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チャーン改善の鍵はヘルススコアより手前か?!マジックナンバーとアクション内容の整理からはじめてみよう

カスタマーサクセスにおいて、チャーン(解約)に向き合うためにヘルススコアを作成するのは素晴らしいことですが、スコアにとらわれすぎず!スコアリングの前にやるべきことがあるよね。という観点で、顧客の状態とチャーンとの因果関係を見つけるべく分析を強化してきた結果、アウトプットを出せましたというお話です。こんにちは!STORES でカスタマーサクセスをしている陣山です。


ヘルススコアは、簡単に言えば「顧客が自社プロダクトをどれだけ利用しているかをスコア化したもの」ですね。SaaSのカスタマーサクセスにおいては、LTVを高めるためにお客さまに自社プロダクトを継続的に利用してもらうことが重要で、その利用状況を数値化したヘルススコアは、たしかにとても重要な数字の一つになりますよね。

うまく活用できれば、チャーン率の改善や、フォローすべき顧客の選定、アップセル、クロスセルの提案につながるというのが、ヘルススコアの魅力です。

ただし、このヘルススコアは、SaaS事業者のカスタマーサクセスがどれくらいの信頼を置いて運用/活動しているのか、という点については疑問がずっとありました。私が知っている複数のCSM(カスタマーサクセスマネージャー)の方々にヒアリングしましたが、ヘルススコアをベースに活動している企業はなかなか見当たりません。

私が大好きなLayerXのカジさんもヘルススコアは甘い蜜のようなものであってその数字に頼りきることは罠であると以下のnoteでもおっしゃっています。

ヘルススコア自体は作ろうと思えば比較的すぐにできると思います。以下はよくある点数表の項目例ですが、一般的にはCSMの定性的な感覚も含めて、「これが重要だろう」と信じる項目を選定し、その状況に合わせて各項目に点数を割り当て、総合点数を算出して閾値を設定し、青信号/黄色信号/赤信号といった表示を行います。

<よくあるヘルススコアの採点表>

機能の利用状況にあわせて採点

自分も以前↑の項目とほぼ同じ形でヘルススコアを作りました。が、結局は作って終わりになりました。

なぜなら・・・

その数字(ヘルススコア)に説得力が全くなかったから。

合計スコアが下がった!青信号から黄色信号になった!

で、何するんだっけ???

そして何かフォローしたら、何かが変化するんでしたっけ?

という状態。

ここでまたLayerX カジさんのお言葉をお借ります。

なぜ黄に変わったのか、12個のうち何の変数がどれくらい悪くなったのか、結局個社別の利用状況の詳細を確認しにいきませんか?そうしないとお客様への正しいアクションを判断できないからです。

https://note.com/kajisan_startup/n/n5f34720b966b
"ヘルススコア"という甘いアイスクリーム

まさにこの状態でした。

そもそもスコアだけみていても意味がなく、スコア自体に説得力がないとメンバーはフォロー/サポート内容に疑問を抱く可能性が生じてしまいます。

例えば、前月のログイン回数が30回以上(=毎日ログインして使ってる)のお客様って本当に高得点をつけていいんだっけ?ログインが多いと何故チャーンになりづらいのか?という根拠が不明確だと意味がありません。

別の例として、たまたま前回のNPSで意思決定者ではないご担当者さまが10点を押してくれてくれたかもしれません。10点という数字、それだけを見てヘルススコアとして高得点をつけてもよいのか?その「たまたま」でチャーンが減りやすいとはもちろん判断できませんよね。

定性的な感覚は非常に重要なのですが、その感覚を主軸としてヘルススコアとして評点をしても、それに対するアクションにつなげることが難しいのです。

そのため、私は長い間ヘルススコア信者ではありません。ヘルススコアが悪化したとしても、「だからなに??」くらいの気持ちで、お客さまと直接会話して利用状況を確認しすることの方が、顧客をより深く理解し、リスクを含めて把握できるから大切だよね!といまだに思っています。

