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いま日本で一番売れているゲーム『キノコ伝説』はどういうゲームなのか?

今年の2月ごろ、ある広告動画がSNSで話題になっていた。

『キノコ伝説』の「キノキノも遊ばない」である。

また、この1か月ほど前『パルワールド』が大ヒットする中、『ポケットモンスター』や『ゼルダの伝説』を連想させる広告で(悪い意味で)話題になっていたのも『キノコ伝説』である。

人気タイトルの模倣・3000連ガチャ・Nintendo Switchプレゼント…これらの広告の大量配信に「よくあるパターンね」と思った人も多いだろう。そんな『キノコ伝説:勇者と魔法のランプ』だが、2月23日にリリースされ、大ヒットを記録している。

『キノコ伝説』のヒットぶりは、「売れている」と言った表現では生易しい。
売上額は公表されていないが、調査会社Sensor Towerのデータによれば、スマホゲームの中で国内の週間売り上げが、5位→2位→4位→1位→3位→2位→2位→2位→3位と推移。月間でも、リリース翌月の3月は周年キャンペーン中の『ウマ娘 プリティーダービー』に次ぐ2位となっている。

『キノコ伝説』は、リリース2か月半で、恐らく100億円以上の売り上げを獲得していると思われる。ペースが急激に衰える気配も今のところはない。『モンスターストライク』に並んで、いま日本で最も売れているゲームの1つと言っても過言ではないだろう。

さて、そんな『キノコ伝説』だが、実際どういうゲームなのか知っている人は意外と少ないかもしれない。『キノコ伝説』は放置RPGと呼ばれるジャンルだが、このジャンルは熱心なゲーマーには縁遠く、プレイしたことがない人も多いだろう。

筆者は、2022年に『最強でんでん』のレビューを書いており、それからもいくつかの放置RPGをプレイしてきた。今回『キノコ伝説』の大ヒットを受け、『キノコ伝説』と放置RPGの魅力を改めて紹介したい。


キノコ伝説の概要

『キノコ伝説』は、『放置少女 - 百花繚乱の萌姫たち』『最強でんでん』『ドット勇者 三時のおやつと昼寝付きの冒険』などの放置RPGの中でも、比較的シンプルなタイトルだ。

メイン画面。上半分が戦闘で、自動的に進行する。下半分は装備。

ゲームが始まると、自動的に戦闘が始まる。エリアのボスに挑戦し、ボスを倒すと次のエリアに進める。
また、ゲームを起動していようと、していまいと、キャラクターの育成に用いるリソースを時間に応じて獲得できる(起動しない「放置」によって報酬を得られることが、放置RPGの大きな特徴である)。この報酬量は、先のエリアに到達しているほど多くなる。そのため、

放置 → 報酬の獲得 → 育成 → ボスの撃破 → 報酬量の増加

を繰りかえすのが、『キノコ伝説』も含めた放置RPGの基本だ。

多くの放置RPGでは、ボスへの挑戦は手動で行うものだったが、『キノコ伝説』ではボスへの挑戦も自動化され、ゲームを起動しておくといつの間にか先のエリアに進んでいる。ボスに敗北した場合、手動で再挑戦できる。

『キノコ伝説』の育成要素は主に「装備」「技能」「仲間」の3つだ。

装備:画面下部中央のランプをタップすると、装備品がランダムに1つ出てくる。出てきた装備品は、装備するか、売却してお金と経験値に変換するかをその場で選ぶ。なお、この工程は全て自動化可能で、ランプを自動で擦り続け、事前設定した条件に合致していない装備品を無確認で売却することができる

技能・仲間:ガチャチケットや宝石を消費して、ガチャを回して入手する。同じ技能や仲間を複数入手した場合、そのスキル・仲間のレベルが上がる。装備スロットがあり、手持ちのものから選んで装備する(しかし、序盤は自動編成でも支障はない)

