見出し画像

【日本も昔は同じだった?】発展途上国の農村でよくある「ブローカー問題」について

貧困・飢餓人口の約80%が農村部で生活しているというデータがあります。
これは途上国の実態を明らかにしていますが、途上国の農村部の人が貧しい根本的な原因は現金収入が(ほとんど)ないことです。
なぜ現金収入がないのかというと仕事がないからです。厳密には農業がありますが儲かるような農業はできていません。

なぜ儲からないのか。
栽培品目・栽培技術・資材費・高利貸し・物流などこれまた原因は色々とあるとは思うのですが、「高く売れない」というのが大きな問題の一つだと思います。

ではなぜ高く売れないのか。
そこにあるのがブローカーの存在です。
「ブローカーが農作物を安く買い叩くので農家の手取りが少ない」という問題はよく聞きます。

一体どうしたら解決できるのか。
開発の専門家でもなんでもありませんが、考えてみたいと思います。

※今回の記事では「途上国」と一括りにしていますが、地域によって千差万別なのは百も承知なのであくまで1つのよくありそうなケースとして捉えていただけると幸いです。

先にまとめを載せます

まとめ
最近流行りの市場外流通は日本以上に厳しそうで、
農協を作ったらブローカー問題は解決しそうですが、農協にも課題はあります。

日本と途上国の農産物の流通経路の違い

まずは流通経路の違いです。

農作物の流通経路

日本は農協が集めて卸売市場を経由するスタイル

何かと農協(JA)が悪者にされがちですが、それでも依然として日本の農産物取引の過半数は農協経由だと言えます。国産青果の市場経由率も約8割です。
反対に消費者への直接販売は10%未満です。
直感的に仲卸業者がいらない気もしますがそれについてはこちらを読んでいただければと思います。

途上国はブローカーが集めて卸売市場や小売業者を経由するスタイル

途上国の辺境地では依然として農作物の販売をブローカーに頼らざるを得ないケースが多いわけですが、販売先を自力で開拓できないのであればブローカーに頼らざるを得ません。
ブローカーもある意味、独占が許されている状態なので農民から売られなくなる限りはできるだけ買取価格を抑えたいと思うのは人の性でしょう。ブローカーが悪いとかではなく極めて人間的な自然な行動だと思います。

中間業者がいなければ良いのか

直売所やネット販売など従来と違う新しいやり方で農作物を販売する取り組みが昨今増えています。これらは上記の問題の解決策になるのでしょうか?(誤解のないように先に書くと、直売所もECも素晴らしい仕組みだと思っています)

直売所の問題点
・売れ残りのリスクがある
・農家が店頭に立つ場合、交通費、人件費、販促費等がコストになる
・販売先が遠い場合、送料がかかる
・消費地が遠い場合、顧客が交通費や人件費を負担することになる

ネット販売の問題点
・顧客とのコミュニケーションが必要
・手数料・送料が消費者のコストになる

近年出てきた新しい販売方法は、これまでのような画一的な農業のあり方に対してのアンチテーゼのようなものだと考えています。
そもそも日本は小規模農家が多く、一軒の農家だけで販売をするのは非効率なのでみんなで集めて売った方がいい(共同販売)。そしてそのためには統一的な規格があった方がいい。そのような考えのもとで生まれたのが農協なので、目で見てわかる大きさや形が規格になるのは当たり前のことです。

インターネットを使うことで個人で販売するコストが下がり、農作物も量から質の時代へ移る中で生まれた新しい需要に対して答えるための試みが直売所やネット販売などの新しい販売方法です。

とはいえ、日本の場合、販売にかかる総コストが低いのは今でも卸売市場を経由した場合です。
この傾向は日本のような農家も小売業者も比較的小規模でまとまっていない国ほど大きく、今回参考にしたネパールもまさに同じです。

もっと直感的にイメージしてみても、農作物を売るどころかほとんど村から出たことさえない村人が商売っ気の強い人がわんさかいるマーケットで自分の農作物を販売したり、電気や電波も快適とは言えない状況の辺境地でネット販売を行う(しかも運ぶのは誰?)のは結構、無理があるのではないでしょうか。

日本も昔は同じ問題を抱えていた

「ブローカーが買い叩くため、農村部の人たちは貧しい」
この定説は何も現代の途上国にだけ存在する問題ではありません。
農業に使える土地が少なく、農作物の大量生産にや農地の集約に不向きの日本でも昔は同じ問題を抱えていました。

ブローカーが国のインフラに一部になった中央卸売市場

中央卸売市場ができる前の日本でも、情報の非対称性や保護による問屋の地域独占、輸送技術や輸送道路の未発達による限定的な商圏により生産者・消費者は共に問屋に対して弱い立場をとっていました。
また当時は農作物の流通に対して国が関与することは少なく、関与したとしても冥加金が目的でした。

