ばる|専業読書家(人文学)

哲学、資本、テクノロジー、歴史、文化などを学び、なにかを考えて吐き出します。京大(工学…

ばる|専業読書家(人文学)

哲学、資本、テクノロジー、歴史、文化などを学び、なにかを考えて吐き出します。京大(工学)→東大院(環境学)→IT企業(ビジネス職)→退職:死ぬまで独学。30代。100%人力で執筆します。

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  • 「文学」で読む、人と世界のこと

    古今東西の文学作品を通して、人間や文化、社会について学んでいく記事を集めました。

  • 随想

    世の中の色々な事柄についての思索・散文

  • より良く「考える」ためのツール集

    「考えること」に関する書籍の紹介記事をまとめました

  • 根源を問う~哲学のススメ

    哲学書のレビュー集です。自身、専門家ではないので、比較的読みやすい本の紹介や、読みにくいものであっても非専門家の言葉で噛み砕いていきます

  • 子育て日記

    子育ての記録と思索・随筆

最近の記事

不動産機械は登記しゆく~『地面師たち』の狩猟シーンに添えて

Netflixで配信中の掲題作の中に、いずれも強い印象を残す3つの狩猟シーンがある。第1話冒頭のハリソン山中の熊との遭遇からこのドラマシリーズは口火を切り、そして最終話のラストカットは雪山で銃を構える彼で締めくくられる。地面師詐欺師たちが繰り広げる物語のすべてが、狩猟という枠の中で動いている。ここで狩猟が出てくるのは、詐欺師とその被害者たちの土地を巡る「狩り-狩られる」関係の安直なアナロジーによる演出効果を狙ってのことではない。 銃は地面を切断する。狩猟という行為、その道具

    • ボードレール「夕べの調べ」 «Harmonie du soir»

      近代詩がここから始まったと名高いシャルル・ボードレール(1821-1867)『悪の華』の、最初の章「憂鬱と理想」に収録されている「夕べの調べ」が突然ぼくの胸を衝いたので、ここにまるごと掲載しておこうと思う。 仏語原文↓ 幾つもの邦訳を見たけど、上の杉本秀太郎訳が原文の韻律を残しながら意味の流れもうまく掬い取れていてとても素晴らしいと感じる。 全ての行、すべての字句に染み渡るノスタルジックな感覚(音,香り,触感,…)と重くしとやかな倦怠の情が、句の反復と韻のこれまた気だる

      • 【引用】『自省録』~自分自身の問いへと帰る

        普通にいいことば。特に最後。 幾度となく気が逸れてしまったとしても、気づけばそこに立ち返ろうとするような対象がある場合、そこに内在的な「自分自身の根源的な問い」を含んでいると考えてよい。 取り組む必要のある事柄を無理に愛すべしという意味ではなく、自分の振る舞いを俯瞰して、気散じも愛する対象への還帰もともに自然な性向と了解するということ。 久々に読み返して気付いたんだけど、いわゆる人生哲学的な領域においては、なぜかは分からないけど自分もかなりストア派寄りな思想になってる気

        • 独学考:メモについて~文字メディア、遅さ、B8 01 00 C0 00

          頭の中でぐるぐると考え(あぐね)ていたものが、眼のまえの机に紙を広げてササッとメモしてみると、案外と思考が進む。「とにかく紙に書いてみる」というのはあらゆる知的生産の骨法であるが、一方で、そんなうまい話があるか?とも思わなくもない。立ち止まって少し考えてみよう。 意識という現象はあくまで無延長で無限定なものだが、そのうちで意識内容は局限されたもの―それ自体、模像として意識に流れ込んできたもの―である。考えていることを紙に書くということは、意識内容を物理的な対象に有意味な記号

        不動産機械は登記しゆく~『地面師たち』の狩猟シーンに添えて

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        • 思想で読み解く企業経営
          8本

        記事

          現実という"感じ"~VRから認識論を再考する

          知覚における錯覚への理解の深まりとそのメディア的利活用の活発化が、現実認識のあり方の反省の呼び水になっているという事態はすごく興味深い。 ゴーグルごしに見る立体視がただそれだけでリアル(現実)の十分条件をなすものと捉えられていたVR第一世代(1989年)から、諸々の別種の知覚を結び合わせながらより巧妙にシミュレートして合成された感覚像をこそリアルとみなすというの現世代への移行。それも、プログラムによって構成された自然である。 クロスモーダル(今だと「マルチモーダル」という

          現実という"感じ"~VRから認識論を再考する

          独学考#8:文献管理ツールを調べて比較する

          毎日論文をいろいろ漁って読んでいる。奔放に関連論文をたぐり寄せ、検索し、PDFをガンガンに落としまくっている。 すると、謎の英字名のファイルがローカルディレクトリ各所に散らばり、どこにあるのか探せない。どれに何が書いてあるのかもパッと見ではわからない。探してるアレがWebで見たやつなのか、DLしたものなのかも分からない。 いざ一元管理しようにも、メディア形式がバラバラなもの(紙,PDF,Web)を一括で置くことはできないし、じゃあ書誌情報だけを抽出してチクチクまとめようか

          独学考#8:文献管理ツールを調べて比較する

          ToodledoからNotionに移行した(けどそんなことより"サブスク"ってなんかムカつくよね!?

