【MTG】あのレガシーデッキの名前の由来って何なの?

以前チームアメリカの名前の由来を調べていた時に、別のデッキ名の由来についても知る機会があったので、把握している限りでいくつか紹介します。



カナディアンスレッショルド/Canadian Threshold

マジック史上初めてレガシーのグランプリが開催された2005年。この頃の青緑スレッショルドデッキは《熊人間》や《敏捷なマングース》などをベースに構築されていました。
テンポ・アドバンテージを重視したスレッショルドデッキの始まりは2007年ごろで、David CaplanやLam Phanらカナダ出身のプレイヤーによって普及されました。
このカナダ発祥のスレッショルドデッキは、レガシー選手権07にてCaplanがトップ4入りしたことで広く知れ渡ることになり、「Canadian Threshold」として完全に定着しました。


チームアメリカ/Team America

私が一番愛したデッキです。
デッキ名の由来は、『青緑スレッショルドのメタとして《墓忍び》が注目されたから』でも、『とにかく強力なカードが詰め込まれている「アメリカの象徴」のようなデッキだから』でもありません。

このデッキの物語は、アメリカ北バージニアのレガシーコミュニティに所属するDavid Gearhartが作成した「Europe」というジョークデッキから始まります。
この「Europe」は、アメリカとヨーロッパのメタゲームの違いに注目し、ヨーロッパ地域でよく使用されていたカードで組んだ青黒デッキでした。
DavidとDan Signorinは、綿密な調整の結果、「Europe」をアメリカのメタゲームを意識した「America」という青黒緑デッキに仕上げ、ことあるごとに映画『チーム★アメリカ/ワールドポリス』に由来するジョークを交わしていたため、名称は「Team America」へと変化していきました。

チーム★アメリカ/ワールドポリス(2004)

「Team America」が完成するまでの詳しい経緯等については下記のnoteをご覧ください。

余談ですが、DavidやDanの所属する北バージニアのレガシーコミニュティは、「Team America」のほか、後述する「Red Death」や「Eva Green」「Solidarity」を開発したのみではなく、様々なレガシーデッキの開発・発展に大きく貢献してきました。


ニューホライズン/New Horizons

「New Horizons」は、コンフラックスで《聖遺の騎士》を得たことにより開発されたバントカラーのアグロ・コントロールデッキです。
キーカードとなっている《地平線の梢/Horizon Canopy》が名前の元になっています。
これに加えて、デッキ作成者が以前勤めていた会社で開発した探査機〝New Horizons〟に由来しています。冥王星に向かう宇宙船同様、アグロ・コントロールというアーキタイプを新しい場所へ導く、という隠喩でもあるそうです。

冥王星探査機〝New Horizons〟


マーベリック/Maverick

「Maverick」の名前の由来は非常にシンプルで、デッキ作成者であるLuis VicianoがMagic Online上でM@verickと名乗っていたことに由来しています。
《霊気の薬瓶》を用いたデッキとして誕生しましたが、《緑の太陽の頂点》と《スレイベンの守護者、サリア》を得たことで今の形に定着しました。


デス&タックス/Death and Taxes

「Death and Taxes」はDaniel Payne(ハンドルネームFinn)が作成した白単のコントロールデッキです。
デッキ名は、〝Nothing is certain but death and taxes.(死と税以外に確かなものはない)〟というアメリカの有名なことわざに由来しています。
このデッキにおける「税」とは、ヘイトベアーにより相手のデッキが正常に機能しない状況を作り出す事を指しています。
クリーチャーは対戦相手のリソースに課税し、最終的に対戦相手を死に至らしめます。

このデッキの物語は、レガシーがはじまる10年近く前のDanielのあるアイディアから始まります。
それは、対戦相手が対処しなければならないような軽量クリーチャーを唱え続けることができれば相手のデッキは最終的に崩壊する、というものでした。
このアイディアは、《凄腕の暗殺者》のようなクリーチャーが対戦相手の足を止めることができることに気づいたところから生まれましたが、かつてのマジックにはそのようなクリーチャーはほとんど存在しませんでした。
当初はトーナメントシーンで通用するようなデッキではなく、かわいいペットのような存在でしたが、ゆっくりと少しずつ、長い年月をかけて様々な機能を持ったクリーチャーは増えていき、「Death and Taxes」の輪郭が見えてきたのは、2006年に時のらせんで《コロンドールのマンガラ》が登場してからでした。
本格的にトーナメントシーンで活躍するようになり、独自のアーキタイプとして広く認知され始めるのは2012年になってからのことです。