ランプ・ガチャチケット・宝石は、放置やミッションの達成などで入手できる。つまり、ガチャを回して、キャラクターを強化し、ガチャを回す。これが『キノコ伝説』である。

キノコ伝説の特徴

『キノコ伝説』はガチャを回すだけのゲームだが、ガチャ自体のレベルが上がるという大きな特徴がある。

ガチャ画面

画面中央にゲージが表示されているが、ガチャマシンにはレベルがあり、回した回数に応じて上昇する。レベルが上がると、高いレアリティの技能・仲間が出やすくなる。

ランプも同様に、レベルを上げることで強力な装備品が出やすくなる。ランプのレベルは、不要な装備品を売却したときに得られるお金を消費して上げるため、これも技能・仲間のガチャと大差ない。

『キノコ伝説』が初出かは分からないが、これは興味深い特徴だ。ガチャは概ね射幸性を楽しむもので、スマホRPGの楽しみの多くを占めている。しかし、ひとたび強力なアイテムを入手してしまえば、ガチャの楽しみはなくなるし、ゲームのほかの楽しみも壊してしまいかねない。
ここで言う「ほかの楽しみ」は、多くの場合、キャラクターが育ち、強力な敵を撃破できるようになるなど、ゲームの「進行感」である。スマホRPGは、射幸性と進行感が楽しさの基盤になっている。

ガチャのレベルアップシステムは、ガチャ自体に進行要素を付け加えることで、ガチャの楽しみの比重を射幸性から進行感にシフトさせている。
『キノコ伝説』はガチャを回すだけのゲームだが、射幸性は広く薄くまぶしてあるだけで、進行感が軸となっていると言えるだろう。

ソーシャル要素

いわゆる「ソシャゲ」と言われていたころ、モバイル・スマホRPGで射幸性・進行感と並んで重視されていたのが、プレイヤー間の競争・協力・交流を図るソーシャル要素だ。
社交的な楽しみは(少なくともゲームの内部では)以前ほど重視されなくなったように思えるが、『キノコ伝説』は近年のタイトルの中では、社交的な要素が重視されている。

サーバーを細かく分割し、ゲーム開始時期の近いプレイヤーを集めることで、プレイヤー間の競争を活発化させている。プレイヤー間の対人戦(戦闘はオート)やギルドシステムもある。ホーム画面から見れるロビーチャットもある。これらは放置RPGの定番システムだが、これ加えゲーム内SNS「モーメンツ」が実装されている。

ゲーム内SNSの公式アカウント

現状はややレスポンスが悪いのが難点だが、フォローしたアカウントの投稿や、人気の投稿、同じ都道府県の人の投稿を見ることができる。画像や音声も投稿でき、数千人のフォロワーがいるアカウントもいくつか見受けられた。

投稿された画像は、表示されるまでに運営による審査があるが、一時期「違法な画像」が氾濫するなど、モーメンツは運営にとってコストもリスクも高い機能だ。コストのかけかたが妥当かは分からないが、『キノコ伝説』がプレイヤー間の交流に力を入れていることは明らかだ。ちなみに、MMORPGによくある結婚システムもある。

マネタイズ

マネタイズは主に、デイリー報酬の増加など様々な特典が得られるサブスクライブや、買い切りの特典パス、バトルパスのアップグレード、特定エリアのクリアでポップする「お買い得」商品、イベント時の商品など。

特典パスとエリアクリア時の商品

また、「広告免除カード」があることから分かるように、広告を視聴することでリソースを獲得できる箇所も多く、広告からもそれなりの収益を得ていると思われる。
ガチャチケットや、ランプを現金購入することも可能だが、メインとなるお金の使い方ではないと思われる。

放置RPGを見直そう

筆者は『キノコ伝説』のプレイ経験が浅いため、これ以上細かくゲームの中身は論評しないが、日本のゲーム企業が放置RPGを過少に評価しているように見えることは指摘しておきたい。

『キノコ伝説』は、韓国や台湾で日本より先にリリースされ、ヒットしている。また、日本でヒットした海外産の放置RPGには『放置少女』『魔剣伝説』『AFKアリーナ』『ドット勇者』などがある。

『最強でんでん』『ドット勇者』『キノコ伝説』は、いずれも海外で先にリリースされているが、日本リリース時には大規模なプロモーションが行われている。実績を積みブラッシュアップしたものを、より市場の大きな日本で垂直立ち上げするのは合理的だし、恐らく「勝ちパターン」として認識されているのだろう。さらに、日本は放置RPGの1ダウンロードあたりの収益が、ほかの東アジアの諸国の2倍以上あることも明らかになっている。

