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「自主映画とお金の話」〜映画業界の改善につながればとの想いを込めて〜

自主映画に興味はなくとも、お金の話に興味ある人は多いと思います。
なので書いてみます。
※私自身の経験から得た話が中心ですが、そのため間違った情報を書いてる可能性があることも事前に記しておきます。
私は韓国の大学院で映画制作を学び、現在日本で活動中の映画監督です。

1.自主映画、収益の話

結論から言うと全然儲からないです。
ほとんどの自主映画は赤字だと思います。
ではなぜ儲からないのか?

2.自主映画の劇場公開

一般的な商業映画は劇場公開により収益を得ています。
自主映画でも商業映画のように劇場公開は可能です。
しかしそのハードルが高いのです。
無料で劇場公開させてくれる劇場などほぼないため、上映するためにはやはりお金がかかります。
チケットが売れたらそのお金は回収できるかもしれないけど、売れ残れば赤字のリスクもあります。
自主映画が劇場公開で黒字にするためには、ある意味ハイリスク、ローリターンな賭けになるわけです。
商業映画でもP&A費という簡単に言えば上映にかかる費用と広告費があるのですが、それを使ってCMや宣伝などを行い劇場に観客を呼び込みます。
このP&A費、総製作費の2、3割を占めるほど結構な高額な額です。
例えば総製作費が1億円ならそのうち2、3千万円はP&A費に使われるということです。(※一応韓国映画での話なので日本映画においての割合ははっきりわかりません。)
それだけ映画の宣伝は大事だということ。
でもただでさえ予算のない自主映画は宣伝にあまりお金をかけることができないため、劇場公開したとしてもなかなか情報を広げることができません。
そういうリスクの高さもあってお金の回収をするのは大変です。
ちなみに私は自主で劇場公開したことありませんし、する度胸も今のところありません…だって赤字になるのが怖いから…

3.映画配信の時代

しかし最近は劇場公開だけでなく配信により利益を上げる方法もあります。
でも制作費を回収できるほど利益を得ることができるのか…これも簡単ではないでしょう。
私も配信をしたことが何回かありますが、映画祭を通じての配信がほとんどなので、配信料自体が0円です。
つまり無償配信しかしたことがありません。
どれだけ再生回数が増えても著作者である私に入る金額は0円ということです。
うーん、つらい。
無償配信ならしない方がよくない?と思う方もいるかもしれませんが、多くの人に見てもらえる可能性もあるし、まぁいっか…と奉仕の精神で契約書にサインをするのです…
サインしてしまうのです…

あと過去に韓国のプラットフォームにて有償配信もしたことがありますが、その収益は微々たるものでした。(配信料など自分で設定可能なプラットフォーム。一回1ドルで見れるようにしていて、1000回ほどの視聴回数がありましたが、その収益合計はわずか6ドルほど。)
※でも0と1では全く違うように、微々たるものでも収益があると嬉しいです。それが映画監督としての自尊心にもつながりますし。

契約内容にもよるでしょうが、やはり配信で収益を上げるのは、なかなか難しいのではないでしょうか?
もちろん配信や劇場公開については私が知らない部分があると思いますので、上記の内容はあくまでも私個人の経験と考えによるものと思っていただけたら。
クリエイティブファーストの素敵なプラットフォームもきっとあるはずでしょうし。
ありますように…笑

4.映画祭での賞金

それでは、他にどのような方法で自主映画は収益を上げることができるのか?
効率がいいかどうかは分かりませんが、映画祭の賞金が一番大きい収益かと思います。
もちろん賞金の有無も映画祭によって異なりますが、数万円から数百万円まで(賞金額はピンキリ)受賞次第では大きなまとまった額を得ることができるのです。
それならどんどん映画祭に出品すればいいのでは…!?
という話になりますが、映画祭に出品するにはほとんどの映画祭で出品料がかかります。
資金が潤沢な映画祭では出品料が無料のところもありますが、ほとんど2〜3千円、高いところでは出品料が1万円を超える映画祭もあります。
なので映画祭に出せば出すほどどんどん出費がかさんでいってしまうのです。
なのでどの映画祭に出品するのかよく考えて出さなくてはいけません。
ちなみに私が映画祭に出品する基準は、出品料は安いか?賞金があるかどうか?開催地は行ってみたい場所かどうか?打ち上げはあるのかないのか?といったことを考慮し出品する映画祭を決めています。

さぁさぁここから本題です。
色々な出費を払いましたが、運良く映画祭にノミネートされたとしましょう。
ですが、現地までの交通費や宿泊費が自己負担の映画祭も多いので、映画祭に参加するだけで出費はさらにかさみます。
そしてほとんどの映画祭では何らかの賞を受賞しない限り、何も得ることはできません。
出費ばかりの映画祭…
それならなぜ応募するのか?
ほとんどの自主映画人は映画祭に行けばみんなに見てもらえる!という純粋な気持ちで頑張って参加してると思います。
だからあなたの近所で映画祭をやってたらぜひ見に行って欲しいです。

