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【現実的に考える】農業を強くするためには他産業の成長が欠かせない

これまで農業界隈の仕事や業界について、自分なりに調べたり経験したりしてきました。
そして去年からはnoteで色々な角度から農業についての投稿をしています。

まだまだ知らないことだらけですが、色んな人の見識を聞いたりする中で、農業は儲からない産業というのを実感し、そんな産業は本当に必要なんだろうかと最近考えるようになりました。

そこで今回は、稼げない農業の現実やそんな農業の存在意義についてまとめてみます。

先にまとめです。

まとめ
農業は先進国では保護、途上国では搾取の対象になりがちな産業ですが、先進国における農業のGDP比率は数パーセント以下です。
ですので、農業の保護を行なっていくためには農業以外の稼ぎ頭となる産業が必要です。
では、そもそも農業が国内で全くいらないかというとそんなことはなく、食料安全保障以外の観点からも食べ物を作るための土地やノウハウの継承や、農業を起点に生まれる(特に地方の)さまざまな仕事を無くさないためにも農業は国内である程度は行われる必要があると思います。

儲かる産業のない国の農業は弱くなる

先進国では保護され、途上国では搾取される

以前、農業保護について書きました。
基本的に先進国の農業のGDPに占める割合は数パーセント以下です。
それにも関わらず、農業には大量の補助金を各国が出しています。
先進国において農業は保護をしてでも守りたい産業なのです。

※ある国の経済が発展するにつれて、その国の業種別の労働力人口が、第一次産業から第二次産業、その後は第三次産業へと移っていくことをペティ・クラークの法則と言います。

その一方で途上国の農業に対する保護はあまりありません。

例えば中国は2004年まで農業に対しては「多取少予」(農民から多く取り、少なく与える)という、搾取的な方針をとっていました。
目的は農業から他産業へ労働力人口を移動させることで農業の効率化と他産業の成長を促すというものでしたが、結果として農業と他産業の間で格差が拡がってしまいました。(今は農業を保護する政策に転換しているようです)

途上国において農業というのは、他産業と比べて最も生産性が低いにも関わらず、最も多くの人が従事している産業なので、経済発展をしていくためには半ば無理矢理にでも農業者人口を他産業へ移動させる必要があるのです。

※ちなみに日本でも、戦後、農業から工業への労働力人口の移動が起き、両者の賃金格差が開いたことが農地法の改正や農業基本法の制定につながりました。

農業を守るためには他産業の成長が必要

ある国が経済発展をしていく中で農業の立ち位置は以下のように変化していくと考えられます。

経済発展の中での農業を取り巻く状況の変化

農業以外の産業が成長することで農業を保護できるようになります。
逆に言えば、農業以外の産業の成長がないと、農業は保護できないのです。

農業を成長産業にするということは、それ以外の産業でたくさんお金を集めて、その一部を税金という形で国が管理し、それを農業への補助金に充てることで輸出を促したりするということです。

アメリカなどの大国が農作物を安く大量に輸出できるのは、農業生産性の違いもありますが、こういった保護(安く売っても生産者に補助金が支払われる仕組み)があるお陰でもあります。

アグリテックが救世主になるのか

農業を成長産業にするための手段としてアグリテックも注目されています。
アグリテックについては以前、こちらにざっくりとまとめたように、一言でアグリテックと言っても非常に多様なので一括りにすることはできませんが、これらがあることで農業が他の産業並みに成長するかと言うと、個人的にはそうは思えません。

農業界自体がテクノロジー面で遅れているので、他産業では当たり前に自動化・デジタル化されていることが農業ではまだできていなかったりします。
ですので、テクノロジーを導入したことでやっと他産業と同じ土俵に立てる程度のものもたくさんあります。(自然相手・おじいちゃん相手だとテクノロジーは難しい。。)

そして、栽培の方でドローンやデータ化、機械の大型化が進んでも、中山間地が多い日本は土地生産性が低くスケールメリットを活かしてこそ意味があるテクノロジーの効果をどれだけ享受することができるかも懐疑的です。

途上国に関しては、日本と同じく一農家あたりの耕地面積が少ないケースが多く、さらに農村部では電気やインターネットが安定していない場所も多い、テクノロジーを扱える人材や修理技術がないなどの事情があるので、こういった場所でもすぐにテクノロジーの恩恵を受けるのは難しそうです。

つまり、農業が主産業の国(後発開発途上国)がテクノロジーを使って農業を成長産業にするのは難しいということです。

そもそも食べ物が余っている

農業が自身の力のみで成長することができない理由として、そもそも供給が過剰だということも言えます。

食糧危機が叫ばれて久しいですが、食品ロスとなっている分を全て人に届けることができれば、食べ物は十分に足りるというデータもあります。
生産量は問題ないけど、流通がうまくいっていないので飽食と飢餓が混在しているというのが現代です。

極論、もっと生産量を減らせば農作物の単価を上げることはできると思います。
しかし、そんなことをしていいものでしょうか。消費者として農家さんが儲かるなら自分が餓死する可能性が上がってもいいと考える人はいないでしょう。

そういう意味では食品ロス自体が問題なのではなく、必要な人に必要な分だけ食べ物が届いていないことが問題だと言えますし、食品ロスがゼロなんてむしろ恐ろしいとさえ感じます。
(ちなみに自分はご飯は最後の1粒までちゃんと食べます)