ただ、増え続けるお客さまと会話をし続けるのは当然のことながら限界があります。

顧客の利用状態とチャーンの因果関係について


きっかけは上長である高槻さんからの依頼でした。

高「顧客の状態とチャーンの関係。いわゆるチャーンにおける因果関係はないだろうか。ご契約いただいたお客さまが、最低限この状態になっていれば将来チャーンしなくなる!!これを見つけて欲しいんだよね」

私「いやいや、、、簡単に言うけどね、、、、そんなもん分かるんだったら最初からやってるわぃ」(心の声)

とはいえ、確かにそれを見つけることができれば大きな前進です。実は因果関係の模索は何度かトライしましたが、納得のいくアウトプットが得られずに失敗に終わっていました。今度こそ!という想いで再度挑戦することを決め、自分一人では不可能なので STORES の超強力で超協力的なデータ分析チームを含めてプロジェクト的にチームを発足しました。

因果関係を見つけるpjtで明言した目的

まずは定性的な意見から仮説を導き出し、それに対するデータチームの分析を得て、一緒に多くの数字を検証し、仮説を出しは再び分析を行う、、、これの繰り返し。

・これまでCSMの感覚値として重視してきたことが、本当にチャーンに影響するのか?
・各種利用機能の差分がチャーンにどのような影響を与えるのか?
・STORES で作成するページ構成の違いがチャーンに影響するのか?
・利用開始後、いつまでにどれくらいアクティブしているとチャーン率に影響するのか?
・SEOのキーワード設定をどれくらい登録するとアクセス数が伸びるのか?
・閲覧しているFAQページによってチャーンの可能性は高まるのか?
・決済機能の利用状況がチャーンにどのような影響を与えるのか?

などなど、様々な観点からの分析が最初に行われ、○○を実施した人としなかった人で一年後のチャーンにどのような影響を与えるのかを中心に、数えきれないほどの分析が進めてきました。

結論からいうと、直接的な100%の因果関係はなかったものの、多くの相関関係を把握することができ、今後の STORES のカスタマーサクセスの活動や行動内容の指標となる複数のアウトプットを得ることができましたので少しご紹介させていただきます。

アウトプット1:マジックナンバーという参考数値

具体的な数字はここでは書けませんが、私が主に担当している STORES 予約 というプロダクトは予約、決済、顧客などの管理ができる機能が提供されているプロダクトです。このプロダクトをご契約後、利用状況が特定の数字(予約数)に到達すると、将来的なチャーンの可能性が低くなるというポイントとなる数字です。わたしはこの特定の数字をマジックナンバーとして採用することにしました。

ご契約後・・・
60日以内に xx 件の予約数
90日以内に xx 件の予約数

STORES 予約 において見つけたマジックナンバー

ご契約後の経過日数 × 予約数 × チャーン実績 を分析し、将来チャーンになる/ならないという結果に対して最も大きな差分が発生するポイントがこのマジックナンバーです。

このマジックナンバーとなる数字(予約数)を見つけたことで、オンボーディングフェーズとアダプションフェーズで重要な目指すべき参考数値になることは明らかになりました。

そして、マジックナンバーの達成を目指すにあたり、達成しているお客さまと、そうでないお客さまの違いも見てきました。設定内容や、利用方法、ページコンテンツなどがマジックナンバーを達成しやすくする項目の一例であり、その各項目の設定状況が結果的に将来のチャーン可能性を少なくする要因につながるということが明確になってきました。

マジックナンバー到達するお客さまと未到達のお客さまの違いを分析

例えば一例ですが、STORES 予約 において、予約ページにSEOのキーワードをただ登録するだけでなく、××個以上登録することが、その効果がより現れやすくなるという傾向が浮かび上がってきました。当然オンボーディングの際にそのキーワード数を登録するように促せるようになりました。

多くの分析から得たインサイトをもって、マジックナンバーを達成させるためには、お客さまのページコンテンツをどのように充実させ、利用すべき機能がどれで、どのように設定してもらうか?までのご案内を強化する。そして、その設定状況の有無まで可視化ができるようになったことが最初のアウトプットです。

アウトプット2:アクションアラート

STORES では「アクションアラート」と呼ぶことにしましたが、他社でも利用状況アラートでなどのいわゆるCTA(Call to Action)を持っている企業は多いと思います。

例えばオンボーディングフェーズ以降、ログイン数が前月比で◯%減少。メールのクリック数が◯%減少、アクティブ数が◯%減少。あるいは使うべき機能の利用が停滞してしまったなど、決めた閾値を超えるとアラートが発動し、CSMがフォローをしにいくというようなこと。

ただし、このCTAを発動し検知したところで本当にチャーンの阻止につながるのかという説得力が弱かったり、多くのCTAを設定しすぎてアラートが絶えず発動し続けて、結局CSMが対応しきれなかったり、、、そんなことはありませんでしょうか?

