一時的な経済的な痛みに屈さず、長期的な自由の繁栄を信じよう。思想の戦いにおける進歩なくして勝利はない。
こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。最近のnote記事で紹介しているように、アルゼンチンの次期大統領にリバタリアンのハビエル・ミレイが選ばれました。
自由主義者としてこれは嬉しいニュースでしたが、アルゼンチンと自由主義者にとっては、これからがより大変です。
新大統領の政策により、アルゼンチンの失業率は一時的には上昇し経済的な混乱が予想されるからです。
自由主義者やオーストリア経済学者のいう改革には、このように短期的には倒産・失業率の上昇など経済に大きな打撃を与えます。
とくに民主主義の国では政治家は選挙で選ばれるので、短期であったとしてもこのような「改革による痛み」は、政権の支持率の急低下に直結するので政治家(とその関係者)にとっては避けたいことだと思います。
実際問題として、倒産や失業の当事者にとっては、その改革者を許せないし、大いに恨むことでしょう。
しかし、その改革による痛みを避けるならば、倒産や失業をさせないために保護や救済をすることになります。これは結局は政府によるバラマキや介入を助長するだけです。
これは日本でも同じことです。
日本は倒産や失業を避けるために、金融緩和で企業のやりくりを助け、補助金・助成金のバラマキを続けています。さらに、現行の産業を守るために、規制により新しい産業の誕生を事実上禁止しています。
時代とともに産業構造が変化するのは自然のことです。新しい産業が生まれるということは古い産業は衰退していくということです。
企業にしても、顧客から選ばれる商品やサービスを作り出せず消費者のためにならないような企業は撤退・倒産することが自然です。
衰退する産業や消費者のためにならない企業を、政府の力で無理に延命することは、誰のためにもなりません。
倒産や失業で貧困に陥った個人は救済すべきですが(セーフティネットの適切な活用)、産業・企業は助けるべきではないと思います。社会全体が停滞・衰退していくことになるだけでなく、政府による救済・介入は、政府の権力を強め結果として個人の自由を奪うことになるからです。
もちろん、日本はアルゼンチンではありません。
日本の最近のインフレは3%程度です。
アルゼンチンのインフレ率は140%です。また過去にはハイパーインフレにも陥っています。街では略奪が横行し社会は混乱しています。日本とは全然違います。
しかし、重い税金と多すぎる規制があり政府の介入が増え続けるという、ハイエクの「隷属への道」の途中である点では共通していると思います。
アルゼンチンの社会主義政策による経済の没落・混乱と、自由主義者の大統領の誕生、そしてその後に予想される自由主義的改革の困難さについては、日本も真剣に学ばないといけないと思います。
倒産や失業も出さず、でも豊かに経済成長したいという都合のいい話はありません。
社会主義的な政策を望むか、自由主義的な政策を望むか。
政府による統制を選ぶか、責任を伴うが希望のある自由を選ぶか。
困難があっても自由による繁栄や希望の力を信じる者は、それを常に訴え続けなければならないのだと思います。
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ミーゼス研究所(アメリカの自由主義系シンクタンク)のHPに2023年11月20日に掲載されたライアン・マクマケン氏の論文を下記に抜粋・要約して紹介します。
全文は下記から読めます。
Milei's Long-Term Victory Depends on Him Winning in the Battle of Ideas
ミレイの長期的勝利は、思想での戦いでの勝利にかかっている
ミレイは、マレー・ロスバード、F.A.ハイエク、そして自由市場を信じる経済学者の仕事への賞賛を表明している。
ミレイはオーストリア学派の支持者を自認している。
もしミレイが中央銀行の抑制(あるいは廃止)、減税、政府支出の削減に引き続き取り組むなら、ミレイは苦境にあるアルゼンチンの中産階級を救済する真の経済改革を進める機会を得るだろう。
中産階級の人々は、数十年にわたる金融緩和による物価上昇と、増え続ける税金と規制の負担の下で大きな苦しみを味わってきた。
しかし、ミレイの本当の試練はこれからだ。
ミレイが今、誠実であるとしても、政権が展開するにつれて彼の政策が人気がないと判明した場合、政策を実行することに消極的になるかもしれない。
