見出し画像

【レガシー産業】アグリテック系SaaSのCSで学んだこと

先月末でこれまで勤めていた農業分野のシステム会社(カッコよく言うとアグリテック系SaaS企業)を退社し転職をしました。
そこで、これまでの経験などから得られたことを備忘録として書きます。


広すぎる農業界と業界の人でも知らないそれぞれの現場

農業界というのは広義で言うと「生産・流通・販売とそれを取り巻く諸々」と定義することができます。
しかし、それだけ広い業界のことを全て細かく知っている人なんていません。

農業法人時代の写真

私自身、大学での座学に始まり、生産現場、販売(小売)などでこれまで10年弱農業に関わってきましたが、そういった経験を経たとしても、いざ農業の流通システムを作る会社に入ると知らないことの連続でした。
農業のバックグラウンドが多少なりともあったことが仕事をする上で助けになりましたが、それでも流通現場での業務や用語など、ググっても出てこない事ばかりで経験しながら覚えなければいけないことも多かったです。
(このnoteも農業の知識を補完するために始めたものですし、今でもまだまだ知らないことだらけです)

農業は地域性が大きく出ますし、作物も多種多様です。農家さんたちの組織であるJA(農協)のような農業関係の組合もどちらかというと地域ごとにボトムアップでできた組織のため、地域ごとに業務のオペレーションや使う言葉が異なることが往々にしてあります。

そのため「この人は詳しい」という人であっても自分の業務経験の範疇でしか物事を知らないということもよくあります。

また、そういった状況で小さな組織が点在しているため業務が仕組み化されておらず属人的であり、情報公開されていることも少ないため、この点も業界を詳細に理解することを妨げる要因になっていると思います。

日本は良くも悪くも、農家、農協共に地域性が強く、総合農協と呼ばれるJAは地域のインフラという側面があります。その点は専門農協と呼ばれ、ビジネス色が強いアメリカとは異なります。

DXが進まない理由は高齢化だけではない

農業をはじめ、レガシー産業は従事者の年齢が高く、そういった方がデジタルツールに不慣れなことがDXやデジタル化を妨げていると言われることが多いですが、農産物流通に関して言えば、他にも理由があると思います。

【DXが進まない理由】
◼︎ 組織が小規模で業務に関わる仕組みや定量化ができておらず、DXに必要なデータが存在しない
◼︎ データがあったとしても組織特有であり、業界標準となるようなコードも存在しない
◼︎ 業界内でのパワーバランスが変動しやすく、DXを先導するプレーヤーがいない
◼︎ 農家さんや業界の人がデジタルツールの扱いに不慣れ

先ほど書いた通り、日本の農業に関わる組織は比較的小規模であることが多く、組織の成り立ちもボトムアップであるため、業務も属人的であることが多いです。
そうなると仕組み化や定量化自体が苦手である組織が多く、DXの土台に乗ることすら難しいケースも少なくないです。
※そもそも業務が属人的なので定量化したところで異なる組織間での比較や標準化が難しいのです。

上記の背景のため、業界で使われているデータ(農産物や規格のコードなど)も組織特有のものであり、業界標準となるようなコードが存在せずコードマッピングもできていない状況です。
※「山茶茸」というキノコのコードがそもそも存在せず「マッシュルーム」と同じコードを使ってしまっているというケースもあります。

また、天候という人間には抗えない外部要因によって業績が大きく左右される農業界では、業界内でのパワーバランスが変動しやすく、DXのために業界を引っ張るリーダーとなるプレーヤーが現れないということも理由として挙げられます。

そして農家さんや業界の人たちがデジタルツールを使用することに不慣れということももちろん理由として挙げられます。

DXよりもその前段であるデジタル化や業務の平準化、ツールに慣れてもらうことを進める必要があります。

デジタル化を進める過程で苦戦すること

農産物流通業者のデジタル化を進めることで業務負担を削減したり、付加価値を生むことをミッションに仕事を行なっていましたが、やりがいというか苦戦することも、やはりありました。

【デジタル化を進める過程で苦戦すること】
◼︎ 業界の理解に時間がかかる
◼︎ 成約するまでの期間が長い
◼︎ ツールを利用する人(職員や組合員)が乗り気でない場合、事業者内でのツールの利用促進や浸透にはかなり時間がかかる
◼︎ WEBマーケティングが全く効かない

