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【短編小説】猫

社会人3年目の夏のことだった。
家の近くに野良猫が居ついた。

雨の日には軒下で雨宿りをし、晴れた日には
隣の畑で寝転ぶ姿を見かけた。
向こうも段々と私にも慣れてきたのか、
仰向けに寝転んであくびを
している姿を見せてくれる日もあった。
猫はいつも自由に暮らしていた。

私も遠巻きに見守るうちに
「なんだか最近痩せたか?」
「冬毛になったからかもこもこに見えるな…」
など猫の変化に気付くことも多くなった。

仲の良い友人にそんな猫の様子を報告したり、
写真を送ったりと私自身、この猫との
つかず離れずの生活が心地よかった。


ある夜からぱったりとその猫の姿を見かけなくなった。
路地裏でも近所の公園でも、隣の畑でも見かけなくなった。
ここではないどこかの夜の闇に紛れているのか、朝もやの中に溶け込んでいるのか。
誰にもわからなかった。


飼い猫であったわけでもなく、膝にすり寄られる程
なつかれていたわけでもない。
ただ淋しさだけがそこにあった。


あれからも変わらない朝が訪れる。
うだるような暑い日も肌寒い風の吹く日も、私は
あの猫を見かけた路地裏や軒下にふと目を向けてしまう。





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