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しなやかな心と「苦しみ」(ACT紹介①)

「感情をコントロールできないなんて、
 自分はダメな人間だ

「過去の失敗をつい思い出してしまって、
 目の前のことに集中できない」

「仕事にやりがいを感じなくて、
 この先の将来が不安で仕方ない」


日々の生活の中で、
このような悩みを抱えていませんか。

この記事では、
そうした悩みに対処するための方法
紹介いたします。


人間には、一生のうちに何度か
人生について深く悩む時期がきます。

環境が変わったり、
自分の考え方が変わったりして、
人生の方向性がわからなくなる時期です。

私はその時期を「人生迷子」と呼んでいます。

この時期には、
生きがいややりがいを感じられず、
「このままでいいのか」
という迷いや不安を強く感じます。

人によっては、
心に不調をきたし、
適応障害やうつになる方も
少なくはありません。

かくいう私も、
教員を辞めて転職するも、
新しい仕事にうまく順応できないことに悩み、
適応障害になりました。

その苦しい日々から、
人生を立て直す大きな役割を担ったのが、
今回紹介するACT(アクト)です。

実は、適応障害になる前から
ACTには興味を持っていました。

教員を辞める少し前に、
「これは不登校を経験した中学時代から
 自分が実践してきたことに近い」
と思い、後学のために本を読んでいたのです。

その時は、
自分を救うことになるとは
思っていませんでした。

しかし、
休息の期間に学び直し、
自分に対して工夫し実践することで、
心身の不調から回復できました

一昔、二昔前なら、
精神的不調は
「根性が足らん!!」
で一蹴されたのかもしれません。

しかし、
今やメンタルの調整は
体調管理と合わせて重要なライフスキル
です。

今回は、
そのライフスキルを養うトレーニングとして
私がとても有効であると考えている
ACTをご紹介します

聞いたことがある方は少ないかもしれませんが、
うつ病や慢性疼痛等の軽減に
その効果が実証されており、

WHOにより紹介されたこともある
信頼度の高いセラピー
です。

ACTって何?

まずACTとは何かについてご紹介します。

その後、簡単にではありますが、

ACTが前提とする考え方

についてご紹介いたします。

では、ACTとは何か

ACTと言っていますが、正式には
アクセプタンス&コミットメント・セラピー
(Acceptance & Commitment Therapy)
と言います。

頭文字をとってACT(アクト)

ACTの第一人者であり、
一般向けの解説書も多く書いている
ラス・ハリスさんの言葉を借りると

「自分のコントロールが及ばないものを
 受け容れ(acceptance)、

 人生を豊かにする行動をとることを
 自己決定(commitment)する」

ためのセラピーと言えます。

元々は認知行動療法の流れから生まれ、
うつ病や慢性疼痛などの治癒を目的に
取り組まれていたセラピーです。

現在は、そうした治療目的に限らず、
ストレスへの対処や日々のメンタルケアとして
様々な場面で実践されています。

そのため、セラピーという言葉を使わず、
アクセプタンス&コミットメント・トレーニング
と呼ばれることもあります。

ACTの2つ重要な要素

先ほどの定義の通り、
ACTには2つの重要な要素があります。

アクセプタンス(acceptance)

1つはアクセプタンス
直訳すれば「受け容れること」です。

少し注意なのは、
この言葉が
「人生を諦める」
「辛抱して我慢する」
というような意味に捉えられやすい点です。

改めて訳語を見ると
「受け入れる」ではなく、
「受け容れる」となっていますね。

容器の「容」が使われています。

負の感情や苦痛を
受動的に諦め受け入れるのではなく、
能動的に自分の心の空間に、
受け「容れ」る態度
を意味します。

アクセプタンスを身につけるために、
ACTではマインドフルネスを重視しています。

コミットメント(commitment)