また、ミレイは自分の政策がうまくいく(orうまくいっている)と国民を納得させなければならない。
これは必ずしも過半数が常に熱狂的に彼に賛同しなければならないという意味ではない。しかし、少なくとも世論を利用して立法府や強力な利益団体に圧力をかけることができなければならない。
ミレイは大統領として独裁者になるわけではないので、彼と彼の政策を嫌っている無数の社会主義者や介入主義者たちから、どうにかして譲歩を引き出すことを余儀なくされるだろう。
これは民主的な制度を持つ国だけの問題ではない。独裁者であっても、過激な政策を自由に実行できるわけではない。
歴史上の絶対主義的な君主や軍事独裁者がそうだったように、
最高経営責任者は、国家内の凝り固まった利害関係者からの激しい反対にあう。
ミレイが望む改革は、インフレと高額の政府支出から利益を得てきた多くの利益集団を傷つけるだろう。
生産者層はこのような政策で大きな被害を受けるかもしれない。有権者の中にも、ペロニスト的な経済政策から利益を得ている人たちが何百万人もいる。
改革によって自分たちが損をすると考える人々は抵抗するだろう。
ミレイと彼の支持者たちが思想の戦いに敗れれば、真の急進的な自由市場改革を成功させることはできない。
ミレイが成功できるのは、その政策が "それだけの価値がある "と国民が納得した場合だけだ。
減税や通貨インフレの制限といった改革を推し進めようとすると、政敵たちは、ミレイの政策がいかに庶民を傷つけているか、経済を破壊しているか、あるいは何らかの形で "民主主義への脅威 "であるかという説明でメディアを氾濫させるだろう。
敵対者たちは経済学者を使って、高い税金とインフレが実際にはいかに良いことかを説明する。
国民は、ミレイがいかに間違っているか、通常の社会主義者や介入主義者がいかに正しいかについて、さまざまな「専門家」から話を聞くことになるだろう。
ミレイによる歳出削減と物価上昇抑制の努力は、経済に短期的な痛みをもたらすことは確実だ。
政府支出の削減と金融緩和政策の終了は、金融バブルを崩壊させ、政府に依存した産業を衰退に追い込む傾向がある。
短期的には倒産が急増し、失業率が急上昇する。
これはもちろん、選挙で選ばれた政治家にとっては望ましくないことだ。
「この苦しみがこの先のより良い日々につながる」と国民が確信できない限り、国民はすぐにミレイと彼の政策を見捨てるだろう。
そして4年後、ペロン派が政権に返り咲き、何事もなかったかのように現状維持が進むだろう。
これに対する唯一の対抗策は、学界・メディア・そして一般大衆と、絶え間なく思想の戦いを繰り広げることである。
自由市場の知識人、活動家、コラムニスト、講演家たちは、自由、自由市場、平和についての真実を飽くことなく語り続けなければならない。
国民のかなりの部分がペロニストを「正しい」と思っている限り、自由市場の改革者は勝つことができない。
ミレイを含めオーストリア学派の経済学者を引き合いに出したり、自由市場主義の古典的自由主義の知恵を高く評価したりする人がいるのは、そうした人たちがそうした考えを何らかの教師、出版物、組織から学んだからだ。
ロスバードやハイエクなど、ミレイが尊敬しているという学者がいなければ、ミレイ・キャンペーンは存在しなかっただろう。
ミーゼス研究所のような組織がなければ、ミレイが中央銀行の廃止を求める意見を聞くこともなかっただろう。
ミーゼス、ロスバード、ハイエク、モリナーリ、バスティアといった筋金入りのクラシカルリベラリストがいなければ、税金、歳出、国家権力全体の抜本的な削減を訴える人は、事実上どこにもいなかっただろう。
このような思想闘争を繰り広げる人々は、その思想を土台とする政治運動の基盤を提供する。
しかし、このような運動は、不換紙幣がなぜ悪いのか、国家権力がなぜ問題なのか、高い税金がなぜ悲惨なのかを、国民が少なくともある程度学んで初めて成功する。
もちろん、一般大衆はこれらの議論の背景にある技術的な詳細を知る必要はない。
投票権を持つ国民が、ミレイに短期的な試練を乗り越えるチャンスを与えるかどうかは、まだわからない。アルゼンチンの自由主義者たちが、長引く親自由感情を十分に維持し、あるいは前進させることができたかどうかにかかっている。もしそうでなければ、ミレイはその政治的手腕にかかわらず、政治的に失敗するだろう。そうなれば、自由市場の活動家や知識人は、政治状況が再び有力な自由市場候補に有利になるまで、ただ闘い続けなければならないだろう。
世界の他の国々でも、状況はよく似ている。
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