まずは先ほどから書いている通り、業界の理解に時間がかかります。
ググっても決して出てこない地域や事業者によって異なるオペレーションや用語をしっかりと理解する必要があります。
まずは業界について書かれたマニアックな本を読んで大枠をつかみ、個社ごとの業務については図示を行い、他の事業者との違いをイメージで明確に分かるようにすることが効果的だと思います。
現場百回という言葉もありますが、上記のイメージがない中で現場に行っても得られることは多くないと思いますので、現場ではイメージしたことがその通りに行われているのかを確かめるつもりで行くくらいがちょうど良いと思います。
あとは仮に個社のケースを詳しく知ることができても、それは1ケースであり全てではないと認識しておくことも必要かなと思います。

成約するまでの期間が長いことも苦戦する要因でした。
私自身はCSだったため、そこまで営業をガシガシやっていたわけではありませんが、特にJAの場合、株式会社ではなく協同組合という組織の性質上、承認を得なければいけないプレーヤーが多いのです。
そうなると意思決定に時間がかかることはもちろんですが、その決済フローや誰からお金をいただくのかも事業者によって異なるので、そこも成約までの時間を短くすることができない要因となっていました。
※一例として、課長(JA職員)、部長(JA職員)、組合員(生産者)、役員(生産者)などのプレーヤーがいます。

CSの観点で言うと、この業界に限った話ではありませんが、実際にツールを利用する人(職員や組合員)が乗り気でない場合、事業者内でのツールの利用促進や浸透にはかなり時間がかかる点が、一番の課題でした。
せっかく成約までいっても、実際に利用するのは決済者や意思決定者ではないケースが多いため、半信半疑でツールを利用し始める人や、最初からあまり使えないと思っている人も少なくありません。
業界の人であればデジタル化をしなければいけないと言うのは、100人中ほぼ100人の人が賛成をすると思いますが、実際にやろうとなると「本当に業務改善につながるのか」「高齢の生産者が多く使えない」などのネガティブな声が挙がることも少なくありません。
事業者の担当者次第になってしまいがちですが、ここをどう乗り越えてどんな事業者でもデジタル化による業務改善を実感してもらえるようにするのかがCSの腕の見せ所だと思います。(自分があまりできていたとは思いませんが)

最後にマーケティング面で言うと、WEBマーケティングが全く効かない業界というのが苦戦というか印象深いことでした。
SaaS関連の情報を集めるときは基本的にインターネットを使い、社内ではslack、notion、種々の開発者向けツールなどを使っていましたが、顧客とのやり取りが電話がメインです。
メールをした後に電話をするということも日常的に行っており、マーケティングの分野でもWEB媒体やWEB広告よりも業界の新聞に載ることが一番の効果がありました。
また、業界内での横のつながりも強いため、導入事例もよく効きます。
この辺りはレガシー産業と呼ばれる業界では共通しているのかなと思います。

発展途上国では農業のデジタル化の前に流通の構築が必要な気がする

ネパールのある村での田植え風景

実はこの記事は香港の空港から書いており、これからネパールへのフライトが待っています。

これからは生活の拠点を現地に移し、現地で農業に関わる仕事を行うのですが、ここまで農業の現場を日本で見てきて、途上国の農業のデジタル化についても考えることがあります。ただ実態を詳しく知っているわけではないのでその辺りはこれから書いていこうと思いますが、日本の青果流通は現在でもデジタル化さえしていないものの仕組みとしては素晴らしいと考えています。

日本のように生産者の規模が小さく、小売業者の規模もそこまで大きくない国ではアメリカやヨーロッパのような流通の仕組みを作ることは難しく、もっと平たく言うと問屋が必要なのです。

そして、日本のような生産者と小売業者の規模の関係性は他の多くの途上国でも同じことが言えます。
これまで発展してきた国々は、税金や金融関係の政策事例を除けば、農作物や工業製品の大量生産が可能な国でしたが、そういったことができない途上国がこれからは発展をするポテンシャルがある国なのです。

その時に農産物流通や農業において必要なのは、悪役にされがちなブローカーを含めた流通の最適化だと思います。

より具体的なことはこれから書きますが、途上国が日本の農業から学べることは多いと考えています。

最後に

今回は、前職のシステム会社での業務について書きました。
日本の青果流通は半世紀前に仕組みに未だに頼っている部分が多く、FAXや電話、手書き手入力が日常茶飯事ですが、だからこそ課題も大きく、解決した時のインパクトも大きいです。
そして、既存の日本の農業やその発展は途上国においても活かせる点が多くあります。

次回からはネパールについての更新が増えると思いますが、これからもよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?