もう1つはコミットメント

某フィットネス会社のキャッチコピーで
聞いたことがあるような言葉ですが、
「深い関与」とか
「専念」といった意味です。

では何にコミットするのか、というと

ACTでは、
価値(人生で大切にしたいこと)へ向けて
コミットしていく、
具体的に行動していくこと

目指しています。

先に引用したラス・ハリスさんは、
ACTのねらい

「避けられない痛みは受け容れながら、
 有意義で豊かな人生を切り拓くこと」

と表現しています。

ここからわかるのは、

あなたが今抱える心の痛みを
すべて消してしまうような
「魔法」のセラピー

ではないということです。

実は、私はここが気に入っています。

「これさえやっておけば大丈夫!」
「私に任せれば全てOK!」

世の中にはそうした甘い言葉が溢れていますが、
九分九厘まやかしであると思います。

ACTを私なりにメッセージにするなら、
次のようになります。

「心の痛みがすべてなくなるわけじゃないけど、
 うまく対処して増やさないようにはできるよ」

「あなたが大切にしたいことのために
 少しずつ行動を変えていくこともできるよ」

「魔法」ではなく、
実践として効果的なプロセスが、
ACTを構成しているのです。

ACTは現実的で、
しかし悲観主義ではなく
楽観主義に基づいたセラピー
なのです。

具体的にどんな内容なの?

ではここから、
具体的な内容に入っていきます。

心理的柔軟性モデル

ACTは、次の図で示されるような、
「心理的柔軟性」というモデルを
採用しています。

いきなり
難しそうな言葉と
ややこしそうな画像が出てきました。

一つひとつ見ていきますので、
もう少しお付き合いください。


「心理的柔軟性」は、
シンプルに言えば、
心のしなやかさ」です。

私のイメージは樹木です。

木が、強い風や嵐にさらされたとき、
硬くあり続け抵抗するのではなく、
しなりながらも、強く自分を保ちます。

同じように心も、
人生の困難や心理的な苦痛に対して
ガチガチの硬い心で抵抗するのではなく、

受け流したり手放したりしながら、
柔らかく強く対応することが重要なのです。

それはACTで、
「今、ここに存在し、
 心を開き、大切なことをする」
と表現される心のあり方です。


この考え方は。
「心理的柔軟性」が欠けた状態を
想定してみると理解しやすいです。

例として、
重度のギャンブル中毒者
イメージしてみましょう。
(実在の人物は関係ありません)


その人は、
毎日開店前からパチンコ屋に並びます。

何時間もパチンコを続け、
お金がなくなっても
借金してまでギャンブルをするのです。


この方を
「心理的柔軟性」
という視点から見てみます。

パチンコをしている時のその人は、

パチンコをしながらも、
「いつか大当たりが出る」という
未来に意識が行き、

「お金がなくなっている」という
現在の状況からは目を背けています。

「この台は出る」「当てれば人生大逆転」
という考えに固執して心を閉ざし、
誰の助言も聞きはしません。


当たりが出たら、我を忘れて喜び、
はずれるたびに、「ちくしょー!」と声を荒げ、
感情に振り回されています。

そして、
刹那的な快楽に囚われ、
お金を溶かし続けるという
人生にとって大切な経験にならない行動を
し続けている。


ついには、家族の愛や信頼といった
大切にしていたものも失ってしまいます。

この人の現在が、
「心理的柔軟性」が損なわれている状態です。


イメージはつかめましたか?