          タスク管理ツール、かなり高機能な「Toodledo」てやつを年額5,000円ぐらいでずっとしゃーなしで使ってたんだけど、このたびの爆裂値上げでムカついてNotionに半日がかりで移行した。 Toodledoを今の今まで使ってた理由として、タスクの親子関係の表現と、子タスクも親とは別個にかなりきめ細かく設定できる点を評価してたってのがある。Notionではそのへんが一部失われつつも、他機能をうまく取り回してがんばって再現した格好。そんでリピート系の処理がちょっと手間どった。

          ToodledoからNotionに移行した(けどそんなことより"サブスク"ってなんかムカつくよね!?

          独学考#7:資質としての記憶力

          記憶力の高さはそのままダイレクトに成果物の質の高さにつながる。しかも、それが生まれ持った記憶力の高さであれば、それだけ有利である。 歴史上の偉人が超人的な記憶力を持っていたというエピソードには事欠かないにも関わらず、仕事や研究などの読み物を読んでいて表立ってこれを言っている人をほとんど見かけないのは、これがある意味で"不都合な真実"だからだろう。だって生得的な能力は持たざるものにはどうしようもないし、それを言ったら元も子もないし。 モノをたくさん覚えていれば、その分だけ自

          独学考#7:資質としての記憶力

          ここ数日GoogleのNotebookLMで論文横断読みを色々試してみてるけど、精度がまだ全然だめ。PDF読み込まなかったり、言語間の繋ぎがイマイチだったり、受け答えの賢さが足らなかったり。全論文を直列に繋いでChatGPTに喰わせる手間をかける方が遥かに実りがある。

          ここ数日GoogleのNotebookLMで論文横断読みを色々試してみてるけど、精度がまだ全然だめ。PDF読み込まなかったり、言語間の繋ぎがイマイチだったり、受け答えの賢さが足らなかったり。全論文を直列に繋いでChatGPTに喰わせる手間をかける方が遥かに実りがある。

          見えないものは無限に類似する~ヒュームの方法と普遍性の虚構

          ヒューム『人間本性論』において、通常見過ごされがちだが体系全体にとって重要な示唆を含みうる箇所を取り上げる。西洋近世における経験論哲学が頂点を極めた本書(第1巻)のうち、第4部第3節「古代の哲学について」でのアリストテレス-スコラ的な実体概念への批判の箇所である。 この箇所は直接には、中世のアリストテレス-スコラ学的な実体と実体的形相の対概念を、虚偽の観念であると糾弾するものである。実体すなわち根源的な質料と、それを種的な本質を持つ特殊な在り方に規定する実体的形相という有名

          見えないものは無限に類似する~ヒュームの方法と普遍性の虚構

          【引用】継起としてでなく、純粋形式としての時間

          仮にヒュームが一世代あとに刊行された本書を読んだとしたら、悶絶したであろう箇所はここである。 先立つ有名な空間論―空間は感性的認識の直観的な形式としてアプリオリであり、認識の素材たる知覚印象に尽きるものではない―に対しては、恐らくヒュームは「理性的区別」(『人間本性論』第一巻第一部第七章等)、すなわち経験的に構成される抽象観念としての"延長"で応じえたはずだ。 しかし、単なる知覚の継起としての"時間"(の虚構)に関しては、この経験的抽象の作用は確たる地盤を築きえない。なぜ

          【引用】継起としてでなく、純粋形式としての時間

          近世哲学まとめ買い。

          近世哲学まとめ買い。

          小3長女の読書事情:初めて手に取った新書はまさかの...

          うちの子は将来、どんな本を読むようになるんだろう。 それ以前にまず、本を読むタイプの人種になっていくのだろうか。 人生がまるごと本とともにあるような親にとって、これはとても気掛かりな問題である。 とくべつ教育熱心な親では無いものの、本だけは長女の幼少期よりせっせと配給しつづけてきた。家の本棚には年齢ごとの絵本が敷き詰められているし、妻が図書館で借りてきた本も常にそこらに転がっている。どんどん読むので、どんどん備蓄する。 6歳頃からは字が多めの本を徐々に読めるようになっ

          小3長女の読書事情:初めて手に取った新書はまさかの...

          独学考#6:過去を問い、前方予測性を高める

          あるテクストの読解のゴールは、究極的には著者を読者自身のうちに憑依させ、著者が辿る思考の道筋をありのままに再現できる状態になることだと思う。 別に異論は全然認めるとして、ではここに向かうために、読者には何ができるだろうか。 著者を自分の脳に「降ろす」とは、単にその著作が論じている理路の再現だけに限ったものでは全然なくて、著者がものを考える際の規則や傾向性を丸ごと把握し、それに即して思索を展開するということを意味する。「もし◯◯ならどう考えるか」とは自然科学ではほとんど問わ

          独学考#6:過去を問い、前方予測性を高める