あくまでも私の経験にもとづく話ですが、多すぎるCTAは対応工数の兼ね合いから無視されがちなので、できるだけ少ない項目に絞った上でチャーンの可能性を低くしてくれる要素に限定していきたいです(当たり前ですが)。

・アラート内容は特定個人の主観的な感覚だけになっていないか?
・アラートは分析結果に基づく根拠のある内容か?
・アラートに対するフォローの実施工数は確保できているか?
・実施する内容と担当チームは明確になっているか?
・実施したアクション結果とその結果は適切に管理できるか?

STORES 予約 におけるアクションアラート(CTA)設定のCheck Point

今回の各項目の分析をもとに、チャーンの改善に寄与する8つの項目について、利用状況に合わせたアクションアラートを発動させることにしました。ただし後述しますが、現時点ではほとんどがあくまで「発動」にとどめています。

<アクションアラートの考え方>

変数:「ご契約いただいてから○ヶ月以上経過しているお客さまのうち」
アクションアラートの例↓
・予約数が前月より x %減少:アクティブ状況が悪化?
・初期設定FAQ閲覧 x 回以上:担当者が変更した?
・オンライン予約率 x %未満:お客さまのお客様に定着していない?
・解約関連FAQ閲覧 x 回以上:解約方法を検討しはじめている?
 などなど・・・

オンボーディング終了後のアクションアラート内容の一例

これらはあくまでも一部の例に過ぎませんが、分析結果から得た変数とアクションアラートは、それぞれチャーンとの相関関係があることが明らかになってきました。しかし、ここで重要なのは、すべてのアラートに対して一気にアクションを起こさないことです。アラートは発動しても、アクションする内容はハイタッチチームとテックタッチでフォローするそれぞれ1つづつ。ただ1つだけのアクションアラートに対してフォローを行うことだと思っています。

この判断の理由はシンプルで、CSメンバーに対して一気に多くのアクションを求めると、全体が中途半端になる可能性があるためです。また、一つずつ丁寧に実施した内容に対する「答え合わせ」が必要であるという背景もあります。何より重要なのは、まずは限定的な範囲で始めて、できることを丁寧に実践し、その効果をMgrやメンバー、データチームを含めて確認できるようにすることです。

アクションで得たインサイトから、アラート廃止の決断と効率化&改善の判断を繰り返す

アクションアラートに対しては、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチそれぞれがフォローを行い、その結果をチーム内でしっかりと共有することが重要です。得られたインサイトと結果を確認した上で、実施しても意味がない(工数ばかりかかる)ものは廃止する勇気を持つことも大切です。逆に、実施すべきことを決めたら、どのようにしてコンテンツ化し、効率よくお客様に提供できるかが今後の注力ポイントとなります。(ただし、カスタマーサクセスのチャーン対策は実行結果が長期間かかるため、判断が難しい部分ではありますね)

アウトプット3:ヘルススコアという副産物

データ分析チーム協力のもと多くの分析を行ってきたことで、さまざまな相関関係が見えてきたと前述しました。

・xxの機能を△△の使い方をしている場合はチャーンが大きく減る
・○○とxxと◻︎◻︎を3つとも利用している状態だとチャーンが大きく減る
・※※の機能を使っていると未利用の場合よりもチャーンが若干減る

各分析軸を組み合わせて集合体として、結果的に構築されたヘルススコアは、以前のものよりも信頼性が大幅に向上します。・・・であろうという推測ではなく、具体的な分析結果に基づいているため、より精緻なスコアが得られています。詳細がお見せできないのが残念ではありますが、チャーンに影響する項目とその影響度数に応じて点数をつけ、10個以上の採点項目を設定し、各項目の点数も0点から23点の幅を持たせました。