モデルにあるそれぞれの要素は、
別の記事で解説いたします。

こうした人が、
ACTに取り組むことによって

「十分な気づきを持ち、
 今起こっていることを受け容れ、
 価値に沿って行動する力が増すに従い、
 人生の質も良くなっていく」


という経験をするのです。

苦痛と苦悩の違い

具体的なプロセスの説明に入る前に、
もう一つ、重要な前提があります。

それは、苦痛と苦悩の区別です。

人間、生きていれば
うまくいかなくて落ち込んだり、
先のことで不安になったりすることはあります。

そうしたものは、
心理的な苦痛です。

この苦痛は、誰にでもあるものですし、
避けられないものでもあります。

しかし、
私たちのアタマは
とてもよく進化したので、

この苦痛に抵抗して、
「なくそう」「コントロールしよう」
とがんばるのです。

その試みはうまくいかず、
かえって最初の苦痛が気になったり、
余計にいろんなことが不安になったり
して、
より大きな苦悩にしてしまう
のです。

苦痛は一次的な苦しみ
苦悩は二次的な苦しみ
と言ってもよいかもしれません。

例えば、

苦痛:上司に怒られて辛い
苦悩:辛いと思うなんて社会人として失格だ
   怒られるなんて自分はダメな人間なんだ
   上司に嫌われたから明日から仕事が不安だ


という具合です。

「上司に怒られて辛い」という
最初の苦しみを否定し避けることで、
かえって、
より大きな不安や苦しみに陥っています
ね。

繰り返しになりますが、
生きる上で、苦痛は避けられないものです。

その苦痛を苦悩にしない

つまり苦しみを余計に増やさないよう、
あるがままの状態にして、
大切な行動をしていきましょう。

それがACTのスタンスです。

まとめ

以上がACTの概要です。

まとめると、

  1. ACTとは、「自分のコントロールが及ばないものを受け容れ(acceptance)、人生を豊かにする行動をとることを自己決定(commitment)する」ためのセラピーである。

  2. ACTは、「今、ここに存在し、心を開き、大切なことをする」という心理的柔軟性モデルを採用している。

  3. ACTは、苦痛と苦悩を区別して、苦痛を受け入れ、苦悩として増大させないというアプローチをする。

もしあなたが、

「自分には、
 心理的柔軟性が足りなかったのかも」

「自分が苦しんでいたのは、
 苦悩の方だったのか」

といった気づきを得たのだとしたら、
ACTを一度学んでみてはいかがでしょうか。

ACTを構成する6つのプロセスについては、
ボリュームが大きくなってしまったので、
別の記事で、紹介いたします!


どこで学べるの?(読書案内)

最後に、
日本語で、一般の方向けに
ACTを解説している本をご紹介いたします。

ACTを体験してみたいあなたへ

ACT 不安・ストレスとうまくやる メンタルエクササイズ

イラスト付きでとてもわかりやすいので、
はじめて読む本として最適です。

筆者の武藤先生は、
日本におけるACT研究の第一人者で、
国際学会でも重要な役割を担っている方です。

漠然とした不安や焦りに悩まされているあなたへ

幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門

こちらは、読み物としてとてもおすすめ。
ラス・ハリスさんは、
本当にわかりやすくACTを解説できる人です。

ACTの基本をもう少し知りたい人は、
こちらをおすすめします。

以下は、
同じくラス・ハリスさんの著作です。

悩みごとに書かれており、
気になるものを手に取ってもらうと
よいかと思います!

人間関係に悩むあなたへ

相手は変えられない ならば自分が変わればいい: マインドフルネスと心理療法ACTでひらく人間関係

自分を責めてしまいがちなあなたへ

自分自身にやさしくすれば悩みの出口が見えてくる ――マインドフルネスと心理療法ACTで人生のどん底からはい上がる

自信が持てないあなたへ

自信がなくても行動すれば自信はあとからついてくる ――マインドフルネスと心理療法ACTで人生が変わる

「人生迷子」を乗り越えよう


ここまで
お読みいただきありがとうございます。

私、かふぃは現在、
ACTやストア哲学をベースにして、
「人生迷子」を乗り越えるためのプログラム
立ち上げております。

私が実現したいのは、

一人ひとりが、
自分が生きる上で大切にしたい
人生の指針(テツガク)を明確にして、
穏やかで充実した人生を送れるようになる世界

です。

そのためには、
「人生迷子」を一人でも減らし、
テツガクを持って生きる人を増やしていく

必要があると考えています。

noteでは、
そのための情報発信や、
背景となる理論・実践の紹介などを
記事にしております。

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