いつまでもあると思うな、推しチェーン
別れは突然にやってくる。
徒歩圏内にあった居酒屋が、数ヶ月前に閉店した。夫婦で長年営んできた焼き鳥屋だ。白髪のおじいちゃんは70代後半くらいだろうか。口数は少ないながらニコニコと笑顔がかわいい。一方、奥さんは饒舌だ。1998年長野オリンピックの際に各国の報道関係者がこぞって店にやってきた話や、かつての街の様子を教えてくれた。コの字カウンターから見る二人は、長年連れ添ってきたおしどり夫婦を体現したような存在。隣合った常連さんとも気軽にコミュニケーションがとれ、居心地のよい空間だった。炭火でじっくり焼いた焼き鳥もおいしくて、二度行っただけだがお気に入りのお店だった。これから常連になるぞ!と意気込んでいただけに、いきなりの閉店にがっくし肩を落とした。
毎日どこかで店が静かに歴史を終えている。
通勤路の角の八百屋も、アーケード街に店を構える定食屋も。いつの間にかなくなってしまった。いつも見かける店に貼り紙があるとヒヤリとする。行きたいと思うお店があったら、今すぐ行くべきだ。突然の別れほど寂しいものはない。
閉店はなにも個人店だけに限った話じゃない。チェーン店にも言えることだ。
長野市からポッポがなくなる。
厳密に言えばイトーヨーカドーが撤退するのだけど。これはもう、今年一のショック案件だ。イトーヨーカ堂長野店のポッポが閉店したら、最寄りのポッポは70km先の南松本店。ポッポのポテトが食べたくなったら車を1時間走らせないといけない。無性に食べたくなったらどうすればいいの……?
思えば、ロッテリアもなか卯もペッパーランチも、素晴らしき外食チェーンは全て自分の生活圏内から撤退してしまった。
猛烈に絶品チーズバーガーを食べたくなったら、80km先の高崎ウニクス店まで行かねばならないのか。
親子丼とこだわり卵のプリンは71km先の黒部田家店に?
84km先のけやきウォーク前橋店まで車を走らせないと、昼間からニンニクガツンと効かせてビーフペッパーランチ頬張れないの??
個人店が冷え込む日に欲しくなる湯たんぽだとしたら、チェーン店はいつもそこにあって当たり前のかけ布団のような存在だ。いつでも思い描いていた美味しさを思い描いた通りに提供してくれる安心感。多額の開発費用と開発部の汗と涙の結晶が詰まった完成された味……。
もういやだな、これ以上推しチェーン店がなくなるのは。
半年以上猶予を持って告知されたのが不幸中の幸い。
残された7ヶ月、ポッポに足繁く通うことになりそうだ。