ニックフィット/Nic fit

 "nice fit "の誤植という説や、喫煙習慣に関する説など諸説あります。
しかし、真相はSonic Youthの同名の曲〝nic fit〟に由来しています。

The Sourceに投稿されたデッキ作成者の解説によると、デッキを名付けた時にこの曲を聴いていため「Nic fit」と名付けたそうです。
Nic-fitには、英語で「タバコが吸いたくてたまらない」という意味があり、解説の中で、喫煙者であればトーナメントで長時間の対戦となるとタバコを吸いたくなるだろうという心情にも触れています。


MUD(Mono-Brown Mud)

MUDは、Arthur TindemansとKoen van der Hulstによって作成されたヴィンテージの茶単デッキです。
このデッキの物語は、オランダのArthur TindemansとKoen van der Hulstが、それぞれ《Mishra's Workshop》を悪用したヴィンテージのデッキを持ち寄って遊んだところから始まります。
お互いに相手の茶単デッキのコンセプトを気に入ったため、2つのデッキは1つのデッキへと調整されていきます。
そして、Koenの茶単デッキの《抵抗の宝球》等を用いたロックメソッドと、Arthurの茶単デッキの《銀のゴーレム、カーン》を用いたキルメソッドが融合し、名前のない1つの茶単デッキが完成しました。
2人は「Muddy this」や「Muddy that」のような、“Mud”という言葉を使ったデッキ名を考え始めましたが、Koenが短いデッキ名にしたがっていたこともあり、最終的に「Mud」になったそうです。
その後、彼らはこのアーキタイプで勝ち続け、オランダのDCIレーティング(ヴィンテージ)で、それぞれ1位(Arthur)と2位(Koen)に到達することになります。
レガシーにおいては、《金属細工師》《厳かなモノリス》が解禁され、マナを大量生成するツールを得たことで構築が可能となりました。また、同時期に《磁気のゴーレム》が登場したこともあり、レガシーのMUDは独自の進化を遂げました。


Tin Fins

Adult Swim(カートゥーンネットワークの深夜番組枠)で放送していたアニメ『SeaLab 2021』に由来しています。

SeaLab 2021(2001-2005)

この番組は、『SeaLab 2020』という環境をテーマにしたハンナ・バーベラのアニメを風刺的にパロディ化したものでした。
この作品のシーズン2に〝Tinfins〟と呼ばれるエピソードがあり、架空のレストラン〝Grizzlebees〟を中心に展開されます。

〝Grizzlebees〟は、海外でよく使われる《グリセルブランド》のコミカルな愛称でもあり、ここら「Tin Fins」というデッキ名が生まれました。これに加えて、熱心なプレイヤー層に支えられたこともあり、デッキ名が今も存続しています。また「Tin Fins」のほぼすべての派生型はSeaLab 2021のエピソードに由来した名前が付けられています。「Ice Station Zebra」や「Martian Law」がまさにそうです。


チームイタリア/Team Italia

《石鍛冶の神秘家》や《闇の腹心》等、カード・アドバンテージを意識したカードで構成された白黒赤のジャンクデッキです。
デッキ作成者であるGerard Fabianoへのインタビュー記事によると、自身のイタリア系の血筋と当時人気のあった「Team America」にちなんで「Team Italia」と命名したそうです。


フェアリーストンピィ/Faerie Stompy

《古えの墳墓》等の2マナランドと《虚空の杯》を用いたアグロデッキで、「Dragon Stompy」や「Eldrazi Stompy」等のアーキタイプの起源となるデッキです。
「フェアリー」と「〜ストンピィ」のそれぞれに由来があるため、順番に説明していきます。

① 「フェアリー」について
該当スレッドへアクセスできないため、原文及び翻訳内容の一部をmw氏のXとDiarynoteから引用させていただきます。(ご協力いただきありがとうございます。)

http://www.mtgsalvation.com/forums/the-game/legacy-type-1-5/legacy-archives/183310-official-thread-faerie-stompy
での製作者Eldarielの弁によれば、

・Type1.5がレガシーに移行した時、掲示板(The Source)でこの新しいフォーマットの禁止カードに添った新デッキのコンテストが行われた

・前々からカジュアルデッキとして温めていたが合うフォーマットがなかったデッキアイデアがレガシーでは良さそうなのでコンテストに投稿した

・最初期はフェアリーの大群、シー・スプライト、フェアリーの集会場といった小粒なフェアリーを使っていたことと、ローウィン以前なのでフェアリーはほんの数枚しか存在しない極めてマイナーな種族であり、他のデッキと混同される心配は全くなかったことから、デッキ名でフェアリーと名乗るのは極めて適切であった

・「ストンピィ」を名乗るのは、「小さく可愛らしいフェアリーの群れが、自らの3倍はある剣を担いで対戦相手の顔を踏みつける」ことでの対戦相手の屈辱はこの上ないものだろうとのことから

