでの間、 私は真に生きたと云える程 生きたいのです。 あなたはそう思いませんか。 (芥川龍之介「黄梁夢」1917.10) ――僕の右の目はもう一度 半透明の歯車を感じ出した。 歯車はやはりまわりながら、 次第に数を殖やして行った。 僕は頭痛がはじまることを恐れ、 枕元に本を置いたまま、 0.8グラムのヴェロナァルをのみ
沈丁花ただただ長いだけのもの 長尺塩ビ アオサギのごと患者たち チーム泡立草後ろ気にしてばかりの都市に 咳のする扉の向こう前世紀 蟬時雨二十世紀と拡声器 虫の声あやめもわかぬ闇を貫く 曼珠沙華誰をか狂人としてみる ツクシンボなりたいものとならぬもの
梅雨空を林檎を背中に減込せ __つゆそらをりんごをせなにめりこませ 赤くしてりんごの無罪且つ無罪 __あかくしてりんごのむざいかつむざい
向日葵の首かたくして花の影 私す私の名前発つ烏
露草やすべらす舌と余すもの 露草や忍びの猫の鳴き処 露草や漕ひでいつかの膝枕 露草や重ねし嘘も無垢の艶 ほつと落葉暈取る遠く鳥の声
はたらいて、はたらいてんのに、 なんにもはたらいていないよね 春にくすむ食堂から聞こえてきたため息は わかっているくせに かさねたつもりで、あかるくしたとこで、 まったくひろがりもしないよね 誰か歌にしてくれないかな 右車線に降り口のある どでかいばかりの環状線 わかってるくせに 誰?てラインに いまだこだわりすぎて くりかえすパターンに 思うことはたくさん、 もうたくさんだと思うことはもっとたくさん 思い出しながら、二人だけの食卓 遠のくだけ
桜咲くはじまってもまだいないのに 桜散る写真に撮られた人の今 雲雀鳴くたくさん読んだ午後の目に