この中、国産の放置RPGのヒットと言えば『メメントモリ』、甘めに見積もっても『乃木坂的フラクタル』くらいしか思い浮かばない。

昨今、スマホゲームの開発費が高騰しているという声が、SNSなどで聞かれるようになった。
確かに、『原神』『崩壊:スターレイル』(そして『ゼンレスゾーンゼロ』)などのハイエンドタイトルとの開発競争から脱落しつつある現状は問題かもしれない。しかし、『キノコ伝説』から明らかなように、射幸性・進行感・ソーシャルの三本柱を研ぎ澄ませたゲームにも、商業的なポテンシャルは十分にある(あるいは、あった)し、それをものに出来なかったことも別の問題としてあるのではないだろうか。

思えば放置RPGは、一昔前のいわゆる「ソシャゲ」の発展形のようなジャンルだ。スマホRPGがリッチ化し、それまで実現できなかった様々な楽しさが実現される中、元々プレイヤーが好んでいた射幸性・進行感・ソーシャルの価値の向上が蔑ろにされた面はないだろうか。
「ソシャゲ」は、熱心なゲームファンや、一部の開発者から見下され、馬鹿にされることがあった。しかしながら、そのゲームを楽しんでいたプレイヤーが数多くいたことも事実である。プレイヤーが求めていた価値の提供を、もしゲーム企業自身が疎かにしていたのなら、反省してしかるべきだろう。

しばらく操作しないと節電モードになるという便利機能もある。右の画像はゲーム内イベントの抽選画面。ここでもNintendo Switchが配られている。ゲーム内に写真が載ってるのはまあまあ凄い

放置RPGのプロモーション

さらに、プロモーションの面でも放置RPGは巧みな面がある。先ほど『キノコ伝説』が、『ポケットモンスター』や『ゼルダの伝説』を連想させる広告で(悪い意味で)話題になったと書いたが、『ドット勇者』はこの種の広告をさらに過激に実行している。

『ドット勇者』はこの広告について「委託先がやりました」という旨の謝罪文を掲載しているが、実はこの2か月前に韓国でも同じ問題を起こし、同じような謝罪をしている。

これは、わざとと言われても仕方がない。『ドット勇者』はこの後、広告方針を改め、正式リリースし、ヒットし、『ペルソナ5ザ・ロイヤル』などともコラボする「立派」なタイトルになるわけだが、多くの人の怒りはふつう1、2か月も持続しないため、まず炎上リスクのある広告で認知度を高め、リリースが近づいたら真っ当な広告で勝負するという戦略があるのかもしれない。

この視点で『キノコ伝説』を見てみると、法的問題が発生しないギリギリの範囲でプチ炎上を起こした後、リリース直前にはクリエイティブの面白さで再度バズっている。また「Nintendo Switchプレゼント」「無料数千連ガチャ」も2023年ごろからよく見るようになった流れだ。

「パクり」広告をやれとは言わないが、SNSやYouTubeなどのゲームの広告は、はっきりとトレンドがあるし、セオリーも固まりつつあるように見える。筆者は、プロモーションの専門家ではないが、この点でも国内企業の出遅れを感じる。公式Discordの運営も今やオーソドックスな施策だが、国産タイトルではまだまだ少ない。

もしかしたら、国内企業はmiHoYoやTencentのような大規模な開発・運営と、放置RPGやハイパーカジュアルのような機動的・投機的な開発・運営との狭間で身動きが取れなくなっているのかもしれない。

まとめ

『キノコ伝説』を筆頭に、放置RPGは、ゲームの中身もプロモーションも、低クオリティの、不真面目な、プライドのないものに一見感じられる。しかし目を凝らして見てみると、日本展開における再現性や、積み重ねられたノウハウ、ゲーム内の細かな工夫が無数に浮かび上がってくる。

不真面目な見た目はカモフラージュであり、その裏には狡猾な戦略が張り巡らされている。そう、「キノキノは遊ばない」のだ。

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