つまり、例えば特定の機能を利用している場合、未利用の場合と比較してチャーンの可能性が低くなるが、その影響度が小さい場合は、点数を1点に設定しました。逆に影響度が大きい場合には、点数を高く設定するといった微調整です。

ただし、このプロジェクトにおいてはヘルススコアの構築が主目的ではありません。目的は顧客の状態とチャーンの因果関係(結果的に相関関係になったが)を見つけることでしたので、ヘルススコアはあくまでもその副産物です。

副産物とはいえ、信頼性のあるヘルススコアなのでこれを使わない手はありませんが最初の段階ではまだスコアの状態で、このタイミングで閾値を設けて青信号/黄色信号/赤信号をつけて、スコアによってアクションを実施するということはしません。

スコアだけでフォローの実施有無を決めないようにし、あくまでヘルススコアは、マジックナンバー到達を含めたオンボーディングやアダプションフォローの強化、そしてこれらの結果やアクションアラート(CTA)へのフォローによってどのようにスコアが変化するかを観察するためのものと位置付けることにしました。

この観察期間は半年から1年程度を予定しており、PDCAを実行しながらヘルススコアに高い信頼を維持させ、最終的には閾値を設定して顧客を常に青信号の状態に誘導できるようにする考えですね。

カスタマーサクセスにとっての指標とするもの

私はこれまでどちらかと言うとCSMの意見や直感など定性的な感覚を大事にしながら10年程カスタマーサクセスをしてきました。

ただし、自分一人であったり、少ないお客さま数であればいかようにもなる定性的な感覚も、立場が変わったりメンバーが増えたり、お客さまも増えて全てに目を配ることが難しくなり、「指標」となるものが必要になります。

その指標は絶対的なものではなく、カスタマーサクセスのメンバーが自信を持ってお客さまに案内し、行動できるようになるためのサポート的な数字となれば良いと考えています。

↓の図でも示しました。
① チャーンの可能性が下がるマジックナンバーという指標を見つけたので、この数字を達成するために、②設定すべき項目をしっかりとお客さまに案内して利便性高くご利用いただけることをまずは意識します。

③ 当然マジックナンバーを達成したから安心をするのではなくて、お客さまの利用状況に合わせた適切なアクションアラート(CTA)を発動することでメンバーが迷いなくお客さまにフォローを実行できる環境と、その効率を向上させるためのコンテンツを強化します。(CTAは極力少なく)

④ 実際に、やるべき案内/フォローを行うと、そのヘルススコアはどのように変化するのか?のモニタリングを行っていきます。

⑤ アクションアラートの実施状況や、ヘルススコアと実際のチャーン状況を照合し、アクション内容を含めてヘルススコアの信頼性を向上させ、オンボーディングやアダプションのフォロー内容を継続的に改善していきます。

結局のところ、お客さまに対して最適な価値を提供する方法、特にオンボーディングやアダプションにおいては、ネバーエンディングであり、終わりなき問いなのだと考えています。できることは単にゴールの達成ではなく、考え、改善し続けること。これに尽きるのだと。

最後に

いかがでしたでしょうか。長文で申し訳ございませんでした。
自社プロダクトの利用状態を数値化することは、カスタマーサクセスにおいて重要なことです。適切なヘルススコアを駆使することで、チャーン率の改善や顧客のフォローアップ、アップセル、クロスセルの提案にきっとつながるでしょう。ただし、ヘルススコアだけに頼らず、適切なアクションを実行し、定期的に改善を行うことが必要であり、ヘルススコアも素晴らしいものしていく。2023年にアウトプットしたことを2024年はさらにバージョンアップさせていく年になります。

そして自分の中では2024年の STORES のカスタマーサクセスはフェーズ2に突入すると思っています。

めちゃくちゃ面白いけど、また多くのPDCAをまわしながら行動をしつづけることになります。そんな激動のカスタマーサクセスを一緒に行っていただける仲間を募集しておりますのでよかったらぜひ採用サイトご確認いただけると嬉しいです。

私は普段はtwitterに出没しているのでお気軽にフォローしていただけると嬉しいです。

STORES 株式会社
陣山一樹


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