以上の過程でフェアリー・ストンピィが誕生した。

ストンピィ系、特にFaerie Stompyのデッキ名の由来https://85160.diarynote.jp/201802012022074244/

②「〜ストンピィ」について

Legacy Italiaに掲載されたJarno Porkkaのインタビュー記事において、「Stompy」というデッキ名については、ハンドルネームZilla(旧GodzillA)の作成した「Angel Stompy」に由来しているため名前の生みの親ではないが、《虚空の杯》を用いたアグロデッキのアーキタイプについては、自身が生みの親であると自負している、と説明しています。


ちなみに、当時の「Angel Stompy」は、「Stompy」を彷彿とさせる白ウィニーの基本構成に、《古えの墳墓》や《金属モックス》等のマナ加速を用いて《讃美されし天使》や強力な装備品を唱えるコンセプトを加えたものになっています。


レッドデス/Red Death

「Red Death」は、北バージニアのレガシーコミュニティに所属するAnwar Ahmadらが作成したスーサイドブラックです。
デッキ名は、エドガー・アラン・ポーの短編『The Masque of the Red Death(赤死病の仮面/赤き死の仮面)』に由来しています。

余談ですが、江戸川乱歩のペンネームの由来になっているのも、エドガー・アラン・ポーです。

The Masque of the Red Death(1842)


エヴァグリーン/Eva Green

《タルモゴイフ》の登場により「Red Death」に代わるデッキとして、Dan SignorinとAnwar Ahmadらが作成したスーサイドブラックです。
デッキ名は、映画『007/カジノ・ロワイヤル』にてヴェスパー・リンド役を演じたエヴァ・グリーンに由来しています。
ちなみに、スーサイド要素はデッキ名にも含まれており、エヴァ・グリーンが演じるヴェスパー・リンドは物語終盤で自ら命を断ちます。

6代目ジェームズ・ボンド役を演じたダニエル・クレイブとヴェスパー・リンド役を演じたエヴァ・グリーン


ソリダリティ/Solidarity

北バージニアのレガシーコミュニティに所属し、「Team America」の作成にも関わったDavid Gearhartが作成したハイタイドデッキです。
2011年に《時のらせん》がレガシーで解禁されるまで、ハイタイドデッキの主流となっていました。
デッキ名は《結束/Solidarity》に由来しています。

結束/Solidarity(8ED)

え?《High Tide》と関係ないって?
えぇ、関係ないですよ。
Davidの友人が遊んでいたドラフトで、《吐き気》に対して《結束》で応戦したシーンがツボにハマったようで、そのままデッキ名にしたそうです。

ちなみにDavidの独特なネーミングセンスについては別のデッキを作成した際にも指摘されており、相殺コントロールの派生型「It's the Fear」の場合は、The Sourceのスレッドで「デッキ名なんとかならんのか」というツッコミが入れば、「青単ストームにソリダリティって名付ける人だから…」と別のプレイヤーからフォローが入る始末。

現在も名前の由来が不明なデッキは、案外くだらない理由で命名されていたりするかもしれませんね。


デッドガイエイル/Deadguy Ale

かの有名なChris Pikulaがグランプリフィラデルフィア05で使用した黒タッチ白のコントロールデッキです。
デッキの正式名称は「Rogue Deadguy Ale: A Homebrew」。アメリカのオレゴン州にあるローグ・エール醸造所が製造している同名のビール〝Deadguy Ale〟が名前の由来となっています。

Deadguy Ale(classic logo)

命名の経緯については詳しく語られていません。
かつてPikulaがTeam Deadguyに所属していたことや、オリジナルデッキを〝A Homebrew(自家製ビール)〟に例えたこと、ローグ社とローグデッキ(地雷デッキ)がかかっていること等、奇妙な関連性からいくつかの憶測が生まれました。
本人や関係者が命名の経緯に触れている記事をご存知の方はぜひ連絡ください。

ビールの方のDeadguy Aleについてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。

醸造所のモットーは〝Dare – Risk – Dream (恐れずに、危険を顧みず、夢に向かう)〟。
《闇の腹心》を彷彿とさせるキャッチフレーズが最高ですね。


その他参考にした記事

レガシーのへんてこデッキ名の由来まとめ
https://85160.diarynote.jp/201811242233378569/


おわりに

デッキ名の由来の紹介はひとまずここまでとなります。
内容の指摘や、より正確な情報源、その他レガシーデッキの情報についても随時受け付けています。
noteのコメント投稿または、XのDM等からご連絡ください。
情報提供の際には、本人や関係者が発信している情報元のURLを添えてください。

まだネタはいくつかあるので、時間がある時に更新しようかと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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