5.上映料という概念

なにはともあれ、映画祭にていろいろとお金がかかったとしても、上映料を著作者に払う映画祭が増えて欲しいと思います。
初めて自分の短編映画を上映した映画祭は、韓国ソウルで行われたソウル国際超短編映画祭というものでした。
ただ映画館で上映してくれるだけでも嬉しかったのですが、上映料として3万円ほどいただいたことを覚えています。
そしてこれが自分の映画を上映したことによって得た映画監督としての初めての収入でした。
もちろんそれでも全然赤字でしたが、自分の作った映画が劇場で上映され、その対価をもらい、その結果、映画監督しての意識が生まれる、というのは大事なことです。
この経験は私が今までずっと映画を続けてこれた励みにもなっています。

ここ数年、いろんな映画祭に参加させていただきましたが、日本の映画祭で上映料をいただけた映画祭はほぼありません。
もちろん日本だけでなく海外の映画祭でも上映料のない映画祭はたくさんあります。
映画祭の運営自体にお金がかかることは十分承知しています。
資金が少ないにも関わらず映画を応援するために頑張って運営している映画祭などもあるはずです。
でも映画をリスペクトするために映画祭を行っているのなら、ちゃんと上映料が払われる文化が世界中の映画祭に浸透していって欲しいと思います。

6.プレミアを狙え

ここまで読んで勘の良い方は、映画祭の賞金を狙いつつ、配信でも小銭稼ぎするのがベストなのでは?と思うことでしょう。
(そして頭の良い方はお金を稼ぐために映画を作ろうとは思わなくなるでしょう…笑)
ですが、ここで問題がまた1つ…!
映画祭側はプレミアという初公開という概念を大切にしております。
規模の大きい有名映画祭になればなるほど世界初公開、アジア初公開、日本初公開といったプレミアを要求してくるのです。
プレミア規定のない映画祭もありますが、配信をしてしまうと映画祭に出品できなくなるなど制限がでてくるのです。

なので2〜3年ほど映画祭に応募し、出せる映画祭がなくなってきた頃に配信を始めたりします。
でも劇場で見てもらう映画こそ至高…!という考えもあるので人によっては配信を全くしない場合も。
よくYouTubeに映画あげて公開しちゃえばいいじゃん!YouTuberになればいいじゃん!なんて話をしてくる人がいますが、しないのはしないなりの理由があるのです。
そもそもYouTubeは映画用のプラットフォームではないですし。

7.自主映画、制作費の話

それでは自主映画を作るのにどれだけの制作費がかかるのか?
こちらもケースバイケース、ピンキリなのでだいたいいくらかかります!なんてはっきり言えません。
でも私の作品を1つ例として挙げるなら、26分ほどの短編映画に100万円ほどかかりました。
撮影日は6日ほど。
ですが、これは映画学校在学中に撮った作品なので、機材費や人件費がかなり安く抑えられ、100万円でなんとか撮れたという感じです。
まともに機材を借りて、人件費を払っていたら3〜400万円はかかっていたことでしょう。
聞いた話によるとテレビ局の新人ディレクターが撮る深夜枠30分ほどの単発ドラマの制作費が約500万円ほどらしいので、少なくともこれくらいのお金はかかって当然ということ。
制作費が安く抑えれればそれに越したことはありませんが、その分の皺寄せがどこかにいってしまうことを忘れてはいけません。

8.制作支援の大切さ

私は日本には自主映画の制作費を支援するシステムがほぼないと思っています。
映画祭でのスカラシップなどは存在しますが、映画仲間からの話によると、支援額が小さかったり、ロケ地の縛りなど条件付きのものが多かったり…で苦労する場合が多いと聞きます。
私が映画の勉強をしていた韓国では短編なら数 十万円〜数百万円ほど、長編なら数百万円〜数千万円まで制作費を支援する制度があります。
もちろん選抜されないと受け取ることはできませんが、企画書やシナリオがあれば応募できる制度です。(ポートフォリオなども必要だったりしますが。)
その制度が運営できてるのも映画界のお金の流れをちゃんと循環させる映画共助システム・統括機関である韓国映画振興委員会という組織があるからこそ。
そして国からの芸術に対する支援もあるからこそです。
ヨーロッパの方はより手厚い支援制度があると聞いたこともあります。
日本の映画文化を守るためにも早急に日本版の映画共助システム・統括機関が必須だと私は思います。

9.結論

なかなかお金の話は敬遠しがちです。
でもお金の話をしないとずっと映画界の環境は改善されないだろうと思うがゆえに、私はなるべくオープンに話をしています。
決してお金が好きだからではありません。
いや、お金は好きですよ。
でもお金が好きだからこんな文章を書いたわけではありません。
そもそもお金が大好きなら映画なんて撮りませんから。
いや、やっぱりお金大好きです。
でも他の仕事した方がずっと安定してお金稼げますから。

自主映画界の面白い才能にいろんな映画祭でたくさん出会えたからこそ、その才能が潰れることなく創作を続けることができるよう、ちゃんとお金が循環する映画界になって欲しいと思っています。

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