農家さんは公務員になったらいいのか

実際に、ほとんどそのような状態になっている国もあります。

個人的には、食べ物としての農作物は人が生きていくために必要な食料と嗜好品という2種類に大別することができると考えているので、そのうち前者は公務員的な感じで役所から給料を支払われる形にし、もう一方は農家さん個人がブランディングをして自由に単価設定できるなどビジネスとしての余地を残す形にするのがいいのではないかと思っています。

ただ、農家が公務員というのは共産主義っぽいニオイもするので西側諸国からの受けはあまり良くないかもしれません。
そもそも公務員への給料としての税収を生み出せるだけの別の産業の存在が不可欠なのは変わりないのですが。

他産業の成長が優先

先ほど書いたように他産業の成長が農業の強化(保護)につながるので、優先順位として高いのは農業よりも他産業の発展ということになります。

以前働いていたレタス農家さん

比較優位

比較優位という考え方があります。
これは貿易において、ある国が得意なものを大量に生産し、別の国は別の得意なものを大量に生産し、お互いに貿易をしあうことで、両者が得意なものも苦手なものも両方を生産するときよりも双方の利益が増えるという考えのことで「国際分業」とも呼ばれます。

この考え方に農業を当てはめると、土地生産性が非常に重要な農業は平地が少ない日本で行うよりも、日本の食料も含めて平地が多い他の国が行い、日本はその国の分も含めて自動車でも生産する方が両国にとってメリットが大きいということになります。

国産農作物も海外のモノを使ってできている

しかし、自国で農業をやっていないと、いざという時に食べ物が輸入できなくなり困るという意見もあり、この意見は国内の農業を保護する一番の目的として挙げられます。

では、そういった農作物を作るために必要な材料は全て国産なのでしょうか。
もちろんそんなことはなく、農薬や肥料は原料に天然ガスが使われていたり、製造の過程で大量のエネルギーが必要だったりします。
また、畜産で言うと動物のエサとなる飼料は外国産のものであることが多いです。
そして、機械の稼働や運搬に必要なガソリンも、当たり前ですが外国産です。
タネに関しては日本のメーカーが開発していても生産は海外でやっていることがほとんどなので微妙なところです。

国産農作物を消費することが日本の農業を守るために無意味だとは全く思いませんが、様々な材料を海外に依存している日本の農業を本当に守るためにはそれだけでは不十分だと言えます。

しかし、それらへの依存を一才無くして農業を維持するのは現実的ではありません。
それこそ、農業に必要な人手が増え、補助金を生み出すための他産業に回すための人手が減ってしまいます。

他産業を成長させることで外貨を獲得できる体制を作り、その上で農業を保護するというのが日本も含めた先進国が歩んできた基本ルートになっています。

そもそも農業を無くしてしまえばいいのか

結論から言うとそんなことはなく、その証拠にどの国もいくら工業化が進んだからといって農業を手放すことはせず、しっかり保護をして守っています。
食料安全保障という観点から農業が必要なのは言うまでもないのですが、それ以外にも下記のような理由でも国内で農業をする意味はあると考えられます。

「食べ物を作る」ための土地やノウハウの継承

以前にこちらの記事で書いた「多面的機能」と被る部分もあるかもしれませんが、畑や田んぼなど農業をするための土地というのは、短期間ですぐにできあがるものではありません。
耕作放棄地と言われるような土地を再生するためには機械などを入れて石や草木を取り除き、土をふかふかにして均す必要があります。(コンクリートで埋めてしまったらそもそも復帰は無理です)
さらに、質の良い作物がよくできるようにするためには土壌の状態も良好にする必要があり、それにはさらに時間がかかります。

そういったノウハウや、栽培・流通のノウハウを継承していくためにも農業はされ続ける必要があると思います。

農業から生まれる雇用

農業に関わる仕事

個人的にはこの要素は一番大切だと考えています。
先ほど、農業はGDPの数パーセント以下と書きましたが、農業から生まれる仕事を考えると、農業の貢献度はGDP以上のものがあると考えられます。

もし農産物を全て輸入するようになってしまうと、農家さんを顧客とする仕事以外にも農産物の加工、産地から消費地への輸送など特に地方の雇用機会が減ってしまうことが予想されます。

でもやっぱり他産業の成長が不可欠

国内でも農業が必要なのはやはり間違いないと思うのですが、その農業を支えるためには他産業の成長が必要不可欠です。
理由は先ほど書いた通りなので割愛しますが、農業はできるだけ効率的に行い、生産性の高い産業へより多くの人が移ることで農業のための補助金もしっかり生み出せる体制ができているというのが理想的な状態なのではないでしょうか。

最後に

今回は農業と他産業の関係性について書きました。

農業は先進国では保護、途上国では搾取の対象になりがちな産業ですが、先進国における農業のGDP比率は数パーセント以下です。
ですので、農業の保護を行なっていくためには農業以外の稼ぎ頭となる産業が必要です。
では、そもそも農業が国内で全くいらないかというとそんなことはなく、食料安全保障以外の観点からも食べ物を作るための土地やノウハウの継承や、農業を起点に生まれる(特に地方の)さまざまな仕事を無くさないためにも農業は国内である程度は行われる必要があると思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
今年もよろしくお願い致します。


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