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男でも女でも年齢でもなく「僕」で在る

「女なのに〇〇が好きなの? それってオナベじゃん」

記憶にあるかぎり初めてジェンダー的価値観の強いからかいの言葉をかけられたのは、僕が7歳の時だった。

僕にその言葉をかけてきたクラスメイトは、「オナベ」も「オカマ」も知らなかった僕が「どういう意味???」と困惑していると、意味まで説明した。

その時の強烈な違和感を覚えている。


「僕は、『間違って』いるのだろうか?」
「それって変じゃないかな」


一方で今以上に繊細で、語彙力がなくて、非難や批判を浴びることを極端に恐れていた僕は、その違和感をうまく言葉にすることも、正しい感覚として認識することもできなかった。

ジェンダーにそぐわないことが悪いことであるかのように、それはからかいの対象になりうる行動だと認識しているらしいクラスの雰囲気に呑まれて、「そうなのかな」と自分の方を否定する感覚をうっすら持ち続けることを無意識に選択してしまった。


年齢だって同じことだ。

テレビ番組などで年若い才能ある誰かを取り上げるとき、スタジオのコメントでよく語られる「⚪︎歳とは思えない」というフレーズに僕は無性にイライラする。

それは才能ある誰かを褒めているようでありながら、同い年の人々を下げて、その人が目立つように見せかけるだけの言葉だ。

いったい大人は「⚪︎歳」をなんだと思っているのか。
その「⚪︎歳」の人たちだって一生懸命に色々なことを感じ考えながら生きているのに、まるでその才能ある個人以外は何も考えていないかのように。

僕は10代に差し掛かった頃から、いやあるいはそれよりずっと前から有名になりたいと思い続けているけれど、ある懸念がずっと頭の片隅に存在し続けていた。
「もし有名になって、テレビとかに呼ばれたら、僕も『⚪︎歳とは思えない』というお決まりのフレーズで褒められた感を出されてしまうんだろうか」

最初のころは「そういうものなのかな、『ありがとうございます』って言わなきゃいけないのかな」などと漠然と考えていたが、中学生あたりから考えを変えた。

「もし僕がその言葉を投げかけられたら、『それって失礼じゃないですか?』ってはっきり言う人になろう」
場の空気が凍ろうが、かまわない。



なんだかんだやっている間に気づいたら成人式を越え、気づくと僕は「年齢によって舐められづらい」世代になろうとしている。

大声を張り上げなくても周りの人が話を聞いてくれるようになって、しかも耳を傾ける態度には「大人」という一個人に対する尊重みたいなものも感じられて……つくづく「嗚呼、子どもは、子どもだった僕は尊重されていなかったんだな」と日々痛感する。やるせない気持ちになる。


けれども僕は完全に自由になったわけではないことも知っている。


世界の変化はゆっくりで、まだ選択的夫婦別姓も同性婚も日本では認められていない。
同性カップルに対する偏見や心無い言葉を見かけることもまだまだある。世界は男性は泣かずに強くあり外で働くことを、女性はヒステリックで3歩下がってついていって家と夫と子どものために無私の精神を発揮し続けることを、暗に求め続けている。

かくいう僕もこれまでの半生で内面化してしまったジェンダー規範から完全に自由になれていなくて、自分につらく当たってしまうこともまだまだ多い。

僕は役所の書類などで「男・女」のどちらかに丸をすることには抵抗があまりない。だがそれはあくまで手続き上での話であって、実生活の中で性別やジェンダーというフィルターをかけた目で見られることにはものすごく強い抵抗がある。


僕は肉体的性別である以前に、ジェンダー的性別である前に、「ミレニアル世代」である前に。「僕」という一個人だからだ。


僕が「僕は僕だ」という強い意志を持ち続けていないと、「自分は本来何にも規定されない一個人である」という意識を保つのがとても難しい。社会の方はすぐ分類し、ふるいわけ、その属性の「役割」を押し付けようとしてくるから。

まだ抵抗するのには強い意志が必要で。でも本当は「強い意志が必要なんておかしい」と思っていて。

だってみんなが何にも規定されない一個人のはずなのに、「そう在る」ことに思想的努力が必要なんて不自然ではないか?

ちょっとでも気を抜けば社会の思想がどっと押し寄せてきて、軟弱な決意が容易にさらわれそうになってしまう。僕はときどき一個人で在ることを忘れる。


だから思い出すたびに決意を新たにする。

僕は「僕」だ。

まだまだ世の中が僕を属性や役割から解放し切ってくれないのなら、決意を表明しつづけることで抗おう。僕の声が、言葉が遠くまで響くように語り続けよう。

そしてあわよくば、僕の決意を輝かせて同じ決意を持つ人の灯台のようになろう。


僕が何を好きでも嫌いでも、きっと僕は間違っていないから。

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