その後、米騒動に代表されるように農作物の小売価格は高騰し、いよいよどうにかしなければいけないということで、高騰した小売価格を是正する目的で中央卸売市場ができました。
そして地域で幅を利かせていた問屋たちは卸売業者や仲卸業者となり現在も続く安定的に農作物を流通させるためのインフラの一部として卸売市場内で重要な枠割を与えられたのです。

日本型の農業協同組合の誕生

戦後、GHQによる農地改革が行われると、それまで土地を持たなかった小作人にも農地が与えられ、戦前から組織されていた産業組合の流れも汲む形で全国に17,000以上の農協が誕生しました。
日本の農業は複合的で、欧米の専門的な農業と比べると違いがあるため、農協の組織形態を巡ってGHQと農林省でぶつかった部分もあったようですが、最終的に日本は欧米とは違う「総合農協」というスタイルを定着させました。
(対して、欧米は品目や組織が限定的な専門農協が基本で組合員は地域を超えて複数の農協に属します。)

いずれにせよ、農協が組織されたことがその後の食糧増産や農家の所得向上、そして日本の戦後復興への大きな足掛かりとなりました。

途上国の農村に農協を作ればよい?

途上国でも卸売市場は既にあるので、先ほどの流通経路の違いに着目すると「ブローカーを農協に変えてしまえば良いのではないか」と素人的には思ってしまいます。理屈で言えば以下のような効果が期待できます。



共同販売により小規模農家でも販売力がつく

ブローカーも「集めて売る」ということはしていますが、農協は農家のための組織なので実際に集荷や運送にかかる費用や組合を維持するために必要な費用を除けばブローカーのように誰かの懐にお金が逃げるようなことは考えられません。

資材などの購買も共同購入により安く手に入る

共同購入もバイイングパワーを活かすことができるので小規模農家が個々で必要資材を買うよりも低い値段で買えることが期待できます。
買うタイミングを揃えることができればその効果は尚更です。

農家が欲しい設備や機能が手に入る(貯蔵施設・加工施設・共済金制度など)

その他あらゆる面でお金の使い道が「農家のため」になるので小規模農家が個々では買えないようなものをお金を少しずつ出し合って設備投資などをすることができます。

実際はどうなのか(ネパールの例)

ブローカーに売ってもらうよりもメリットが多そうに思える農協ですが、実際に途上国で農協という組織は作られているのでしょうか?
ネパール人で現地の農協について研究もしていた知人に聞いてみました。

首都カトマンズからそう遠くないところにある農地

ネパールでも農協は増えている

ネパールでも農協は増えているようです。
協同組合自体が2005年〜2015年の間で4倍近く増えており、現在はそれ以上に増えていることが予想されます。
農業協同組合も品目の制約がない総合的なものから、コーヒー・オレンジ・酪農など専門農協に近い形態をとった農協まで幅広く存在します。
また、農協がない地域でも教育に必要な道具を買うための組合などを組織することはしているようで「組合」という概念自体はネパールで広く伝わっているようです。
※ネパールでの農協の設立にはJICAなど日本の組織も大きく関わっています。

農協があることによる効果

上で書いたような効果(販売力の向上など)は確かに得られているようで、実際にブローカーがいる場合、もしくはいない場合と比べても農協で販売を進めた方が農家の収益性は上がるようです。
規模の大きい農協では専属の職員も普及員として存在します。

これからの課題

農協は増えており、期待通りの効果を発揮している農協もあるようですが、課題もまだあります。

  • 農協の設立に対して補助金が出ることがあるので、補助金目的で農協を作る者がいる

  • 農協の規模が大きくなると政治家との癒着が生まれる

  • 地域間格差が大きく、農協のレベルが低い、そもそも農協がない地域もまだ多い(山奥などの辺境地では生産性に乏しくブローカーすら不在)

また、そもそもネパールは若者がどんどん国外へ出て行ってしまう国です。そのような若者も多くは農村部の出身のため農村部の若者離れは深刻です。
最近では一家揃って国外移住するケースも増えています。

最後に

今回は途上国の農産物のブローカー問題について考えました。
途上国の問題と言うと、何か全く関係ないことのように考えられがちですが、どの国も「発展途上」を経験していることは間違えないので歴史を振り返れば、同じような経験をし、それを乗り越えて現代に至っているというケースは意外と多いと思います。
特に日本は農業に使える土地が少ない、災害が多い、人口が比較的多いという点ではネパールと共通しており、途上国が発展するためのヒントが多く隠されていると思います。

日本は日本で少子高齢化や人口減少など新たな課題を抱えていますし、日本の発展が全て正しいとは思いませんし、グローバル化した現代では問題がより複雑化していますが、現在の途上国が直面している課題について考えるときは、似たような課題を先に経験してきた日本の歴史を見てみることも重要なのではないかと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?